テスラの成功が示した「営業マンはもういらない」の残酷な現実

ある資本家からの問いかけ②

衝撃の宣言

2019年2月末、イーロン・マスクがまた世間を驚かせた。彼が率いるテスラの電気自動車(EV)の販売を、すべてオンラインに移行すると発表したのだ。

イーロン・マスクについてはご存じの方も多いだろう。アメリカの起業家で、いまやAppleのスティーブ・ジョブズと並び評される存在だ。

彼の野望は壮大だ。人類を火星に移住させる。宇宙に小型衛星をばらまいて、世界中で使えるインターネット網を作る。時速1000キロを超える移動手段を作る。人間の脳とコンピューターを直接つなぐ――など、いずれも常人には想像もつかないものばかり。その実現性には疑問がつきまとうが、彼はもちろん大まじめであり、そのプロセスも着実に進んでいると言っていいだろう。

そして、彼の野望が現実化した代表的なものが、宇宙産業のスペースXであり、電気自動車のテスラだ。

ゼロからロケット開発を始めたスペースXは、さまざまな失敗を乗り越え、いまやアメリカの宇宙産業の柱に成長した。株はまだ未公開だが、その時価総額は2.7兆円と言われている。2019年の夏には、人類史上最大となる予定のロケット「スターシップ」がお披露目された。スターシップ用の超巨大エンジンの開発も順調のようだ。この“船”に乗って人類は火星を目指す。

2019年秋には、スペースXのロケットに乗せて、超小型衛星60機を宇宙空間にばらまいた。その数は最終的に1万2千機まで増える予定で、これが揃えば、世界中どこからでもインターネットの高速通信ができるようになるという。

そして電気自動車のテスラ。2003年の設立から一貫して電気自動車の開発を続け、2008年に最初の車「ロードスター」を1千万円で発売。以降、複数の車種の開発を経て、2016年、モデル3という普及帯向けのモデルの発売までこぎ着けた。モデル3はもっとも低価格なモデルで500万円程度、1回の充電によって409キロ走るという。

 

テスラ、驚きの成長

テスラは設立から16年あまりでここまで来た。わずか16年だ。最初の車の販売が2008年。それから10年後の2018年、テスラは全世界で24万5240台の車を売った。

2018年のアメリカでの販売実績を見るとテスラの成長度合いが伺える。この年、アメリカでは、新車の乗用車が1727万台販売され、前年比0.3%の増加だった。販売数のトップはGMで295万台、1.6%のマイナス。2位がフォードで248万台、3.5%のマイナス。3位のトヨタが242万台で0.3%のマイナス。この乗用車のデータには普通の乗用車に加え、ピックアップトラックが含まれている。

アメリカでは乗用車よりもピックアップトラックの方がよく売れるため、ほとんどのメーカーはピックアップトラックも売っている。

ランキングを続けよう。5位がホンダで、6位が日産、12位にBMW、13位にマツダがいて、テスラは15位だ。テスラの販売台数は12万6150台。すでに三菱やボルボの上である。ほかのメーカーと違い、テスラは電気自動車のみでこのランクだ。

さらに注目すべきはテスラの伸び率だ。ほかのメーカーが軒並み対前年比の数字を減らすなか、テスラは前年比187.6%という驚異的な数字を叩き出している。

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自動車メーカーの歴史は古い。フォードの創業は1903年。GMは1908年。BMWは1916年。トヨタは1937年。ホンダは1948年。長くは1世紀、多くが半世紀以上の歴史を持つ自動車メーカーの競争の中に、テスラは創業からわずか16年で食い込み始めているのだ。

市場でもテスラに対する評価は高い。テスラの時価総額ではすでに6兆円を超え、ホンダやGM、BMWを超えるレベルまで来ている。

さて、話はイーロン・マスクによる「EVの全販売オンライン化」という発表に戻る。この発表は一見、彼がこれまで成し遂げた結果や、口にしてきた大言壮語に比べると、大したことのないように見えるかもしれない。しかし、その言葉にはイーロン・マスクの戦略を象徴する大きな意味がある。