源義経と成吉思汗の謎
重度の義経ファンへ、あるいは、偏見の無い人へ
- ISBN(13桁)/9784766935448
- 作者/佐々木勝三・大町北造・横田正二
- 私的分類/歴史の謎を追う(日本・中世)・マニアックな話
- 作中の好きなセリフ/
筆者は、戦後三十余年の歳月をかけてこれら事跡を実際に訪ね歩いて調べてきた。その結果、義経の北行伝説は、けっして単なる作り話ではない、ということを確信するにいたったのである。
本章は、その詳細な実地踏査のレポートである。
【私的概略】
義経=成吉思汗(ジンギスカン)伝説は真実なのか?
義経が成吉思汗であるとするならば、
ということを証明しなければなりません。
本作は3章だてから成り、
1.を第1章で、3.4.を第2章で、2.を第3章で証明しようとしています。
特に佐々木氏は、宮古で教師をやりつつ30有余年にわたって地元に伝わる義経関連の口碑を探し続け、義経が北へ落ち延びたという口碑が、平泉から青森にかけて一つの線でつながっていることを発見しました。第3章は、その成果が綴られています。
【感想】
のっけから驚かされます。何枚か義経伝説関連の写真が続いた後、「ナホトカにある笹りんどう紋の建物」や「モンゴル兵の兜についている笹りんどうの紋章」の写真が登場。ロシアの建物に、源氏の紋章として有名な「笹りんどう」の紋章が刻まれているのを見ると、組み合わせの異様さに息を呑みます。源氏の誰かがロシアに渡ったのかもしれない!という気分になるのは無理からざるところです。
先入観をできるだけ排除して公平に、この本に書かれている論旨を評価すると、
この写真に限らず、素人が不用意に鼻で嗤っては失礼なくらい、真剣かつ合理的に「義経=成吉思汗(ジンギスカン)」説を展開しています。
ただし、第1章、第2章は、合理的に証明していこうとしていますが、なにせ物証がありません(何百年も前の事件の物証を求めるのは酷なのですが)。結果、理屈に理屈を積み重ねて技巧的な印象の証明になっています。それでも見るべき意見が多々あったのは、義経伝説が今も熱心に語られる所以です。
本作の白眉は、第3章です。全体の半分近い頁を割いている点でも、力の入れようが分かります。
義経が死んだとされる平泉を、実は密かに脱出していたという伝説から始まって、岩手県の北上山地、青森県から津軽へ抜け、北海道に至り、最後は「クルムセ国」という大きな河のある土地へ渡ったという伝説まで、実地に歩いて集めた伝説が、一つ一つ記載されています。集まった伝説の特徴は、少なくとも青森までは、各伝説の所在地が1本の線で結べることと、どの伝説も「ここに来て、その後別の土地へ行った」という内容ばかりであること(この土地で生涯を終えた、という内容がないこと)です。全体でつじつまがあってる、というのが興味深いところです。「ひょっとしたら、ひょっとして、、、」という気分になります。
類似する本を読んでみても、「義経がジンギスカンになったというのは、とても信じられないが、義経が平泉を逃れて北海道辺りに渡ったというところまでは可能性がある」という意見の人が少なくありません。これも、本作の第3章の影響なのでしょう。
そんな「ひょっとして」感は、さておいて、真否は別にしても、急速に日本中から消えていった「伝説」を、消滅直前で記録に留めたこの作業は、意義深いことだと思います。
そんなわけで、義経成吉思汗伝説を扱った書籍の中では、最も詳細かつ真摯に書かれた作品だと思います。この後、類似の作品はいくつも登場したのですが、殆どは、本作の内容の一部を焼き直したものか、あるいは、根拠の薄弱な珍説だったりしています。
最後に蛇足ながら、
シベリア等で発見されたという「笹りんどう」の家紋は、源氏の紋章として有名なのですが、義経や源頼朝がこの家紋を使っていたという記録は一切無いらしいです(要は、義経の家紋かどうか分からない、ということですね)。そうなると急速に、シベリアの「笹りんどう」が、「なんでこんなところにあるの?」的な気持ちの悪いものに見えてきますね。
【私的評価】
電車の中で気軽に読めるか…3/5点(時々眠くなります)
読後に何かが残った感じがするか…4/5点(義経=成吉思汗説の全貌が)
繰り返し読めるか…4/5点(逆に、何回か読まないと内容を完全に把握できません)
総合…4/5点(内容は4点。眠くなるので3点かも)