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ソードシールド第3の伝説ポケモン・ムゲンダイナ

英名は「Etenatus(永遠)」となっているのですが、
日本ではこれがピンと来なかったようで、
何で無限大が永遠と掛かっているのか?という声を散見しました。

ところが、剣盾の舞台となったイギリス在住の友人に
Etenatusの和名が「Infinity(無限大)」である事を伝えると、
すぐにピンと来たそうなのです。
この友人曰く、UK出身の人なら十中八九、
無限=永遠とネーミングされた意味を理解するとの事。


はて、これはどういう事なのか?

言語学者である筆者が、ムゲンダイナに秘められた
剣盾のシナリオ構造について考察していきます。





The Infinite=神様


無限大

無限(Infinite)は、有限(finite、終わりの意)に
接頭辞「in」を付けて反対の意味にした、
始まりも終わりもない状態を指す言葉です。

これに定冠詞「the」を付けると、
無限なる神、創造主という意味に特定されます。


英語圏の人々にとっての神とは、
限られた生命を全う(finite)する人間と比較して、
接頭辞「in」を付けた終わりのない存在(Infinite)であり、
ゆえに時間軸においてもfinish=死とは無縁の、
永遠不変、永劫不滅の代名詞です。

The Eternal、としても同じ意味になります。


イギリス

引用:北アイルランド紛争(https://fxbible.jp/blog/easy-news/1111/)

前述したイギリスの友人は、熱心なプロテスタントです。

イギリスはキリスト教を国教とする国であり、
アイルランドがローマ・カトリックが、
イングランド他ではプロテスタントが多数を占めています。

対して日本のキリスト教徒は全体のわずか1%です。

和名:ムゲンダイナ、英名:Etenatusというポケモンが、
The Infinite、The Eternalという2つの固有名詞から名付けられており、
どちらも唯一神を指し示す隠語である、

という意味を英国の人がすぐに理解したのも、
元より英語圏の人々にしか伝わらない、
舞台がイギリスであるのを前提にしたネーミングだからであって、
日本人にそれが伝わらないのも無理はありません。


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さて、このムゲンダイナを中心に据えた剣盾のストーリー、
少し疑問に感じませんでしたか?


パッケージに描かれた伝説枠・ザシアンとザマゼンタの2体ではなく、
ねがいぼしとムゲンダイナを巡るお話になっており、
しかもローズ会長とチャンピオン・ダンデが勝手に話を進め、
主人公はシナリオの進行に介入しないのです。


ダイマックス騒動の蚊帳の外に置かれ続けた事で、
ローズ会長の計画が唐突すぎる印象すら与えています。

いきなり1000年先の話をされても…

ってなりますよね。


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主人公はダンデのチャンピオンタイムによって、
ムゲンダイナへの接触の機会を3度も妨げられています。

1度目はナックルシティでの揺れ。
2度目はルートナイントンネルの先に出た赤い光。
そして3度目はトーナメント決勝戦当日。

3度目にしてダンデがムゲンダイナの捕獲に失敗した事で、
ようやく主人公にお鉢が回ってきた格好です。


なぜこのようなシナリオ構造になっているのか?

実は、ローズの会社の名前が「マクロコスモス社」であるのと、
マクロコスモスが「無限に拡大する大宇宙」と定義されている事が、
この疑問を解く重要なヒントになっています。



マクロコスモスvsミクロコスモス


剣盾のストーリーをおさらいしてみましょう。

ガラル地方の巨大カンパニー・マクロコスモス社のローズ会長は、
宇宙から飛来した小隕石・ねがいぼしが放出する
ガラル粒子をエネルギープラントに活用し、
電気・ガス・水道などのライフラインを提供していました。


ムゲンダイナ

しかし、ねがいぼしの抽出エネルギーは有限である事が判明。
2万年前の地上絵に描かれた災厄・ブラックナイトを引き起こした
巨大隕石=ムゲンダイナのコアに注目します。

巨大なねがいぼしとも言えるムゲンダイナのコアからは
ガラル粒子が無尽蔵に溢れ出ていました。
ローズは無敵のチャンピオン・ダンデに捕獲させ、
無限エネルギーとして活用する事を思いつくのでした。

ローズ
だがね わたくしには
ガラル地方が 永遠に
安心して発展するために

無限の エネルギーを もたらす
信念と 使命が あるのだよ!



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マクロコスモスとは、古代ギリシャの学者達が
惑星の運行法則に従って導き出した宇宙全体の姿を指し、
対して大宇宙の秩序構造に組み込まれた
人間の小さな存在をミクロコスモスと定義しています。

ガラル全ての産業を包括するマクロコスモス社の企業理念を
大宇宙の秩序構造として捉えれば、
それらの恩恵を受けて生活するガラル地方の人々は、
ミクロコスモスと呼ぶ事が出来るでしょう。


マクロコスモス社の庇護の下では、
何の将来の不安も無く暮らす事が出来ます。
困った事が起きれば無敵のチャンピオンが解決してくれます。

そしてその安寧の暮らしを永遠に継続するという、
あたかも地上に楽園を作るがごとく聞こえるローズの願いは、
ムゲンダイナという「神」を迎える事で実現する訳です。


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剣盾のストーリーは、マクロコスモス社をぶっ潰し、
無敵のチャンピオンを倒す、
大人の庇護からの脱却を描いています。



ブラックナイトの訳語が

the Darkest Day

となっているのがポイントで、
dayとは「昼間」の意味だけでなく「時代」を指しますから、
これを訳通りに解釈すれば「暗黒の時代」となります。

つまりこのゲーム、大人の庇護に置かれている少年の前途を、
一生において最も暗い時期、と呼んでいて、
ゲーム中でわざわざ3度もそこに触れているのです。


ブラックナイト

ブラックナイトの様子を外から見ると、
ナックルタワーの頂上に暗雲が立ち込めて見えているはずですが、
その内側ではムゲンダイマックスした図鑑の説明通り時空が歪み、
主人公とホップが巡った過去の風景が
走馬灯のように次々と映し出されています。

ミクロコスモスの存在である主人公とホップを、
オーバーロードさせられたブラックナイトが内部に取り込み、
finish=未来が来ないマクロコスモスの秩序の中に置いている、
という意味に解釈出来ます。

主人公とホップは、何でも大人が解決してくれるInfiniteの世界で、
無知蒙昧のままに過ごす安寧を得るのです。


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ですが、主人公とホップは剣と盾を手に取り、
ブラックナイトを打ち破ります。

これまた英語版では2人が切り開いた未来の事を
輝かしい未来「bright future」と呼んでいて、
the Darkest Day=暗黒の時代と対比させている事が分かります。


暗雲が晴れた後に光が差し込むシーンが、
実に象徴的で良いですね。



ポケモン剣盾の主題歌『Brand New World』





剣盾のPVで流れていた主題歌『Brand New World』。

最初にこれを聞いた時は、何でNew(新しい)じゃなくて
Brand New(刷新された)世界なのか、
ちょっと意味が分からなかったのですが、
剣盾のストーリーを終えてから改めて聞いてみると、
これは未来を切り開いた後の世界を表してるんじゃないかなと思えました。


古代ギリシャのマクロ・ミクロコスモス観は、
16世紀の天文学者が発見した新しい宇宙の秩序構造である
地動説に取って代わられ、急速に失われていきました。

ギリシャ哲学を教義に取り込んでいたキリスト教では、
今まで信仰の拠り所としていた天地が突然ひっくり返った事で、
神だけでなく、神を信じていた己の生き方まで
実は嘘っぱちだったのではないかと疑いの目を向けるようになります。
ほぼ同時期に宗教改革が起きたのも無関係ではないでしょう。


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人間は考える葦である」で有名なブレーズ・パスカルは、
こうした中世の人々の不安を

Le silence eternal de ces especes infinis(無限なる空間の永遠の沈黙)

と表現し、

m'effraie(私を恐怖させる)

と結んでいます。


神の束縛から脱却した人々に待っていたのは、
前途洋々たる輝かしい未来などではなく、
無にも等しい己自身が孤立する恐怖だったといいます。


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未来の分かれ道は、剣盾のストーリーでもはっきりと描かれます。

最強のトレーナーになる!!!

とねがいぼしに3回願ったホップの夢は、
主人公に未来を打ち砕かれ、叶う事はありませんでした。

相棒のウールーを外してウッウやオーロットを繰り出し、
兄・ダンデの真似をしてトルネード投法を試しても、
偉大なるチャンピオンが歩んだ同じ道を閉ざされてしまいます。


しかし、ホップはポケモン博士になる新たな道を歩み始めました。

ねがいぼしのパワーが叶える夢、
すなわちムゲンダイナが指し示す道ではなく、
自分で自分が歩む道を選び、未来を切り開いたのです。

孤立への恐怖に打ち勝ち、己の力で道を切り開いた
ホップこそ真の勝者なのかも知れません。


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剣盾のシナリオ構造についての考察は、
以上になります。


ねがいぼしとムゲンダイナを巡るお話になっていて、
剣と盾のお話じゃなかったのは、
続編のフラグじゃないかと個人的に思っています。

シアンとマゼンタを足すだけでは、ブラック(ナイト)にはなりませんし。
イエローだろ、イエローが居るんだろ?

この記事の続きは、続編が出たら書く予定です。
それまでお楽しみに。