“猫社員”がいる会社 どんどん増えて10匹、業績も右肩上がり

   猫がいる会社は最近よく聞くが、なんと10匹の猫が“社員”として常駐するIT企業が都内にある。デスクや棚に猫が座り、仕事ぶりをチェックするように歩き回る。「手を貸そうか?」とばかりにキーボードを踏むことも……。なぜそこまで猫社員が増えたのか、取材してみた。

(末尾に写真特集があります)

  東京都世田谷区、駒沢大学駅のすぐ近くに、アプリ開発やWeb開発を手がけるIT企業「qnote(キューノート)」はある。外観はふつうの2階建ての家屋だ。

「1歳から15歳までの猫社員が10匹、営業部に所属しています」

 代表取締役の鶴田展之さん(50歳)に案内されて1階のオフィスに入ると、デスク、棚、マットなど至る所に猫がくつろいでいた。その中で、社員が黙々と作業をしている。パソコンの裏で暖をとっている猫もいる。

道路で発見されて怪我から復活したごまお
道路で発見されて怪我から復活したごまお

「いつもこんな感じです。時々キーボードを踏まれて、キャアーと悲鳴があがることもあります」と鶴田さんが説明し、薄茶トラ猫を抱きあげた。

「一番年上の『ふたば』。会社を設立した翌年からいるんですよ」

寿司屋の貼り紙を見て迎えた最初の猫

 さかのぼること15年前、夏のことだ。当時、起業して2年目の小さな会社は江戸川橋のマンションにあった。昼食に近くの寿司屋に行くと、「子猫さしあげます」との貼り紙。猫好きだった鶴田さんの心が動いた。

「堅苦しい会社にしたくなかったし、社員もみな猫好きだったので、引き取ることにして、その寿司屋の名を付けたんです(笑)。その後、社員の飼い猫と見合いをして、6匹生まれ、1匹は社員宅に行き、5匹が会社の子になりました。一気に賑やかになりましたね」

 手狭になったため、会社は御徒町に移転した。その後、社員の自宅のマンションと塀の隙間に挟まっていた黒白猫を救出した。骨盤を複雑骨折していたため病院で手術を受けさせ、「みい」と名付けて、会社に置いた。

「猫も人も増えたので、不動産に詳しい猫仲間に物件を探してもらい、4年前、この一軒家を借りて“大移動”してきました。その後、2年前くらいに、社員が近くの道で動けなくなったキジ白の猫を見つけて、さらに仲間に加えました」

フロアの一角に敷いたホットカーペットでくつろぐふたば(左)と息子たち
フロアの一角に敷いたホットカーペットでくつろぐふたば(左)と息子たち

猫の世話も社員の仕事

「ごまお」と名付けたその猫は頸椎を損傷しており、会社で治療費を負担して入院。退院後は社員が給餌などの世話をした。その甲斐あって、今は足に麻痺が残るものの、ケージから出て自力で歩いて食事もとれるようになったという。

 さらに昨年、懇意にしている保護猫カフェから2匹譲り受け、猫社員は総勢10匹となった。

   これだけいても、オフィスはほとんど臭わない。トイレの数は大小合わせて9つあり、掃除機をこまめにかけて、吐けばすぐにフロアを拭き、コロコロで毛を取る。それらは人間の社員が交代でしている。

   社員の採用資格は、もちろん猫好きであること。

  5年前に「猫が前面に出た求人サイト」を見て応募してきた大菅智史さん(29)は「毎日楽しい。家に帰ると、服に毛がついていたりして(笑)、それも可愛いと思う」。3年前に入社した大塚彩也香さん(24)は「癒やされます。猫がいないのは、逆に考えられないくらい」と微笑む。

「猫がいると良いことばかり」と鶴田さん(中央)。社員はみな猫好き!
「猫がいると良いことばかり」と鶴田さん(中央)。社員はみな猫好き!

猫が人と人をつなぎ、会社を大きくした

 そんな社員の様子を見ながら、鶴田さんが話す。

「猫が会社にいると、メリットばかり。社員が集まりやすく、社員間も猫でつながっています。お客様にも『猫がいる会社』として覚えてもらえて、打ち合わせしましょうというと、『じゃあ、そちらに伺います』と、猫会いたさで言ってくださることもあるので(笑)」

  だが、猫に関して日本は「遅れている」と嘆く。

「アメリカでは警察署で保護猫を飼うケースもあり、猫を広告塔にして、保護の啓発活動したりしている。たとえば、日本でも中小企業の5%が保護猫を飼ってくれれば、ずいぶん変わると思うんですが……。殺処分や奄美のノネコの問題も心が痛みます。でも、悲しんでばかりいても仕方ないので、常に猫のことを考えて出来ることから僕はやっていきたい。保護活動をしている人たちへの支援もしたいですね。猫への恩返しではないけれど」

   鶴田さんは20代半ばのころ、ひどく悩む時期があったそうだ。そんな時、つきあっていた女性(今の妻)が子猫を贈ってくれて、その生命力に救われ、元気になって起業したという。猫は公私に渡り、鶴田さんの「人生の友」でもあるのだ。

   会社設立から16年、猫を社員として置いて15年。猫がいる会社として「失敗例になってはいけない、成功しないと」と強く思ってきた。実際、会社は猫とともに成長してきた。起業当時4人だった社員は、現在27人まで増えた。

「設立当初は、月の売り上げが、たった5万円、今は年商1億6千万円以上。猫さまさま、招き猫ですね。じつは来年の春ごろに阿佐ケ谷に移転します。人数的に賃貸では難しいので、地下室付きの4階建てのビルを購入したんです」

「はかどってる?」「おかげさまで」
「はかどってる?」「おかげさまで」

猫のための新しい夢

 移転先では、2階から4階までをオフィス、1階を車やバイクなどのガレージと応接スペース。そして地下1階を、カフェにする構想だという。

「ギターが好きでバンドもやっているので、ライブをしたいし、猫関係のイベントも企画したい。保護猫の写真展とか、譲渡会などにも使ってもらおうと思っています」

 古くからいる猫社員にとっては、それが最後の引っ越しで、新オフィスが終のすみかとなるはずだ。

「今は元気ですが、シニア猫が多いですからね。もしこの先、闘病するような時が来たら、社員としっかり最後までケアをします。一生幸せにしてあげたいから」

 そういって鶴田さんは、猫たちをなでた。

(小林郁人撮影)

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藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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