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12月12日の英下院総選挙で、ジョンソン首相の率いる保守党が365議席を獲得。EU離脱が進むことになった。英国の離脱はEUに甚大な影響を及ぼす。英国の人口は約6600万人、GDPは約2兆3000億ユーロ。EUのGDPは一挙に約18%、人口は約13%減る。この離脱は、欧州で右派ポピュリズム勢力が収める最初の具体的な勝利だ。

勝利のガッツポーズをするジョンソン英首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 「ブレグジットを終わらせよう(Get Brexit done)」というボリス・ジョンソン首相のスローガンが、英国の有権者を突き動かした。保守党の大勝で、英国が来年1月末までにEU(欧州連合)との合意に基づいて離脱することはほぼ確実となった。

保守党、32年ぶりの歴史的圧勝

 12月12日の下院総選挙で、ジョンソン首相の率いる保守党が365議席を得て、過半数を確保することが確実となった。英国下院の議席数は650なので、ジョンソン首相は安定過半数を確保する。これは1987年にマーガレット・サッチャー首相(当時)の率いる保守党が下院総選挙で圧勝して375議席を確保したのに次ぐ、地滑り的勝利だ。これに対しジェレミー・コービン氏の率いる労働党の議席数は203にとどまった。これは1935年以来最も少ない議席数だ。

 わずか1年前には下院で何の権限も持たない「ヒラ議員」だったジョンソン首相に、有権者は絶大な権力というクリスマス・プレゼントを与えた。彼はブレグジット(英国によるEU離脱)を跳躍台に使って、権力拡大という政治的目標を着々と実現しつつある。保守党は、不運続きだったテリーザ・メイ前首相の時に比べて、下院での勢力を広げることに成功した。保守党にとっても、メディアから「ピエロ」と揶揄(やゆ)されたジョンソン氏を首相に担ぎ上げたことは、「勝利」だった。

 ジョンソン圧勝は、英国のメディアや世論調査機関にとっても、想定外の事態だ。投票前の世論調査では、保守党への支持率(40%台)が労働党への支持率(30%台)を約10ポイント上回っていたが、実際の開票結果がこれほどの大差になるとは誰も予想していなかった。

 ジョンソン首相は公約通り来年1月末までにブレグジットを実現するために、EU離脱に関する協定案を早急に下院で可決させるだろう。プリティ・パテル内務大臣は、「政府はクリスマス前に下院で協定案の承認を受け、ブレグジットを実現する」と述べている。

「ブレグジットを片付けて、前へ進もう」

 この選挙は、ブレグジットに関する事実上の2度目の国民投票だった。有権者たちは今回、ブレグジットを断行するよう、首相に明確な負託を与えた。EU残留派の希望を打ち砕き、ジョンソン首相に追い風となったのは、「ブレグジットを早く終えたい」という国民の願望だ。

 英国にはブレグジット疲れ(Brexithaustion)という言葉がある。2016年の国民投票で離脱派が勝利したものの、ブレグジットは政府と議会下院の対立のために、3年以上袋小路に陥っていた。英国、EUの政界、産業界では「ブレグジットをめぐる交渉のために、経済のデジタル化やロシア・中国からの脅威への対応、移民問題など、重要な議題がおろそかにされている」という不満が高まっていた。特にブレグジットに関する政府の提案が、ことごとく議会でブロックされ、堂々めぐりの状態が続いたことに多くの英国民がうんざりしていた。

 保守党は今回の選挙戦で映画「ラブ・アクチュアリー」(2003年公開・ヒュー・グラント主演)を基にしたテレビ広告を放映した。クリスマスを前にした英国の住宅街。玄関のベルが鳴ったので住人の女性が扉を開けると、ジョンソン首相が立っている。彼はテープレコーダーでクリスマス・キャロルの音楽を流しながら、メッセージを書いた紙を女性に次々に見せる。そこには「もしも議会が妨害しなければ、我々はブレグジットを実現して、前に進むことができます」と書かれている。首相は次々に紙を取りかえて、「しかしひょっとすると労働党が勝つかもしれません。保守党が安定過半数を確保できるか、それともどの党も過半数を取れない状態になるか、それを決めるのはあなたの1票です」と訴える。