COP25閉幕。パリ協定の運用ルールの決定を先送り、全面合意には至らなかったが、温室効果ガス削減目標引き上げの機運は、保たれたと思いたい。
四十時間。史上最大の延長戦の末、温暖化対策目標の強化を各国に促すことで合意した。
新年から始まる温暖化対策の新たな国際ルール「パリ協定」は、参加各国に削減義務を割り振らず、それぞれに提示する自主削減目標に沿って動きだす。だがそれだけでは異常気象の破局的な被害から逃れることは不可能で、目標の強化は不可欠だ。
◆表現は緩くなったが
目標引き上げの義務化を避けたい一部先進国の主張をいれて、「可能な限り」と、表現が緩められたというものの、削減目標を引き上げるというパリ協定の生命線は瀬戸際で守られた。
世界中で激化する異常気象を背景に、温暖化への危機感は辛うじて共有されていた。
それにしても、石炭火力発電所の新設や輸出に前向きな日本は、会期中、終始批判の的だった。
大量の二酸化炭素(CO2)を排出する石炭火力は、今や温暖化の「元凶」と見られているからだ。
世界の環境NGOが参加する「気候行動ネットワーク(CAN)」が、温暖化対策に消極的な国や企業に贈るCOP恒例の「化石賞」を二度受けただけではない。日本の評価は散々だ。
COP25の期間中、気候変動対策や目標に関するさまざまな研究成果や調査結果が報告された。
気候変動の研究機関でつくる「クライメート・アクション・トラッカー」の六段階評価では、下から二番目の「極めて不十分」。独シンクタンク「ジャーマンウオッチ」の進行評価では、温室効果ガスの排出が多い五十八の国や地域中、五十一位で去年より二つ順位を下げた。
◆気象被害ワースト
ジャーマンウオッチによると、過去二十年間に、異常気象によって世界で五十万人が命を落とし、経済的損失は四百兆円近くに上る。去年一年、豪雨や熱波など気象災害の被害を多く受けた国は、その日本だったのだが。
会議場の外では、日本に対する「ノー コール(石炭、やめろ)」のシュプレヒコールが、続いていた。
批判の矢面に立たされた小泉進次郎環境相は当初、石炭火力の輸出を原則認めない方針を表明し、世界にアピールするはずだった。
ところが、成長戦略の一環として、むしろ輸出を促進したい官邸や経済産業省との間で、それすら折り合いがつかず、断念を余儀なくされたという。世界中の投資家が温暖化がもたらす危険や経済的損失を理解して、石炭火力からの撤退を急ぐ中、まさに「化石」のような国ではないか。
削減目標引き上げの大胆さが際だったのは、やはり欧州連合(EU)だった。彼我の差は開く一方だ。
EUが掲げた「欧州グリーンディール」戦略は、二〇五〇年までに域内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにするために、「一九九〇年比40%」としていた削減目標を「50~55%」に引き上げた。
そのために官民合わせて年間二千六百億ユーロ(約三十一兆円)を投入し、例えば、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの大幅な普及拡大を図るという。
脱炭素と経済成長の両立を図る「攻め」の投資戦略なのである。
いずれにしても、今のままでは、「科学」に基づく国連の要求である「一・五度目標」、世界の平均気温の上昇を産業革命以前の一・五度までに抑えるという最低限の目標を達成するのも到底不可能だ。未来は大変なことになる。
強制力があろうとなかろうと、目標の引き上げは、世界にとって不可欠なのだ。
年明けには日本も、新たな削減目標を国連に提示する。
「三〇年度に一三年度比26%」が今の日本の目標だ。国際的には評価の低いこの目標を引き上げるだけでなく、その裏付けとして今度こそ「脱石炭火力」の道筋を、明確に示すべきである。
◆本当に必要なことは
アフガニスタンで非業の死を遂げた中村哲医師の砂漠を潤す活動は、ある意味、温暖化との闘いでもあった。
「父から学んだことは、物事において本当に必要なことを見極めること、そして必要なことは一生懸命行うということです」
中村さんの長男、健さんによる告別式でのあいさつだ。温暖化対策に携わるすべての人に、聞いてほしい言葉である。
パリ協定スタートまであと半月。本番は、これからだ。
この記事を印刷する