【高橋 洋一】韓国GSOMIA延長は「日本の完全試合」そして「韓国の自滅」だ 韓国側メディアも軒並み呆れ顔

写真拡大 (全2枚)

まさに「一人芝居」

日韓のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)は、韓国側の破棄通告により23日午前零時に失効するとみられていたが、その寸前の6時間前に、破棄の停止(=延長)が発表された。

そもそも2017年5月の大統領選で、韓国の文在寅大統領は公約としてGSOMIA破棄を言っていたが、まさか実行はしないと思われていた。

しかし、日本が今年7月1日、韓国における輸出管理の不適切事案を理由として、韓国向けの輸出管理を見直したところ、韓国側は、8月23日に筋違いといえるGSOMIA破棄を日本側に通告してきた。

後で詳しく述べるが、この間日本は、韓国の理不尽な対応をほとんど無視しており、何もしていない。すべては韓国側のまさに「一人芝居」、自滅であった。

まず、日本の新聞各紙の社説を見ておこう。

朝日新聞「日韓情報協定 関係改善の契機とせよ」(https://www.asahi.com/articles/DA3S14267636.html)
毎日新聞「日韓情報協定の維持 最悪の事態は回避された」(https://mainichi.jp/articles/20191123/ddm/005/070/025000c)
読売新聞「GSOMIA 韓国の破棄見直しは当然だ」(https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20191122-OYT1T50255/)
日経新聞「協定維持を機に日米韓体制を立て直せ」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52518210S9A121C1SHF000/)
産経新聞「GSOMIA延長 日米韓の協力を立て直せ」(https://www.sankei.com/column/news/191123/clm1911230001-n1.html)

読売新聞と産経新聞は、一連の出来事は文政権の失政が原因であり、日米で韓国をただしていく必要がある、韓国側が不合理をなくすべきであるとの立場で書いている。一方、朝日新聞、毎日新聞、日経新聞は、日本も韓国とよく話し合って事態の打開にあたるべきという立場である。

面白いのが、韓国紙の社説だ。保守系三大紙の一つの中央日報は、23日の社説で、文政権を「強硬一辺倒の未熟な対応策が表した限界だ」と手厳しく批判した(https://japanese.joins.com/JArticle/259875)。朝鮮日報も「無能外交で恥ずかしい」とした(http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2019/11/22/2019112203012.html)。

Photo by gettyimages

一方、これまで文政権を擁護してきた左派メディアのハンギョレ新聞は、23日の社説で、「政府の発表内容が、日本の輸出規制撤回を要求してきた私たち国民の目の高さには達し得ないという指摘は避けがたい」と、文政権に厳しい評価を下した(http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/35047.html)。

このような報道ぶりだけをみても、韓国政府の対応がいかにトンチンカンであったかがわかる。日本の左派マスコミは、韓国紙以上に韓国政府を持ち上げているともいえる。

日本の主張を一切崩せず

さらに、日韓のマスコミの報道順を見ても、日本外交の勝利がうかがえる。

「韓国が土壇場でGSOMIA延長」というニュースがNHKなどで流れたのが、22日17時頃だった。これは、韓国政府による発表があった18時よりも1時間早い。

一方、韓国側メディアは、18時の韓国政府による発表のあとに報道していた。実は日本では、これと同時刻に、日本の経済産業省が韓国向けの輸出管理見直しについて会見すると報じられていた。

韓国政府から日本政府への連絡の後、日本側メディアがこれをいち早く報道し、韓国側メディアが報道しなかったのは、事前情報をメディアにレクするそれぞれの政府のスタンスの違いによる、と邪推するとわかりやすい外交上勝利した日本政府はレクに積極的であったのだろうし、敗北した韓国政府はそうでなかったのだろう。

こうした結果については、日本政府内から「ほとんどパーフェクトゲーム」という声も出ている(https://www.zakzak.co.jp/soc/news/191123/pol1911230004-n1.html)。もちろん、日本だけの外交努力ではなく、米国が韓国に圧力をかけ続けたことが最大の勝因だ。

今回の事実関係だけを簡単にまとめてみよう。

7月1日  日本が韓国向け輸出管理を見直し(https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190701006/20190701006.html)

8月23日 韓国がGSOMIA破棄を日本に通告(https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/page1_000873.html)

9月11日 韓国が日本の輸出管理WTO提訴(https://www.meti.go.jp/press/2019/10/20191010002/20191010002.html)

11月22日 韓国がGSOMIA破棄を停止、WTO提訴を取下げ、日韓で輸出管理対話

要するに韓国は、「輸出管理という貿易上の措置を、安全保障の問題であるGSOMIAとはリンクさせない」という日本の主張を、一切崩せなかった。もともとこのロジックは強固であり、文政権の外交音痴を露呈させただけだ。

しかも、韓国がGSOMIA破棄とWTO提訴をともに撤回したのに対し、日本はWTOプロセスが取り下げられた代わりに日韓対話を始めるというだけであり、しかもその結論はまったく決まっていない。

こうした事実関係だけを見ても、日本側の「ほとんどパーフェクトゲーム」というのも頷ける。

まだ油断はできない

23日に生放送された大阪朝日放送『正義のミカタ』では、朴一さんと辺真一さんが、この問題について解説した。朴さんは以前から、GSOMIA破棄は回避されると予想しており、その通りになったが、「韓国が一定の譲歩を日本から引き出した上で回避」という筋書きを予測していたので、韓国政府のあまりの無様さにやや精彩を欠いた。辺さんは、あっさり「日本の勝利」と言い切っていた。

筆者は、事前の予想では、「合理的に考えればGSOMIA破棄は回避されるはずだが、大統領選でそれを公約してしまった文政権では無理だろう」と悲観的だった。その当時、韓国のリアルメーターによる世論調査(11月15日)で、GSOMIAを「破棄すべき」が55%と、「延長すべき」の33%を上回っていたことからも、否定的にならざるを得なかった。

その意味で、今回の韓国政府によるGSOMIA破棄の回避決定は歓迎である。

ただし、問題は依然として残っている。GSOMIAは日米の説得と圧力で土壇場で延長が決まったが、文政権の本質は、大統領選公約にも掲げたGSOMIA破棄を、今回日本を口実として持ち出してきたことだ。

米国が再三言うように、韓国のGSOMIA破棄は中国と北朝鮮のみを利する行為だ。しかし文政権はむしろ北朝鮮にすり寄り、中国にもすり寄りたいと考えているので、「何が悪いのか」と逆に訝しがっているフシもある。

延長が決まり、GOSOMIA破棄を目論んでいた中国と北朝鮮には手痛いしっぺ返しがあるだろう。特に北朝鮮は、ここ最近も再三のミサイル発射で挑発してきたが、ここぞとばかりに、米国を刺激しない範囲で新型中距離ミサイル発射を繰り返す可能性がある。

Photo by gettyimages

中国はどう出るのか

中国も黙ってはいないだろう。中国と韓国との軍事協定の話も水面下で燻っている。中国はあの手この手で、トランプ政権が大統領選挙中に言及した「在韓米軍撤退」を具体化させ、アメリカを朝鮮半島から追い出したいだろう。

こうした最中、韓国経済は最悪期とも言えるほどに落ち込んでいる。韓国の10月の輸出は、前年同月比で14.7%減少し、2016年1月以来の大幅な落ち込みを見せた。最大の輸出相手国である中国向けの輸出減少が続いているためだ。

今後は、韓国のほうから積極的に徴用工問題をはじめとする日韓の問題を改善しないと、そのうち西側諸国とはみなされなくなり、大規模な資本の引き上げも起きかねない。そうなれば、1997年の韓国通貨危機の再来にもなり得る。