英労働党、強硬左派コービン氏を党首に 中道路線転換

2015/9/12付

【ロンドン=小滝麻理子】英国の最大野党・労働党は12日、臨時党大会を開き、強硬左派の下院議員ジェレミー・コービン氏(66)が新党首に選ばれたと発表した。同氏は反緊縮や格差是正を訴え、党員らの6割近い支持を得た。1990年代以来中道路線を取ってきた同党の大きな転換となる。キャメロン首相率いる保守党の市場経済を重んじる経済政策や欧州連合(EU)離脱の是非を巡る交渉にも影響は及びそうだ。

労働党の党首選は、5月の総選挙で労働党が保守党に大敗したことを受け、8月中旬から9月10日まで投票を行った。

12日の投票結果では、4人の候補者のなかでコービン氏が投じられた42万2664票の59.5%を獲得し、2位以下に40ポイントもの差をつけて圧勝した。党員だけでなく、主要労働組合からも軒並み高い支持を得た。

選出後の演説でコービン氏は「金融危機を利用して、人々に過大な負担を与えた」と現政権の緊縮策を批判。今の英国が一部の富裕層ばかりを遇しているとし、「人々はグロテスクなまでの不平等にうんざりしている。よりよい社会を作ろう」と呼びかけ、党員らから大喝采を浴びた。

コービン氏は選挙戦で、鉄道再国有化や高所得者層への課税強化、核兵器廃絶などを主張。これに対して、90年代にブレア労働党政権下で市場経済とのバランスを重視する「ニュー・レイバー」を掲げてきた労働党幹部らは猛反発した。ブレア元首相自ら「コービン氏が党首になれば労働党は破滅する」と訴えたが、中道路線で保守党との違いがなくなったと感じる人々や生活苦に直面する若年層の不満を集め、人気はかえって高まった。

コービン氏は1983年に下院初当選の大ベテランで、トレードマークは自転車とノーネクタイ。キャメロン首相など40代の若いエリート層出身のリーダーが目立つ最近の英国にあって、庶民出身の"泥臭いリーダー"像を体現する。

もっともその政治手腕は未知数だ。これまで党内の役職についた経験はない。下院の議決で党の方針に500回以上も背いた異端児でもあり、党内をまとめられるかを不安視する声は多い。コービン氏は12日の演説でほかの候補の健闘を褒めたたえ、「一つの労働党になる」とアピールしたが、「このままでは次回の総選挙でも保守党に負ける」との声が労働党から出る。

それでも、左派として強い信条を持つコービン氏が党首になったことで、英政治への影響は避けられない。最大の注目はキャメロン首相が2017年末までに予定する欧州連合(EU)離脱の国民投票への影響だ。

労働党はこれまで親EU路線を党是としてきたが、コービン氏は「ギリシャ支援などを巡りEUに改革が必要なのは明らかだ」と独自の見解を見せる。最近では、EUの前身である欧州共同体(EC)を巡る1975年の英国民投票で加盟継続に反対票を投じたことを明らかにした。コービン氏のEUに対する懐疑的な姿勢が、労働党支持者のEU離脱への姿勢を強めるのではないかと懸念する向きも出ている。

外交政策が混乱する可能性もある。コービン氏は中東やアフリカなどからの難民の受け入れには積極的だが、過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆拡大などには否定的だ。これまでは二大政党は反発しながらも、テロ対策などでは現実的に折り合ってきたが、原理的なコービン氏の登場により、英国が外交分野で"決められない政治"に陥るリスクも浮上している。

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