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三旭尼武勇伝

作者:吉邑 正

~日本の民話では、怪力女の話が多く伝わっていますね~。~現代に書かれた、そんな昔話です~。

~昔~越後の国の友杉の里に、慈恩院なる尼寺があり、三旭尼みやけにという、たいそう美しい尼僧が居った~。



~慈恩院には、もう一人、三旭尼の弟子の、靖弥やずみという若い尼僧がいたが、村の喜一という若者と恋仲になってしまった~。



~靖弥が、寺の外で喜一と逢っているのを見た三旭尼は彼女に「われらは、俗人では無いぞ~髪を伸ばして、喜一の嫁になりたいなら、とがめはせぬ~どちらかに決める事じゃ~」と戒めたので、靖弥は「わたしが悪うございました~もう、喜一どんとは会いません~」と謝った~。


~収まらないのは喜一で、尼僧が二人居るばかりと思って、寺の本堂に、ずかずかと乗り込んで来て、手に棒を持ち、三旭尼に「やい~おらと靖弥の仲を邪魔しやがると、只では済まさねぇだぞ~」と凄んだ~。



~三旭尼は全く動じず「百姓が棒を持って何とする~」と言った~。その、はったりでは無い言葉の迫力に喜一は怯んだが、ここで引き下がっては格好がつかないと、手にした棒で三旭尼に打ちかかった~。



~彼女は、片手で棒を掴むと、それを引っ張り喜一の身体が前のめりなったところで、帯を掴んで投げ飛ばした~。~喜一は本堂の縁側を越え、庭に背中から落ちて気絶した~。







~ある日の事~慈恩院に乳飲み子が捨てられており、直ぐに母親は村のおおよしと見当がついた~。



~そこで三旭尼は、お良の家を訪ね「食いぶちを減らす為に子を殺す時代じゃ~やや子を捨てた事は咎めぬ~じゃが、大きく育った子の夢を見たなら、そなたは後悔せぬか~」と言った~。~お良は泣き崩れて、父親は喜一だと打ち明けた~。~「また喜一か~!」と三旭尼は、ため息をついた~。



~慈恩院の在る村には、長尾長者という金持ちが居って、折しも、懸賞金付きで弓矢の腕前を競う試合を催した~。



~三旭尼は、竹を伐って丸いままの竹に弦を張って弓を造り、弓矢試合に参加した~。



井口兵衛いぐちの ひょうえという弓の名手が「これは尼様、何の冗談じゃ~竹竿に弦を張っても弓にはなりませぬぞ~」と馬鹿にした様に言い、三旭尼の手製の弓を借りて引いてみたが、あまりに強く、弓の名手でも引く事は出来なかった~。



~「はははっ~尼様は弓という物を知らん~弦は片手で引くものじゃという事を忘れては~いくら強くても、引けもせぬ弓では仕方あるまい~」と嘲笑った~。



~弓矢試合は、立てた戸板を射るもので、戸板のどこに当たっても命中と見なし「たんっ~!」という様な音で矢は戸板に突き立った~。~距離は十間から始め、命中させた者だけが残り、次は同じく二十間、そして三十間と次第に難しくなるのだが~。



~三旭尼は、井口兵衛が引けもしなかった竹竿の強弓を軽々と引いて矢を放ち、その矢は「どか~ん!」という轟音を響かせて戸板を貫いた~。~皆は、尼様の剛腕ぶりに驚いたが、しかし、弓と矢の出来の粗さから、三旭尼の放つ矢は、どこに飛んでゆくかわからぬ様な危うさがあった~。



~それでも三旭尼は、矢を次々と命中させ勝ち残って、戸板までの距離が四十間となった段に到っては、三旭尼と兵衛の二人だけの対決となった~。~兵衛は、まるで天空を射るかの様に矢を放ち、それは、大きく山なりに飛んで、見事、戸板に命中した~。



~三旭尼の放った矢は、兵衛の様に山なりではなく、真っ直ぐに飛んだが、惜しくも的を外してしまった~。








~三旭尼は、お良の家を訪ねると「偉そうに申して悪かったな~やや子を育てるにも銭が要る~長尾長者の弓矢試合の賞金をあてにしたが、面目ない結果じゃった~やや子は、慈恩院で面倒をみる事にしましょう~」と言ったが、お良は「馬に乗った、お侍がやって来て、尼様が場違いな弓矢試合に出て来て、変だと思ったが、村人に訊いて事情がわかった~と言って、金を置いていっただよ~」と、五両もの大金を見せた~。



~それは弓矢試合の賞金と同額であったので、井口兵衛が賞金をそっくりお良にくれたものと思われた~。~三旭尼がやろうとした事を兵衛が代行した格好であったが、やや子は、お良が育てる事で決着した~。










~その年の春彼岸~靖弥尼は、檀家の法事に読経に参っておったが、丁度その時、野盗の一団が村にやって来て、白昼堂々と略奪をし始めた~。



~盗賊団を呼び寄せたのは、村の厄介者の喜一で、野盗に加わって村を捨ててゆくつもりだが、その前に遺恨のある者に仕返しをしようと考えたのである~。


~そして喜一は、靖弥を見つけて捕まえてしまった~。



~一人の村人が息急き切って慈恩院に駆け込んで、野盗が跳梁している事、靖弥が拉致された事を伝えた~。~それを聴いた三旭尼が立ち上がった丁度その時、馬に乗った一人の侍がやって来た~井口兵衛である~。



~兵衛は「先日の長尾長者の弓矢試合は、拙者の負けでござった~これは、都で一番と謳われる弓師に造らせた強弓でござる~これを用いて今一度、拙者と勝負をして頂きたいと思って参った~」と、見事な一本の弓と、二十本の矢を差し出した~。



~三旭尼は、弓矢をひったくる様に受け取ると「馬を借ります~!」と言うが早いか、兵衛が乗って来た馬に飛び乗り、疾風の如く駆け出して行った~。




~盗賊どもは、略奪した家に火を放ったので、三旭尼には、直ぐにその場所がわかった~。



~見張り役の二人の盗賊が、肩に刀を担いで格好をつけて立っていたが、遥か向こうから、馬に乗って駆けて来る者に気付いて、手で庇を作って見たが、そのうちの一人の眉間を矢が貫いた~!~そして驚いてそれを見た、もう一人のこめかみを直ぐに次の矢が貫いた~。

~声も無く倒れた二人に気付いて、寄って来た盗賊どもが、仲間に矢が刺さって倒れたのだとわかった瞬間には、自分の頭を矢が貫いているといった具合で、瞬く間に更に五人が倒された~。



~残った盗賊は、物陰に隠れたが、次第に近づいて来る馬に乗った敵が、三旭尼一人だと知ると喜一は、靖弥を盾にして出てきて行く手を遮った~。彼は、靖弥の背後から顔半分だけを出して「こっ~この尼~!~弓を捨てろ~!」と怒鳴った~。



~三旭尼は「南無~」と唸って矢を放ち、それは喜一の目から後頭部を貫いた~。~駆け寄る靖弥に「逃げなさい~」と促してから、馬から降り、倒れている盗賊の持つ刀を取って、一度、びゅんと空を斬って素振りをした三旭尼は、ゆっくり歩いて盗賊どもに近づいていった~。



~残った盗賊達が出てきた~。いくら弓の名手でも、至近距離では刀で戦うしかない~それなら尼僧一人に負ける訳がないと思ったからである~。



~残りの盗賊は四人となっていた~。~三旭尼は、野盗の頭目とおぼしき男の顔を見て驚き、思わず「光盛殿か~!」と叫んだ~。~「義仲様と最後を共にしたと聴き及んでおりましたが、野盗になり果てておったとは~わらわは、そなたの為にも念仏をあげて居りましたのに~」と言う三旭尼を見て、野党の頭目も驚いた~。



~「巴御前だったのか~!」と思ったこの男は、近江粟津の合戦で木曽義仲の家臣として、討ち死にしたと伝えられた、手塚光盛てづか みつもりであった。三旭尼とは仮の名で、怪力、強弓で知られる巴御前と彼は、言わば戦友であった~。



~そうとは知らない盗賊の一人が、三旭尼~いや、巴御前に斬りかかった~彼女は、その盗賊が刀を持つ手を掴むと、ほうきの様に振り回して投げつけた~。~仲間が飛んでくると思っていなかった二人の盗賊がそれを喰らって、ひっくり返った~あっと言う間に三人を倒した巴御前は、光盛に「行きなされ~」と促した~。

~光盛は「巴殿~!」と言って、更に何か言いたげであったが、三人の手下を起こすと、彼らを連れて逃げて行った~。







~随分遅れて、井口兵衛が「三旭尼様~助太刀致しますぞ~!」と叫びながら駆けて来た~。~三旭尼は「かたじけのうございます~」と、にっこり微笑んだ~。





~いかがだったでしょうか~。




~この巴御前という人物は魅力的ですね~又、別の話に登場してもらおうと思っています~。

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