国民が二〇二〇年度から使う医療費の大枠が決まった。限られた財源で、必要かつ十分な医療サービスをどう提供していくのかが問われる。人口減社会に対応した医療の確保を目指したい。
医療費は国民が払う公的な医療保険料や税、医療機関での窓口負担で賄われている。
診療報酬は医療を提供した医療機関や薬局へ支払われる。治療や入院、薬などのサービスごとに国が細かく「公定価格表」を定め、原則二年ごとに改定される。
改定率は一年間に使う医療費の増減を決めるものだ。増やしたい医療などがあれば、価格を上げて取り組む医療機関の増加を促す。
一八年度の国民医療費は約四十三兆円だ。例えば、1%のマイナス改定だと四千三百億円の削減となる。マイナス改定では公費や保険料、患者の自己負担は減る。
今回は、薬などの「薬価」はマイナス改定としたが、手術や人件費などの「本体」は医師らの働き方改善分も含めプラス0・55%となった。全体では引き下げる。
薬価は市場価格の実勢に合わせるため引き下げられる。患者の薬代も下がる。
ただ、がん治療薬オプジーボなど高額医薬品が保険財政への影響を巡って議論を呼んだ。厳しい医療保険の財政事情から健康保険組合連合会からは花粉症薬など市販薬は保険対象から外す意見が出ている。
薬価のさらなる抑制や保険の「守備範囲」などの検討も進めねばならない。
課題は本体である。国民一人当たり医療費は一八年度、七十五歳未満の約二十二万円に対し、七十五歳以上では約九十四万円と四倍を上回る。高齢化でさらなる膨張が見込まれる。プラス改定は患者の窓口負担も同時に増える。
七十五歳以上の窓口負担を一割から二割に引き上げる制度改正も議論されている中で、報酬の引き上げには慎重さが求められる。
今後、具体的なサービスメニューや価格が決まる。どんなサービスにどう配分するかに注目が集まる。プラス改定なら必要な医療を増やす配分にすべきだ。
改定が、働き過ぎの病院勤務医や医療従事者の待遇を改善し、地域に必要な医療の提供体制を整える後押しとなるようにしたい。
一方で、手厚い看護体制で報酬の高い重症者向けの医療は必要量を超えているといわれる。不必要な医療を温存せずにどう減らすのかにも注視する必要がある。
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