加えて中国のネット統制は2010年ごろまではまだユルく、中国から自由に2chやニコ動にアクセスすることもできた。現在では考えられない話だが、中国国内のネット掲示板やブログのコメント欄で新疆の少数民族問題や六四天安門事件の議論をおこなうことすら一定程度は可能だった。当時の私が『百度貼吧』を翻訳していたのも、中国の大規模ネット掲示板には日本の2chに通じる怪しい本音の魅力が渦巻いていたからである。
もっとも、日本でTwitterの台頭とともに2chが衰退したのと同じく、中国でもTwitterに似た微博(Weibo)の流行で掲示板文化の衰退が始まった。加えて微博は当初こそ新しい言論空間として注目されたが、間もなく急速に規制が進んだ。習近平政権の成立後は中国の監視社会化もあってネット言論は萎縮し、いまや中国国内のネット全体が体制側のプロパガンダ装置に改造されるに至っている。
では、往年の『百度貼吧』で悪ふざけ半分で体制批判をおこなっていた「中国版2ちゃんねらー」たちはどこへ消えたのだろうか? これは近年、私がひそかに抱いていた疑問だったが、最近になり事情が判明した。
彼らの末裔たちが、今年になってとんでもない政治的事件を引き起こしていたのである。正確な人数は未確認ながら、全国での逮捕者はすでに30人以上に及んだとみられる。
「親日派分子」の反動言論サイトとは
以下、ドイツの国営国際放送『ドイチェ・ヴェレ(Deutsche Welle)』中国語版の2019年10月30日付け記事を翻訳して引用しよう。
【「反中国」情報を閲覧 ネットユーザーが検挙】
近日、中国河北省の警察当局は、ネットを利用してしばしば“反中国”“中国ヘイト”情報を閲覧していた犯人を承德市双橋公安分局が検挙したことを発表した。捜査によれば容疑者李某(15歳男子、承德市)は、故意に中国の歴史を歪曲し国内外の話題のニュースや事件を曲解した情報を、しばしばネットで閲覧していたとされる。
本件のみならず、最近になりネットユーザーが中国国外の“反中国サイト”を閲覧したことで警察側に検挙される事件がしばしば起きている。報道を総合すると、福建省厦門市や広西チワン族自治区柳州市など各地で警察側が類似の検挙をおこなっている。これらの報道はみな「悪俗ウィキ」と称されるサイトに関連したものだ。
中国側の官製メディアによれば、「海外にサーバを置く悪俗ウィキは、サイト上で中国を侮辱し中国に反対する反動言論がはびこり、歴史と現実を歪曲している、親日派分子の跋扈する場所である。のみならず、サイト上ではさらに大量の中国公民の戸籍住所や身分証番号などの個人情報が違法収集されている。不法分子は復讐やその他の目的からこれらの個人情報をネット上で公開している」という(以下略)。
一見すると、最近の中国ではよくある反体制サイトの取り締まりニュースだ。だが、文中に「親日派分子(精日分子)」という奇妙な単語が含まれていることにお気づきだろうか?
話を先取りして言えば、この「悪俗ウィキ」(悪俗維基、esu wiki)と、運営者や参加者が重複する「シナウィキ」(支納維基、zhinawiki)を作り上げたのは、かつての『百度貼吧』の一部の板の管理人や、カキコ(書き込み)を繰り返していたヘビーユーザーたちだ。
私がてっきり絶滅したと考えていた、日本の萌え文化や2ch的な悪ふざけネット文化に染まった反体制的な「中国版2ちゃんねらー」の残存部隊が、大量逮捕劇を招くようなヤバいサイトを作っていたのである。彼らの幹部層にはハイレベルなハッカーが含まれ、中国国内や香港のほかにアメリカやカナダ・オーストラリアなど各国に散在。日本の二次元文化への愛が高じてか、日本国内で暮らす者もいる。













