梁の上の神様
-神様にしては、ちょっと頼りない三人の正体は―-?。
-昔―-ある村に、
-吾助はある時、村おさの世話で、お
-ただでさえ貧しかった吾助の台所は火の車となり、食べ物は底をついた―-。-せっかくもらった嫁を里に帰すのがためらわれ、吾助は思案しておったが―-。
-その夜の事―-ふと目覚めた吾助は、梁の上から何やら、ひそひそと話す声がするので柱を登ってみたが、ねずみの様に小さな二人の男と一人の女が喋って居った―-。
-吾助は驚いて落ちそうになったが、こらえて三人の話を聴いた―-。
-「この家も、食い物が無くなったのでは、我らも居れん様になった―-」「長きにわたって世話になっておる家じゃ―-」「何とかして当座に入り用の金を工面せねばいかんな―-」と三人は相談していた―-。
-「神様じゃ―-!-ありがたい事じゃ―-」そう思った吾助は、そっと柱を降りると、ひもじい腹を抱えて眠った―-。
-翌朝―-吾助の家の前には朝日を浴びて立つ、背の高い男、美しい女、小柄な男の、一見、夫婦者が子供を連れている様な三人の姿があった―-。
-背の高い男は
-しばらく行くと三人は、鯖売りの男が大八車に沢山の鯖を載せているのに出くわしたが、坂道で難儀をしておったので、泥庵と檜は後ろから押してやった―-。
-「すまんの―-なんと親切な人達じゃ―-」と鯖売りは喜んだが、今度は大八車の片方の車輪が外れた―-。
-鯖売りは「これは困った―-鯖はあしのはやい魚じゃ―-こんな所でもたもたしていたら腐ってしまう―-」と焦っていたが、泥庵達も手伝って、夕方には何とか大八車を修理し、宿場町を目指して動き始めた―-。
-ところが、その矢先、鯖売りと泥庵らは、突然現れた山賊の一団に取り囲まれてしまった―-。
-鯖売りの男は、棒を持って抵抗したが、一刀のもとに斬り殺されてしまった―-。-それを見た泥庵達三人は、抵抗せず言いなりになった―-。-山賊の頭目は御木を見ると「上玉じゃ―-」と喜び、縄で縛って逃げられない様にした―-。-そして泥庵と檜に大八車を引かせて、自分たちの根城の近くまでやって来た―-。
-小川の上流に、竹で編んだ骨組みに、むしろを被せた小屋が数軒並んでいたが、そこまでは大八車が通れないので、泥庵と檜は、剣を構えた山賊に牽制され、鯖の入った袋を担いで何度も険しい坂道を往復して運んだ―-。
-そして、総ての鯖を運び終えると、用の済んだ泥庵と檜は木の幹に縛り付けられた―-。-山賊の頭目は、御木を引き寄せると「きょうの獲物は女と魚だけじゃが―-まあ、ええじゃろう―-野郎ども、飲んで食え―-」と号令し酒宴が始まった―-。
-山賊達は鯖を食い、酒を飲んでいたが、宴たけなわとなった時、頭目の男は、御木の縄を解き、衣を脱がし始めた―-。-手下どもはそれを観て、やんやと囃し立てた―-。
-木に縛らた泥庵と檜は「見ちゃ居れん―-」と嘆いていたが、その時、山賊の頭目が、御木をかまうのをやめて自分の腹を押さえて苦しみだした―-。
-それに端を発する様に、山賊達は皆、腹を押さえて苦しみ始めた―-鯖にあたったのであった―-。
-御木は、どさくさに紛れて、山賊の小屋から二枚の小判を奪い、泥庵と檜を縛る縄を解いて、三人は脱出した―-。
-とにかくも、金を得た三人は、吾助の家を目指した―-。-その道すがら、泥庵はしみじみと「つくづく思うが、わしらは何者じゃろうな―-もちろん神様なんぞでは無いが、人でも無い―-」と呟いた―-。-檜は「そう言われてみれば、わしらは何者か考えた事もなかったな―-」と応えた―-。
~一行が、吾助の家の近くにたどり着いた時、突然、御木が思い出した様にすっとんきょうな声をあげて「あぁ―-!-考えてみたら―-あの鯖売りの男―-大八車の輪が外れたのは、わたし達と出会ってからじゃ―-そして山賊に斬られて死んだわ―-」と、言った―-。
-泥庵は「う―む―-鯖にあたった山賊達も不運と言えば不運じゃ―-」と唸って考えたが―-―-三人は同時に顔を上げると「やっぱり、貧乏神じゃ!」と言って、がっかりし首をうなだれた―-。
-泥庵は「わしらが貧乏神なら、吾助の家には戻らぬ方が良いのじゃろうか―-」と訊いた―-。~二人は黙っていたが、同意した様であった―-。
-それでも、せっかくだから、金だけは届けようという事になり、三人は、ねずみの様に小さくなって、壁の穴から家の中に入った―-。
-吾助は出掛けて居なかったが、女房のお葦は居って、包丁を研いでいた―-。
-泥庵達は、二両の金をそっと神棚に置いてから、梁の上に登り「吾助が帰って来たら、さぞかし喜ぶじゃろう―-」と期待して様子を見て居った―-。
-お葦は、二両の金を見付けると、不思議そうな顔をして、それを懐に入れた―-。
-しばらくして帰って来た吾助が「庄屋さんのところで粟を半升借りてきた―-」と喜んで言ったが、お葦は冷たく「それっぽっちの粟でどうしようと言うんじゃ―-神棚の金はもらってゆく―-」と応え、隠し持っていた包丁で吾助の腹を刺した―-。
-梁の上の三人は、人の姿になって飛び降りると、御木は直ぐに倒れた吾助の手当てを始め、泥庵がお葦の包丁を持つ手を掴んで捕らた―-。
-お葦はもがきながら「お前達は何者じゃ―-人ではあるまい―-」と叫んだが、吾助の手当てをする御木が顔を上げ、お葦を睨むと「わたし達が何者か―-それは、こっちが訊きたいぐらいなのさ―-お前も人ではないな―-」と言い返した―-。
-お葦は「わらわは、この地に八百年棲む精霊ぞ―-こんな事をして只では済まさぬ―-」と凄んだが、檜が「亭主を殺して、金を持って逃げようとは、ずいぶん汚い精霊さんじゃ―-わしらには人に味方するいわれは無いが、吾助には味方せねばならん―-」と言って包丁を取り上げると、お葦の胸を刺した―-。
-すると、彼女の姿は消えて、二枚の小判が落ちて、ちゃりーんと鳴った―-。
~一夜明けて、御木の看病のおかげで吾助は目覚めた―-。-吾助は御木に「お前様は―-?-女房はどうした―-」と訊いた―-。
-御木は「わたしは、通りすがりの旅の者―-女房どのは、消えてしまったわ―-」と応えた―-。
-吾助には傷よりも女房に刺された事が痛恨であった―-。-彼は「あれは、もののけであったか―-おらの甲斐性が無いばっかりに女房には悪い事をした―-」と悔やんだ―-。
-御木は「傷が治るまで居ますから―-そしたら出て行きます―-」と言った―-。
-泥庵と檜は梁の上に居って退屈していた―-。
-数日後、だいぶん身体の良くなった吾助に、御木は粟の粥を作って食べさせていたが、吾助は「お御木さんには、ご亭主は居りなさるのかい―-?」と訊いた―-。-御木は「亭主は居ませんが、兄弟が二人おります―-」と応えた―-。
-吾助は「おらは、梁の上の三人の神様を見た―-お前様はその神様じゃろう―-」と言ったが、その時、退屈で我慢出来なくなった泥庵と檜が人の姿で現れた―-。
-驚く吾助に泥庵は「わしらが御木の兄弟じゃ―-」と挨拶し、二両の金で米や酒や魚を買って来ると「吾助どんも、精のつく物を食べんと治るもんも治らんぞ―-」と宴の様に盛大に飲み食いを始めた―-。
-傷の完治しない吾助は、酒は舐める程度であったが、泥庵と檜は御木の「いい加減にしなされ」という視線を無視して、しこたま飲んで、いい気分であった―-。
-泥庵は吾助に「わしらは、お察しの通り神様じゃが、貧乏神よ―-じゃがな―-心配は要らん―-金が無くなったら、又、どこかで稼いで来てやるわい―-」と大見得をきった―-。
-吾助は「危ないところを助けて頂いて、こうして神様達と一緒に酒が飲めるなんて―-おらは、果報者じゃ―-」と言った―-。
-いかがだったでしょうか―-。
-この後の吾助がちょっと心配になりますが、四人で楽しくやってゆくことでしょう―-。