[ロンドン 15日 ロイター] - 環境や社会問題、企業統治への取り組みの積極性をうたい、世界の投資資金を取り込んでいる「ESG企業」に対し、ヘッジファンドが空売りを仕掛ける機会をうかがっている。
株価の動きと逆張りをすることでしばしば悪役にされる空売り筋のヘッジファンドがこうした動きに出るのは、ESG企業に対するあいまいな株価評価に利ザヤ確保のチャンスをかぎ取っているからだ。
ESGについては、企業の自己PRで過度に株価がかさ上げされていたり、事業の展望を損ないかねないリスクが覆い隠されているケースも少なくない。
そうした情報ギャップを利用しようとする空売り筋の動きは、ESG企業の持続可能性をどこまで信用できるのか、正確に見極める方法はないのか、という投資家が直面する複雑さを浮き彫りにしている。
<見せかけの環境配慮>
気候変動や経済的不平等に対する懸念が社会一般でも政治の世界でも高まっていることを背景に、利益を上げるだけでなく、より大きな責任を引き受けていることを示すよう企業に求める圧力は高まっている。
ESG投資の統計を手掛けるグローバル・サステナブル・インベストメント・アライアンス(GSIA)によると、「持続可能」と定義される投資は世界の全運用資産の4分の1余り。ESGを喧伝する企業を同業他社よりアウトパフォームしているとするアナリストリポートを追い風に、この分野への投資額は約31兆ドルに達している。
一方、マディー・ウォーターズのカーソン・ブロック氏、アップルシード・キャピタルのジョシュ・ストラウス氏、モーフィック・アセット・マネジメントのチャド・スレーター氏など空売り投資家の一部は、持続可能性に関する企業の不実表示、いわゆるグリーンウォッシュ(うわべだけの環境配慮)が株価を押し上げている可能性があると主張する。
モーフィックのスレーター氏は「今やグリーンウォッシュが絶対的に蔓延している。空売り筋の立場からすれば、これは非常に興味をそそられる状況だ」と述べた。
<ESG評価、統一基準は不在>
ESG企業の投資レーティングを提供する分析会社は、企業の開示した情報や別の情報源、第三者のデータの定性的分析などを組み合わせている。分析結果は投資家にとって主要な情報源だが、厳密に科学的なわけではない。
ヘッジファンドは標的となる企業を選ぶ際に、より伝統的な手法として財務面や経営面の弱さを調べるとともに、ESGへの取り組み度合いについても分析する様々な戦略を用いる。空売り筋の関心を引くのは、そうした中でもESGのレーティングが高い企業だ。
ロイターが英国、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアの国レベルの規制当局とリフィニティブのデータを調べたところ、各国でESGの評価が最も高い企業5社をまとめて見ると、ESGの評価が最も低い企業5社の合計に比べ、株式が空売り対象になることがより多かった。ESG評価が最も高い企業に対する売り持ちの規模は、評価が最も低い企業を50%上回った。
ESGのデータ提供業者は、エネルギーの利用状況や企業役員会の男女構成比率、給与格差に関する統計、世界各地での否定的な報道の規模などさまざまな指標に基づいて評価を下す。リフィニティブはそれぞれの企業について400以上のESGの指標を算入している。
しかし重要な問題は、ESGの尺度やリスクについて企業が開示すべき項目を定める規則がほとんどなく、あってもばらばらだと、大手ESGデータ提供会社サステナリティクスの幹部、ディーデリク・ティマー氏は指摘する。「企業はものごとが順調に運んでいるときはよく報告するが、うまくいかなくなると黙るものだ」。
ロイターのインタビューに応じた2人の有力な、世界的に大規模な資産を運用する責任者は、複数のデータ提供会社を使って自分たちのポートフォリオを検証したところ、ESGの評価間の相関性は非常に低いことが判明したとし、自分たちで独自の評価制度を構築中だと明かした。
ヘッジファンド向けのデータ分析会社ラベンパックのピーター・ハフェズ氏も「完璧なESG評価は存在しない」と認める。
<道徳性を空売りの基準に>
マディー・ウォーターズのブロック氏は企業統治に焦点を当てる伝統的な手法から手を広げて、社会にこっそり害を及ぼす行為に事業の成功が掛かっているような企業を標的にしたいと話す。いわばESGの「道徳的規範に着目する空売り戦略」の追求だという。
同氏は「ESGには非常に懐疑的だ」と語る。プラスチックのふたが付いた大きなプラスチック容器に形ばかりの紙製ストローを付けるようなふるまいに対し、企業規範の厳しさを適用してみたいのだという。
「ESGは投資における紙製ストローだ」と同氏は喝破。「そうした企業をぜひ見つけ出してみたい。そういう企業があることが分かっているし、そういう企業(の株価評価)を地に落とす助けをしたいのだ」。