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与平爺と童の与平

作者:吉邑 正

-与平爺さんは、案外、機転の利く人。-こんな人が自分の子供時代に行ったら、どうなるでしょうか―-?。

-昔―-ある山の麓の村に、与平よへいという貧しい翁が居り、地主の杉右衛門すぎえもんの畑の脇を借り、掘っ立て小屋に住んで居った―-。



-ある日の事―-与平爺は、川の上流で魚を釣ろうと山に登ったが、途中で雨に降られて、どこか雨を凌げる場所は無いかと探した―-。



-渓流沿いの、道とも呼べない様な険しい所に見慣れぬ祠が在り、与平爺は「はて、誰が建てたんじゃ?」と思ったが、雨宿りに丁度よいと中に入った―-。




-祠の中は狭く、奥は山肌の岩がむき出しになっており、御神体らしき石にしめ縄が張ってあった―-。-与平には、石は何かを隠す蓋の役目の様に思えて好奇心から、ずらしてみたが―-。


-彼が思った通り、山肌には小さな穴が明いておって、ひと一人なら這って入れる大きさであった―-。

-与平爺は、穴の中を覗いてみたが、真っ暗で何も見えない―-。-そこで彼は、頭を突っ込んだが、その時、何かに全身を引っ張られる様な感覚があり、穴の中に吸い込まれた―-―-―-。-そして与平が気付いてみると、元きた村の中を歩いておった―-。



-しかし、村の様子がおかしい―-。-野良仕事をしている者達は、知らない顔ばかりである―-―-いや、むしろ、中には知っている者が居て与平爺は驚いた―-。-とうに死んだはずの与平のおっ父が居たからである―-しかも若い―-。




-与平爺は、急いで家に帰ったが、畑の脇の家は無かった―-。



-彼は、困ってしまったが、若いおっ父が居るのだから―-―-と考え、自分が子供の頃に住んでいた家に行ってみる事にした―-。




-懐かしい風景が、与平爺の記憶を蘇らせた―-。



-若いおっ母が、川で洗濯をしていた―-与平爺は「おっ母―-与平じゃ―-!」と叫んで抱き付きたかったが、老人の自分がそんな事をしたら、大騒ぎになると思って、ぐっと堪えた―-。




-子供の頃に暮らした家には、兄弟達が居て、皆、子供である―-。-そして泣きべそをかいている冴えない童の自分が居た―-。




-兄弟達は、雀を捕まえ籠に入れて騒いでいたが、童の与平は「可哀想じゃ―-逃がしてやろう―-」と言って、兄達の反感を買い、頭をげんこで小突かれたのである―-。




-与平爺は「こりゃ--!-悪ガキども―-小さい子をいじめるな―-!」と怒鳴った―-。-兄弟達は「この爺さんは誰じゃぁ?」という様な顔をしておったが、とりあえず逃げて行った―-。




-童の与平は「お爺さんは誰じゃ?」と訊いたが、与平爺は、それには応えず、雀の入れられた籠を持ち「よい事を教えてやる―-付いてこい」と言って歩き始めた―-。-童の与平は、いじめられていたところを助けられた事もあり、良い爺さんと思って付いて行った―-。



-与平爺は「わしは、童じゃった頃に迷い込んでしまった様じゃ―-そしてわしは、それからこの村で起こった事をみんな知っておる―-その知恵を使えば、神様の様に、童のわしを幸せに出来るではないか―-」と考えていた―-。



-与平爺は、誰も居ない藪の中まで来ると、籠の中の雀の舌を小さな刃物で切って逃がした―-。-童の与平は「なんて事をするんじゃ―-!-可哀想じゃ―-」と叫んだが、与平爺は「傷は大したことは無い―-まあ、見とれ―-」と応えた―-。



-「村の、お人好しの善助ぜんすけ爺のところの、ごうつく婆のおおたねが、雀の舌を切って逃がし、善助は宝物をもらったと自慢しておった―-」

と、与平爺は昔の出来事を思い出していた―-。




-果たして直ぐに、二人の前に、やけに声の低い女が現れ「わたしは、雀のおおけいといいます―-わたし達の屋敷まで来て欲しいのですが―-」と二人を招待した―-。



-行ってみると、お恵達、雀は皆人の姿で宴会を催し歓待してくれて、帰り際にお恵が「大小のつづらの内、お好きな方をお土産にお持ち下さい―-」と言った―-。




-童の与平は「どうせなら大きい方がええわいな―-」と応えたが、与平爺が「お種婆が大きい方にしたら、中は妖怪じゃったのじゃ―-ここは、小さい方にするんじゃ―-!」と教えた―-。~二人は小さいつづらをもらって帰った―-。



-童の与平が家に帰ると、もう夕方になっていて、家族皆で心配しておった―-。ーしかし彼が得意げに、つづら開けてみると中は金銀の宝物で、おっ父もおっ母も大喜びじゃった―-。



-与平爺はその様子を外から伺い―-「まだまだじゃ―-もっと幸せにしてやるわい―-」と、ほくそ笑んだ―-。


-翌日―-与平爺は又、童の与平を連れ出した―-。-しばらく歩いてゆくと、村の杉太すぎたという若者が、アブを捕まえ、藁に縛って、そのアブが飛び回るのを面白がっていた―-。



-与平爺は「杉太とは、後の長者の杉右衛門のことでは無いか―-!-杉右衛門は、藁に結わえたアブから長者になったと自慢しておった―-」-与平爺は、小銭を出して、杉太からアブを縛った藁を買った―-。




-更にしばらく行くと、百姓の女房が、小さな子供を連れていて、その子がアブ付きの藁を欲しがったので、ミカンと替えてやった―-。-童の与平は大喜び「旨そうなミカンじゃな―-爺さん、食べてええか?」と訊いたが、与平爺は「これを食うてしまって何とする―-」と、たしなめた―-。


-今度は、武家の娘が喉が渇いたとミカンを欲しがり、錦の反物と替えてやった―-。-童の与平は「おらは、ミカンの方が良かっただ―-」

と言ったが、与平爺は「お前には、この反物の値打ちがわかっとらん―-」とたしなめ、更に歩いて行った―-。



-次に、道端に倒れた馬を飼い主が鞭で叩き、起こそうとしているのに出くわした―-。-童の与平は駆け寄り「可哀想じゃ―-!」と言ったが、飼い主は「可哀想なのは、わしの方じゃ―-!」と怒鳴って、更に馬を叩いた―-。-童の与平は「それならこれと替えてくんろ―-」と錦の反物を差し出した―-。-飼い主は「こんな役立たずな馬に用は無いわい―-」と、あっさり反物と交換してくれた―-。


-馬は、乱暴な飼い主にヘソを曲げていただけで、彼が居なくなると、すっくと立ち上がった―-。-与平爺も童の与平も大喜び―-。



-次に、旅に出たいので、馬が欲しいという金持ちと出会い、立派な家屋敷や田畑と馬を替えてやった―-。






-こうして、童の与平の一家は、長者となった―-。-与平爺は、一家から「神様じゃ」と崇められ、大事にされていたが、当の本人は「わしの役目も、もう終わりかの―-」と思っていた―-。




-そして、ふらふらっと意識が遠のき、庭の井戸に転落した―-。





-与平爺が気付いてみると、元の山中の祠の中であった―-。-与平爺は、御神体の石をずらしてみたが、岩肌に穴は無かった―-「おらは、夢を見てたんだべか―-―-せっかくおっ父とおっ母に会えたのに、あの時、二人を抱きしめれば良かった―-それだけが心残りじゃ―-」そう言って、とぼとぼと歩き始めた―-。



-外はもう真っ暗になっており、与平爺は淋しい気持ちで山を降りて帰って行った―-。




-すると、沢山の松明を焚いた村人達が、与平を探している様子じゃった―-。



-「与平様じゃ―-!-与平様は無事にござったぞー-!」―-村人達は与平を見つけると、駕籠に乗せて家まで送ってくれた―-。




-与平の家は、掘っ立て小屋では無く、立派な御殿になっていた―-。-大勢の家族や、使用人達が与平の帰りを喜んだ―-。




-そして最後に、屋敷の奥から、使用人に抱き抱えられた、老夫婦が出て来た―-。




-ろくな食べ物も無く、栄養失調で早くに亡くなった与平の両親は、長者となって長生きしていたのであった―-。



-与平爺は、二人を抱きしめた―-。








-いかがだったでしょうか―-。




-パロディーともちょっと違うのですが、既成の昔話を持ち込んでみましたが―-。

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