挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
ブックマーク登録する場合はログインしてください。

金太郎の兄

作者:吉邑 正

-金太郎は、雷神の申し子とか、母親は山姥とか、いろいろ言われていますね―-。

-昔―-足柄山で、金太郎きんたろうという怪力の男の子が、八重やえという母親と暮らし、熊と相撲を取ったりしておったが、ある時、京の都から、源頼光みなもとの らいこうという侍がやって来て、金太郎の怪力を見込んで家来にしたいと申し入れた―-。



-八重は承諾したが、金太郎との別れに際し、涙ながらに「立派な侍になって、頼光様のお役に立っておくれ―-それがお前の役目じゃ―-」と言い、頼光に連れられて都に行く事になる金太郎の運命を知っていた様でもあった―-。







-金太郎が去ってしまった後も、八重は足柄山の麓で暮らしていたが、美しい女であったので村の男達には気になっていたが、

他方、彼女には山姥だとの悪い噂もつきまとい、近寄り難い存在でもあった―-。



-そんな村の男達の中でも特に八重にご執心の、半助という男が居ったが、なかなかの男前で、八重も憎からず思っていた―-。




-そんなある日の事―-。夜中に、村の牛馬が盗まれるという事件が相次いで起こった―-。-村おさの玄蔵げんぞうは、男達が交代で村の警護をする事を決めた―-。





-そんな訳で、丁度、半助が見回りをしていた夜―-。-村外れに近い、治平じへいという男の家の牛小屋が騒がしいのを聴いて駆けつけた半助は、大男が牛に抱き付き絞め殺しているのを目撃して腰を抜かした―-。


-大男は、怯える半助を無視し、牛を担ぎ上げると山の方に悠々と去って行った―-。





-半助から話を聴いた玄藏は翌朝、村の男達を集めて「牛泥棒は、大男で、牛を絞め殺し担いで行ったそうじゃが―-そんな事が出来るのは、鬼に違いねぇ―-じゃが、相手は一匹じゃ―-皆でうちかかれば討つ事も出来よう―-」と提案し、村人達も同意した―-。




-半助は八重の所に行って、野良仕事をしていた彼女に「おらは、見たよ―-牛泥棒は鬼じゃった―-おら達皆でやっつけようと相談がまとまっただよ―-」と話した―-。



-八重は「その鬼には、村の衆が寄ってたかっても勝てまいよ―-」と応えたので、半助は「えっ!-お八重さんは、どうしてそんな事を知ってるだね?」と訊いたが、彼女はそれには応えず「それより今晩、夕げを用意して待ってますから、うちに来て―-」と言った―-。




-さて、嬉しいお誘いに、舞い上がらんばかりの半助であったが、待ちきれない気持ちを抑え、約束の夕方になってから八重の家を訪れた―-。




-ささやかではあるが、田舎暮らしの半助にとってはご馳走が用意されており、酒も在った―-。-彼は、それらをしみじみと味わった―-。



-八重は、そんな半助を目を細めて見ておったが、彼の気の優しさにほだされたのか、そのうちに、とつとつと身の上話を語り始めた―-。




-「金太郎は、本当は、わたしの子では無いのじゃ―-都の帝に仕える、坂田蔵人さかたの くらんどという立派なお侍の若様じゃった―-わたしが金太郎の乳母になった時、もちろん、わたしにはわたしのやや子が居った―-その子を捨ててまで金太郎の乳母になったのは、神様のお告げがあったからじゃ―-神様は、わたしの夢枕に立たれ、坂田蔵人の息子を神である自分の化身として誕生させたが、ひ弱な子に育っては困るから、八重、お前が乳母になって育てよ―-と言うてな―-その夜中に庭に雷が落ちて、見ると鉄の棒が突き刺さっておった―-わたしが金太郎の乳母になって直ぐのことじゃ―-都では争い事が多く、坂田様の屋敷は焼き討ちにおうて、わたしは金太郎を連れて逃げ、この足柄山の地までやって来たのじゃ―-」八重は、そう言うと、太い鉄の棒の様な物を半助に見せた―-。




-その鉄の棒は、両端が平べったく、鋭利な刃物になっておった―-。



-半助は「これは―-よく、金太郎が担いでおった物ではねぇか―-おらは、まさかりの刃かと思っておった―-あんな小さな子が、よくこんな重い物を担いでおったもんだべな―-」と言った―-。




-半助は続けて「お八重さんには不思議な事ばかり起こるのじゃな―-お八重さんのことを山姥と言う者も居るだが、それでもおらは―-」―-―-―-―-―-―-―-―-―-―-―-―-「それでもおらは、お八重さんが好きじゃ―-」と言いたかったが、その前に、八重の唇が半助の唇を塞いだ―-。










-翌朝、八重の傍らで目覚めた半助は、全身に力がみなぎっているのを感じ「お八重さんは、本当に山姥かも知れんな―-」と思った―-。




-八重は「鬼を討ちに行くなら、これを持ってゆきなされ―-」と、金太郎が担いでいた鉄の棒を半助に渡し、彼を送り出した―-。~昨夜は重いと思った鉄の棒だが、力のみなぎる今朝の半助には軽く感じた―-。




~玄藏の号令で、いよいよ十数人の村の男達が、手に手に鎌や鍬を持ち、足柄山山中に入って行った―-。




-山の中腹に洞穴を見つけ、その前には、牛馬のものと思われる骨が散らばっていたので、間違いなく洞穴は、鬼の棲みかであろう―-。


-男達は、洞穴の前で焚き火をし、鬼を燻り出す事にした―-。



-果たして洞穴から出て来た鬼に、一斉にうちかかったが、鬼が腕を一振りすると、皆、吹き飛ばされた―-。


~十数人の男達のほとんどの者が失神し、意識のある者は、逃げ出した―-。-半助は、ぶるぶる震えながら、勇気を振り絞って、八重から渡された鉄の棒を構えた―-。




-その時、棒を見た鬼の動きが止まった―-。-鬼は「それは、どうした―-どこで手に入れたのじゃ―-?」と訊いた―-。




-半助は、応えなかった―-いや、応える事など出来なかった―-気力で立っているのが精一杯であった―-。



-鬼は、半助を襲わず、逃げて行った―-。-村の男達は、多少の怪我をした程度で、鬼は逃げて行ったし、とりあえず良かった良かったと、村に帰った―-。







-無事に帰った半助は、八重から預かった鉄の棒のおかげだと礼を言おうと彼女の家に向かった―-。-しかし、様子がおかしいので、。少し手前で立ち止まった―-。




-八重の家の前には、ぼろぼろの衣を着た童が立っており、八重を見て泣いておった―-。-八重も泣いていた―-。-彼女が「お前を捨てた母じゃ―-許しておくれ―-」と言うと、童は彼女のもとに駆け寄って、二人は抱き合った―-。









-金太郎を化身とした神は、雷神=帝釈天たいしゃくてんで、その持ち物は、両端が刃物になった棒=金剛杵こんごうしょである―-。




-又、鬼歯の事を八重歯と言うのは、金太郎の乳母に由来するのである―-。








-いかがだったでしょうか―-。




-金太郎は、雷神の申し子ですが、普通の人間。-怪力になったのは、山姥の乳で育ったからだったのですね―-。-その山姥八重と、本当の息子のお話でした―-。

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。