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中性脂肪が気になるあなたへ

ご自身の健康状態を知るために、皆さんは健康診断を受けられることと思います。中でも中性脂肪(トリグリセリド:TG)の値に気を付けている方は多くおられるのではないでしょうか。

中性脂肪は血液中に存在する脂質の1種です。生命維持のためのエネルギーとしては、ブドウ糖が主に利用されますが、ブドウ糖の不足を補う形で中性脂肪が利用されています。私たちが食事をすると、食物中の脂質は小腸から吸収され、その一部が中性脂肪の状態でエネルギーとして利用されます。このとき使い切れなかった分の中性脂肪は肝臓や皮下、血中に蓄えられて、必要な時に利用されます。この機能は、我々が狩猟で食糧を得ていた時代に安定して食糧を得ることが出来なかったために発達したと言われています。しかし、現代のような飽食の時代では、過食や過飲によるエネルギーの取り過ぎや運動不足により中性脂肪の蓄えが多くなりすぎる、つまり中性脂肪の値が上昇する方が多く、問題となっています。中性脂肪が高い状態では肥満になりやすく、生活習慣病のリスクが高まります。メタボリックシンドロームの診断基準の1つとしても中性脂肪の値が挙げられています。

さて、この中性脂肪ですが、低ければ低いほど良いものだと思っている方はいませんか。中性脂肪が高い状態はもちろん良いものではありませんが、低すぎてもまた、私たちの体に様々な弊害が出て来る場合があります。日本動脈硬化学会によると、健常人の基準値は30~149mg/dL(空腹時)とされています。中性脂肪の値が基準値以下の場合、体内のエネルギーの蓄えが少ない状態であるため、疲れやすい、休憩しても回復しない、といったことが起きることがあります。また、中性脂肪は全身の体温調節に関係しているため、低体温、手足の冷えといった症状が現れることもあります。さらに中性脂肪の減少に伴い、中性脂肪に溶け込んで体内を巡る脂溶性ビタミン(ビタミンA・ビタミンE・ビタミンK・βカロチンなど)が体内で不足し、免疫力の低下や、抜け毛、肌荒れなどの皮膚トラブルが懸念されます。

中性脂肪が低い原因はいくつか考えられます。一つ目は、極端な食事制限です。中性脂肪は食事の影響を受けやすい項目です。若い女性に多い例ですが、極端に脂質を制限したり、食事をとらなかったりすると中性脂肪の値が低くなります。検査時にたまたま中性脂肪の値が低かった、というだけなら問題ないですが、この状態が続くと注意が必要です。二つ目は、過度な運動です。アスリート並みの過度な運動をすると、蓄えられていた中性脂肪が大量に消費され、値は低値になります。運動は大切ですが、やりすぎないこと、また、しっかりと栄養補給を行った上で行うことが重要です。三つ目は、何らかの疾患によるものです。例えば、肝臓の機能に問題がある場合私たちは中性脂肪を合成、貯蔵することができなくなり、値が低値になります。また、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の場合には新陳代謝が非常に活発な状態となり、多くの中性脂肪を消費するため、値が低値になります。ただし、これらの疾患の場合は中性脂肪とともにコレステロールが減少したり、種々の自覚症状が現れたりする場合が多く、中性脂肪の値だけで判断することはできません。四つ目は体質や遺伝です。これまで述べたような原因に当てはまらない場合、体質的に中性脂肪を蓄えにくいと考えられます。このような方は食事に気を配り、意識的に脂質を多くとることが大切です。

中性脂肪の値が低い人は、言わば余力のない状態であり、あまり健康的とは言えません。食事制限、運動なども極端にやりすぎることなく、余裕を持って行ってみてはいかがでしょうか。

Vol.61, 2018.04

尿・一般検査室 奥村美咲

参考資料

日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版_日本動脈硬化学会,2017

薗田勝:マンガでわかる栄養学_株式会社オーム社,2013

今村敏治・脊山洋右:血清脂質とその役割_医学と薬学,1984;11(2):309-316

豊嶋英明・林千浩・宮西邦夫ほか:血清ビタミンA,E濃度に対する血清脂質,喫煙,飲酒の影響_日衛誌,1989;44(2):659-666