政府は就職氷河期世代に特化した支援策に今後3年間で600億円超を投じる。今年6月にまとめた経済財政運営の指針である「骨太方針」で氷河期世代支援を打ち出しており、この世代の正規雇用者を3年で30万人増加させる目標を掲げている。ただし、専門家からは「ピントがずれている」と厳しい声が上がっている。
就職氷河期とは一般的に、1990年代半ばから2000年代前半を指す。バブル崩壊によって企業は軒並み新卒採用を抑制。1990年代後半には一旦、採用数が持ち直したものの、97年のアジア通貨危機などによって再び景気が冷え込み、企業が採用を絞ったという経緯がある。この雇用環境が厳しかった時期に就職活動をした30代後半から50歳の「幅広い場での活躍を強力に後押しする」のが今回の政策の目的だ。
12月8日に閣議決定した「新しい経済政策パッケージ」では、就職氷河期世代を対象として、ハローワークに専門窓口を設置することや、氷河期世代に特化した特定求職者雇用開発助成金の創設、3年間の国家公務員中途採用促進などを盛り込んだ。
一方で、特定の世代を対象とすることに対する疑問の声もある。長年、雇用問題やキャリア論を調査・研究してきたリクルートワークス研究所の大久保幸夫所長は「2つの違和感がある」と話す。以下に、大久保氏のインタビューを掲載する。
政府が就職氷河期世代への支援を打ち出しました。この政策に対する評価は?
リクルートワークス研究所所長
1983年一橋大学経済学部卒業。同年株式会社リクルート入社。1999年にリクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010~2012年内閣府参与を兼任。2011年専門役員就任。人材サービス産業協議会理事、Japan Innovation Network理事、産業ソーシャルワーカー協会理事なども務める。専門は、人材マネジメント、労働政策、キャリア論
大久保幸夫・リクルートワークス研究所所長(以下、大久保氏):違和感を2つ抱いています。まず1つ目は、「特定の世代を対象にすることに対する違和感」です。氷河期世代とは1994年から2000年ごろに就職活動をしていた世代。たまたま卒業した時の景気が相対的に悪かったわけですね。この層を支援すると。
つまり、政府は、ある特定の世代が景気によって影響を受けたという「世代問題」だと捉えている。でも本当にそうでしょうか?
私はこの数十年、ずっと雇用の変化を見てきました。はっきり言えるのは、日本の就職構造や労働市場環境が1990年後半にがらっと変わったということです。当時は「97年問題」「98年問題」のような言葉もありました。
このころから急激にニートやフリーターが増え、社会問題化しました。若者向けの自立プランなどに規模の大きな政策が投入、展開された。「キャリア教育」「社会人基礎力」といった言葉がはやり、社会に出てからも学ぶことがやっと受け入れられるようになった。
一方、企業内では成果主義が始まりました。賃金が右肩上がりで増える時代は終わった。ポストが不足し始め、管理職になれる確率が劇的に減りました。それまで日本型雇用システムでは、誰がラインに乗るかをミドルまで明らかにせずにモチベーションを保つという「遅い昇進」が当たり前でしたが、2000年をすぎるとこれもなくなり始めた。つまり、次世代リーダーを早めに選抜するというマネジメントが始まったわけです。
その後、どうなったか。就業人口における非正規雇用の割合は3割から4割で高止まりしました。明らかに構造が変わり、定着したわけです。つまり、就職氷河期世代が抱えているのは「世代問題」ではなく、日本の雇用環境が変化したことによる「構造問題」なのです。これが、私が抱いている1つ目の違和感です。
氷河期世代の下の世代も非正規雇用の割合は多く、同じように賃金は上がっていません。構造問題なのに氷河期世代だけ取り出して支援をするのはピントがずれている。政策の切り口として疑問を持っています。
コメント14件
TS
電子エンジニア
構造変化についての分析は正しいと思いますが、対策の辺りがふわっとし過ぎです。
もう少し具体的な話をしましょう。
日本の雇用者は、製造業、卸・小売、医療・福祉の三大産業で半分を占めます。
この内製造業の雇用者はピークを過ぎて微減、卸・小売りは
微増、医療・福祉は大幅増なので、労働需要だけを考えるなら医療・福祉産業、特に人手不足が深刻な介護に労働者を誘導するのが一番雇用が安定します。...続きを読む向こう数十年、いくらでも雇用者を吸いとってくれるでしょう。
ただし、医療・福祉産業は民間では採算が取れないので、労働者を注ぎ込んだ分だけ公的資金も延々と突っ込まなくてはいけません。
今後数十年、日本の人と金を老人の世話に注ぎ込むのが良いのかどうか。
とはいえ、今の日本で安定的に巨大な雇用を生み出してくれる産業は他に見当たらないし、生活保護になるくらいなら公的資金を注ぎ込みまくってでも医療・福祉産業で働いて貰った方がましという考え方もあるかも知れません。
今後はかける金と時間まで踏み込んだ議論を期待します。
basementape
『1994年から2000年ごろに就職活動をしていた世代』としても6年間+Xの年齢差がある。
例えば1994年に就職活動していた大学生は入学が1990年前後。男子学生の横で女子大学生が読んでいるのは[Hanako(88年創刊)]であり、彼女
たちの価値観は[三高でなきゃ]でした(少なくともそう見えた)。好景気の終わりが見えてきたことを合わせて考えれば、一流企業へ就職して(まあ身長だけはしょうがないとしても)[三高]になることは、えり好みよりももう少しだけ、切実だったのではないでしょうか。
...続きを読む2000年に就職活動していた大学生は入学が1996年前後。阪神淡路大震災の翌年に始まり、97年には山一証券が破綻。学生時代を通してインターネットが普及期に入り、[IT]の時代の入口でした。
これだけ大きな変動のさなかでは、将来[勝ち組]となるためにどんな仕事に就くべきなのか、教えられる人はいませんでした。その上、多くの企業で既に[リストラ]がはじまっていて、OB訪問してもあまり威勢のいい話は聞けなくなっていたんです。
氷河期世代と言っても置かれていた状況はかなり違うし、彼らが現在失意の中にいるとしても、その失意の質もまた異なるに違いない。それを一絡げにした政策など、選挙目当てのばらまき以外の何物でもありませんよ。
「笛吹いてもなかなか踊らないなあ、最近は..」なんて言う官僚達と、「『就職氷河期』もそろそろオワコンかな...」なんて言うメディアだけがまだまだ[勝ち組]なのでしょうね。
S
大学生
確かにその世代のみを救うというのはおかしな話だと思う。記事にあった有効求人倍率を考えれば、高望みしなければ、何かしらには就職できたのだろう。
問題は日本に非正規雇用が増えたことだ。基本的に非正規雇用は数年で職が変わる。長期で雇用されないた
め、就職するたびに簡単な事務作業や製造作業で、スキルが上がることはほぼない。正社員として雇われる未来も見えてこないので、キャリアアップへの意欲も湧かない。これが典型的な非正規雇用なのではないだろうか。
...続きを読む氷河期世代の方々の中には、非正規として雇われ、何のスキルアップもできなかったため、キャリアが見えてこなかった人が多かったのではないだろうか。
非正規雇用の数は1997年あたりからどんどん増え始め、全体に占める割合は、95年には全体の20%ほどだったが、今では35%を超えるほどになっている。
国は非正規雇用の減少を目指すべきだ。
現行の非正規雇用というシステムは、低賃金で働かされる何のスキルもない人を増やすだけだ。
国としても、氷河期世代を支援しますよりも、非正規減らします!の方が印象よさそうだが。
話は変わるが、ウーバーイーツを職業にしている人たちも(あれは非正規雇用ではなくフリーランスであるが)、「配達」というスキルしか身につかないことに恐怖は感じないのだろうか。20年後には、もっと効率の良い配達方法が出てくるかもしれない。それはドローンなどを使った、人を必要としない方法かもしれない。そうなった際に職を失ったら、「配達」スキルのみで、何にジョブチェンジするのだろうか、と思ってしまう。
意識低い系おじ
まあ、昭和の死にかけのじいさんの話を聞いて、そうだと思うのは、自由だが、20年も職もなく、ニートでいたやつに積み重ねとか、どんだけ平和な時代を過ごしてたのかと思う。
若いやつも、世代間の優遇とかいってらんねえぞ。おまえたちがそいつら養うこと
になるんだよ。...続きを読むいい加減気がつけよ。ご意見番は全く意味のないことだって。評論家はいらねえ。仕事せいや!ツイッターでつぶやいているんじゃねえんだよ!
K.Gotou
情報処理従事者
働き方改革の中で、「自由と安定」の働き方にもっと投資すべき。
現状、厳しい環境に身を置いている人たちを正規雇用就労者へ移動するのではなく、厳しい環境を改善して労働市場を活性化すべき。
もはや企業は「生活給」を捻出する気力を失っています。正
規就労者へ移動させたとしても、厳しさは変わらない。能力給が報酬の大半を占めるようになり、賞与も減っていく事でしょう。業績は内部留保へ向かいます。能力給が幅を利かせるという事は、労働評価期間が短期になるということと解釈できますから、雇用契約の期間も明確になっていくのでしょう。
...続きを読む税金を徴収するのに便利だった ”正規雇用” という仕組み。その側面が崩壊しつつある中、社会全体の構造改革に投資を惜しまないという姿勢(施政)でなれば、日本はチグハグな硬直した冷えた社会となってしまいます。
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