後半、やや倒錯した性的描写があります。
クレマンティーヌが目を覚ますとそこは闇の世界だった。
「…………ここ……」
ぼんやりする頭に寝ぼけ眼、そんな状態でクレマンティーヌは世界有数の強者らしく逞しい精神力で状況把握を始めた。
(最後の記憶……えっと……)
「………………っ」
脳裏に恐怖と絶望の象徴である絶対者の髑髏の相貌を思い出し、クレマンティーヌは不安心から自分の身体を抱き締めようとした。
「……?」
だが、できなかった。
身体の自由が利かないのだ。
視界が全くの闇しか捉えることができなかったことから自分の身体が今現在どういう状態なのかは詳細には把握できない。
しかし四肢の自由が利かない事から判断するに鉄錠のようなもので各四肢は固定されているようだ。
加えて暑くも寒くもなかったが、肌に直接感じるこの空気の感触。
「真っ裸って、わけね……」
拘束されている四肢は動かせないものの、肌に物理的感触を感じがしないところをみるとどうやら魔法の類を使われているようだ。
「ん……」
目を覚ました時に頭を上げられたので首は拘束されていなかった。
クレマンティーヌは僅かな自由を噛み締めようと首の凝りを解しながら考える。
(あの……に拘束されてまだ生きているってことは、まぁこれから拷問を受けてその後に死ぬか生きるかってところね。問題は……)
『何度でも蘇らせてその度に殺す。哀れにも弱って抵抗する力がなくなっていくお前を飽きるまで嬲り殺し続け、その後ようやく飽きたら今度は早く死んで楽になりたいと思う様な苦痛が続く地獄に捕らえ続けてやる』
頭にこびり付いていたので長い言葉でも明確に思い出した。
「うっ……」
拷問どころではなかった。
絶対者が言っていた事は間違いなく事実だろう。
という事は数々の修羅場をくぐり抜け、頭がおかしくなりそうな闇を見てきた自分が覚悟して受け入れようと予想していた悪夢も当然生温いということになる。
「……うっ……ひっ……ぐす……」
再びあの時感じた恐怖と絶望を思い出し、完全に屈服した相手に拉致された上に裸に剥かれ、自由も奪われているという状態も相まって、亀裂の入っていたクレマンティーヌの心は耐えられるはずもなく少女のように涙を零して泣き始めた。
完全に心のタガが外れた影響で無意識に再び失禁もしていたが、もうそんな醜態など気にならないくらいこの時点で彼女は絶望していた。
そんな時である。
「ひっ?!」
枯れ葉が硬い物に当たってるような乾いた音が闇の彼方から聴こえ、クレマンティーヌは見えもしないのに恐怖で見開いた目を前方に向ける。
意味があるかどうかは判らなかったが、彼女はは必死に息を殺して己の気配を隠そうしたものの、口元を手で隠すことはできなかったのでどうしても荒い息の一部が鼻孔から微かに漏れ出た。
「ふむ、僅かな息遣いと臭いから察するにどうやら意識を回復したようですな」
「だ、誰?!」
聴こえてきた声はこの場に似つかわしくないほどに紳士的で落ち着いた男性の声だったが、クレマンティーヌはそれくらいで安心感を覚えるほどこの状況を甘くみていなかった。
無駄とも思えた彼女の問い掛けに声の主は意外にも「失礼」と柔軟に応じ「自己紹介をするならお互い姿が見えなければ意味はありませんね」と壁に設置されていた何かの照明装置を作動させた。
「!!」
クレマンティーヌは声の主の怖気が走る姿を見て声を出せずに絶句した。
目の前に現れたのは不気味に直立こそしているものの巨大なゴキブリそのものだった。
常にせわしなく動く脚や触覚と顎はそれだけで男性はもちろん、特に女性は感じる嫌悪感は相当なものだった。
「まぁ私は暗くても視えていたんですけどね。魔法やスキルが使えない状態では人間である貴方にはなす術はありませんからね」
どうせなら見えないほうが良かった。
心底そう思いながらクレマンティーヌは恐怖で歯をカチカチ鳴らしながらゴキブリに問うた。
「な……なんなのよアンタは?!」
「いけませんよ。女性がそのような大きな声ではしたない」
ゴキブリはそう言うとコホンと咳払いをして手の役割をしていた脚の一つを器用に動かしてお辞儀をして言った。
「私は恐怖公。アインズ様の命によりナザリック地下大墳墓の第二階層にございます領域、通称“黒棺”の守護の任を務めさせて頂いる者です」
「はぁ……はぁ……」
自分の事を恐怖公と名乗ったゴキブリの言っていることの殆どは理解できなかったが、その僅かな合間にクレマンティーヌはなんとか息を整えて落ち着こうとした。
一方恐怖公はというと紳士的にクレマンティーヌが落ち着くのをじっと待ち、激しく動く彼女の肩の動きが小さくなるのを見守っていた。
そしてやがて顔こそ上げて自分の方を見ないものの、吐いていた息が大分小さくなたっのを認めたところで恐怖公は続けた。
「貴方は……ああ、いや。無理に自己紹介をされなくても結構ですよ。察するに随分お辛い状態のようですからね。私の方で必要な情報は予め頂いておりますので……。貴女のお名前はクレマンティーヌさんでしたよね? どうぞ宜しく」
「私に……何をする気……?」
恐怖公の挨拶には応えず、クレマンティーヌは会話の核になる部分を直球で訊いた。
如何に紳士的に接せられてもゴキブリと親しく話す気になど到底なれなかった。
恐怖公はそんな彼女の素っ気ない(?)態度に気分を害した様子もなく、紳士的な態度を崩さずに落ち着いた声で答えた。
「お話が早くて助かります。私は自分の役割を果たすために貴女の元を訪れました」
「役割……?」
「先ず貴女にお伝えする事と致しましては、ご安心ください。貴女は死にません。そしてこれからも死ぬような目には遭いません。これは直接面接(?)されたアインズ様が最後は反抗する事なく大人しく負けを認められた貴女の態度を評価されたからです。殊勝ですね。この事には私も感心致しました」
「…………」
クレマンティーヌはただ黙って恐怖公の次の言葉を待った。
殺さないとしたらどうするのだろう。
やはり拷問を受けて先ずはいろいろと情報を引き出されるのであろうか。
(クソ……)
クレマンティーヌは心の中で過去に法国に施された機密の漏洩を防ぐた為の
解除をしていなければ自分から態とタブーに触れて一回は楽に死ねたのに。
(一回……)
確かあの絶対者は殺す度に何度も生き返らせるというような事を言っていた。
ということは一回安らかに死ぬことなどほぼ意味が無いという事だ。
(なんだ、結局解除してもしていなくてもほぼ同じじゃん……)
自分の浅はかな打算を自嘲する感情は止められず、クレマンティーヌはこんな状況にも関わらずつい笑みを顔に浮かべてしまう。
「おや? 何故お笑いに? 気丈な方ですね」
「気にしないで。それで、改めて訊くわ。この自由を奪われた上に裸に剥かれ、その上小便まで漏らしている敵対していた女に、殺す意思がないとしたら何をする気?」
「ああ、ええ。端的に申しますとこれから貴女に洗礼を施します」
「……洗礼?」
「はい。アインズ様は貴女を
「外様は洗礼を受ける必要があるって事?」
「その通り」
恐怖公はクレマンティーヌの明瞭さを称えるようにスティックの柄を持っていた脚を空いている方の脚でポンポンと叩いた。
「それで、ですね。それに当たりまして次に貴女にお伝えする事があります。洗礼は大変な苦痛を味わうものになります。相手を苦しめることに悦びを見出す嗜好は私にはありませんが、これも務めですのでどうかここはご容赦ください」
「……」
絶対者が与える苦痛、その言葉を聞いてクレマンティーヌは顔を蒼くするが、恐怖公がまだ何か言いたいことがあるようで、何となくそれに根拠の無い期待を感じて黙って彼の次の言葉を待った。
恐怖公はそれに応えるように今度は少し明るい声で言ってきた。
「しかしですね、ここで最後に貴女にお伝えすることがあります。この洗礼に関しまして貴女の面接(?)時の殊勝な態度を評価してアインズ様は少しだけその洗礼の内容を易しくされる決定をされました」
「……というと?」
「簡単に言うと一つのみだった工程を2つに分け、最初の工程は元々あった工程と同じで大変な苦痛を味わうものです。しかしお喜び下さい。今回その行程を行う時間を従来の半分とします」
「……もう一つの工程は?」
「性的な陵辱を与える内容です。これも紳士の私としては心苦しいのですが、まぁ見ての通り私は異型種ですから貴女にそういった事を行っても特に感じ入る事はありません。ただただ貴女は私のことなど気になさらずに陵辱に耐えて頂ければ宜しいかと存じます」
「……ねぇ」
「なんでしょう?」
「その工程、どちらを先に受けるか選べるかしら?」
「洗礼執行の裁量は私に一任されております。そのご希望には問題なく応えられますよ」
「じゃあ最初に一番辛いのお願い……」
「賢明な選択かと存じます。では準備は宜しいですか?」
「え」
円滑な会話からあまりにもスムーズに即洗礼が始まろうとしている事にクレマンティーヌは動揺の声を漏らした。
(え? もう直ぐ? 今から始まるの? しまった、せめて内容くらい訊いておけば……)
「……………え?」
恐怖公の足音というよりその雰囲気に似た音をクレマンティーヌはその時聴いた。
最初はカサコソという小さな音が次第に大きくなり、そして暴風のような音を発して恐怖公の背後からナニカが自分に向かってくるのを彼女は感じた。
恐怖公の背後から黒い風がうねるように現れたかと思えば“それ”は2つの流れに別れて彼を避け、その前で一斉に地面に降りて合流し、一つの黒い波となった。
「あ…………いやぁぁぁぁぁぁ!!」」
その地面から自分に這い寄ってくる黒い波の正体に気付いてクレマンティーヌは悲鳴を上げた。
涙と涎、そしてまた失禁しながら無駄とは解っていても拘束された身体で可能な限り身をよじろうとした。
彼女に迫ってきたのは大量の“普通”のサイズのゴキブリだった。
動けない身体の穴という穴、目、口、鼻、耳から虫が侵入してきた。
怖気、吐き気、痛み、あらゆる苦痛で気が遠くなりかけた時、虫に破られる寸前の彼女の鼓膜が僅かに恐怖公の声を捉えた。
「先ずは本来は1週間のところを4日、私の眷属の食料として耐えてください。途中で死なないようにしっかり管理しますので。あ、性器と肛門からは今回は……」
クレマンティーヌが正気で捉えた恐怖公の声はここまでだった。
あとはひたすらに発狂しながら苦痛にまみれ、4日経つ頃には息をしているだけの屍のような状態になっていた。
「酷い状態だな。生きているが死んでいるぞ」
「髪もストレスで抜け落ちたり白色化していますね。脳もストレスの影響で萎縮しているでしょう」
「やはり女だと男より劣化が激しいか?」
「統計的にはその傾向が認められますが、そもそも人間が種族として虫に嫌悪感を抱く傾向が強いみたいですからね。あまり当てできるデータではないのではと私は愚行します」
「ふむ、そうだな。よし、経過観察はこれで良い。完全に回復させたらまた恐怖公に引き渡して残りの工程を済ませろ」
「畏まりました」
記憶の何処かでそんな魔王と悪魔の会話を聴いた気がした。
「…………ん」
「おはようございます。お喜び下さい最初の工程は終わりましたよ」
「!!!」
意識を回復したら目の前に嫌悪感の権化が居た。
ソレを見ただけでクレマンティーヌの意識は完全に覚醒し、全ての記憶も思い出して恐怖からガタガタと震えだす。
だがこの時も身体は裸で拘束されており、自分の体を抱いて不安を和らげることはできなかった。
だが両脚だけは何故か拘束されていなかった。
「では、起きて早々です恐縮ですが、最後の工程と参りましょうか」
最後の工程。
最初の時は目、口、鼻、耳の穴から虫に侵入され地獄という言葉では生温い程の苦痛を味わった。
そして次、脚だけは拘束されていない現在の状況とアノ時下半身からは虫に侵入されることはなかった事から大凡の見当は付いていた。
つまりは……。
「…………」
クレマンティーヌは白い顔で黙って恐怖公に股を割って見せ、彼にデリケートな2つの穴を晒した。
「殊勝ですね。今からは痛みを伴う苦痛はありません。その代わりひたすら己の尊厳が侵される苦痛に耐えて下さい。では行きますよ」
最初の時と違って今度はゴキブリだけでなくもっと奇っ怪で怖気が走るフォルムをした様々な虫が多数恐怖公の背後から出現してきたのを見て、クレマンティーヌは涙を一筋流しながら壊れた笑みを浮かべるのだった。
オバロの新作が来年出るようで嬉しいです
というか早くベルドの正体が知りたいっ
聖王国編の話とか今度は作ってみたいなぁ