アメリカを静かに殺す「学生ローン」という爆弾

ローンの総額がついに1兆ドルを突破

アメリカで学生ローンが国内最大の消費者債務のカテゴリーになっています(写真:FatCamera/iStock)

まさに空前絶後の規模である。1兆ドル(約110兆円)――。アメリカの学生が抱える学生ローンの総額が、今年初めて1兆ドルを超えたのだ。

連邦準備委員会による消費者信用報告書によれば、現在4400万人を超えるアメリカ人が総額1兆5600億ドル(約170兆円)を学生ローンで借りている。

この額は、アメリカのクレジットカードの合計債務額の1兆2000億ドルよりも多く、また自動車ローンの合計債務額よりも約5210億ドル多い。今や学生ローンは、その範囲と影響において、住宅ローン以外には比べるものがないほどの国内最大の消費者債務のカテゴリーになっている。

返済には平均で19.7年かかる

この巨大な数字には、新卒者だけでなく、学校を出てから10年以上経過した人々の債務も含まれる。学費の支払いと返済を支援する組織であるニトロは「アメリカ政府による融資の標準的な返済期限は10年だが、学士号保有者が融資を実際に返済するのに平均で19.7年かかることが研究によって示唆されている」。

なぜ人々は、そんなに巨額の費用がかかる大学に行きたがるのか。その理由は明確だ。

上院議員のジョン・スーンおよびマーク・ワーナーによると、「事実上、給与が3万5000ドル以上のすべての仕事の半分以上で、学士号以上の学歴が要求されます。そして、この傾向は今後大きくなるだろう」。

アンソニー・P・カーネベールなどによる調査「いい仕事に就くための3つの教育経路」によると、すべての“いい仕事”の56%が学士号保有者向けであった。理由は、4年制大学卒以上の学歴を持つ労働者の需要が大きいためだ。学士号を必要とする仕事の約74%は、医師や弁護士、エンジニア、会計士、コンピュータープログラマー、ジャーナリスト、建築家といった専門的および技術的な仕事だ。

多くの家庭や学生は、こうした統計結果を認識しているため、大学は、彼らにとって成功を約束する唯一の経路となっている。しかし、その費用の準備ができていない家庭は数えきれないほど多い。

学生ローンを提供するサリー・メイによれば、アメリカの私立大学に通う費用は、授業料、学生寮代、食事代、教科書代を含めると、ほとんどの場合なんと年間7万ドル(約760万円)を超える。 2018年に公立大学にかかる教育費用は、奨学金と助成金を差し引いても、年間約1万5367ドル(約160万円)だった。

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  • 如月五月ブログ/更新6407c324596e
    そもそも、

    年間760万円もかけて無理に大卒の資格を
    取らないと「いい仕事」に付けないという
    米国社会の仕組みがおかしい。

    ちなみに日本の奨学金の規模は日本学生支援機構
    によれば1兆円程度なので、米国は日本の100倍だ。
    もちろん学生数などの諸条件は異なるので単純比較は
    できないが。

    日本でも学生の半分が奨学金を借りていると聞くが、
    終身雇用制度の崩壊、非正規雇用の拡大を受けて、
    最大20年にも及ぶ返済が確実とは言い切れないだろう。

    これらの根本的な原因は、
    「企業の大卒信仰」と「無価値な大学の存在」にある。
    人材採用にあたっては、大卒という「肩書」よりも
    スキルや可能性といった「資質」を評価すべきだと思う。

    またFランクとされる無条件入学の大学などは、
    大学という教育機関として価値のない学生を
    多く抱えている訳で、補助金の無駄遣いと言っていい。
    up28
    down14
    2019/12/18 07:58
  • 田中febeee3c4469
    ある程度日本も同じ状況ですね。
    アメリカの大学に比べれば随分安いものですが、私も国立大学の大学院出るまでに奨学金という300万円以上の借金背負って卒業しましたから。
    幸い普通の会社に新卒で就職出来たため全額返済出来ましたが、もし就活に失敗していたらどうなっていたでしょう?
    新卒でないとまともな就職が許されない日本ですから、アメリカ以上にどうしようもない状況に置かれるのではないでしょうか。
    若者に対する支援、就職活動や大学の意義など見直す事は日本でもたくさんあると思います。
    up13
    down1
    2019/12/18 09:11
  • あっぺんど7d6c3ee49649
    株主主権のアメリカでは、「効率!、競争!」で庶民を食えないくらいの低賃金に追い込んでいるくせに、医療と教育だけはクソみたいに非効率で高額だ。
    世界一高額の医療費を払って、貧しいはずのキューバよりも平均寿命が短い。教育レベルだって、同じようなものだろう。
    民間に任せちゃいけない分野を野放しにすると、こんなことになるという悪い見本です。
    up14
    down3
    2019/12/18 09:37
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