ここまで、BtoCだけでなく、BtoBにおいてもテクノロジーが人を代替し、営業という形が変わり始めていることを見てきた。
ここからは、営業の必要性について考えてみよう。
「営業は公害をもたらす」という言葉に、ムッとする方もいらっしゃるかもしれない。責任転嫁するわけではないが、これを言ったのは、世界四大会計事務所のひとつ、デロイト出身のコンサルタント、安達裕哉氏だ。
安達氏は「Books&Apps」というウェブメディアのなかで、「営業の問題点」について論理的に説明している。安達氏の記事をまとめよう。
いまだに多くの企業が、新規顧客獲得のために「飛び込み営業」と「テレアポ」に頼っている。そのテレアポの成功率は1%以下である。飛び込み営業についてのデータはないが、テレアポ以上に非効率であると想像出来る。いずれの営業活動も、業務時間の99%以上がムダになるという、恐ろしいほどの非効率さだ。
不合理はそれだけにとどまらない。飛び込み営業やテレアポ担当者の心に与える影響も深刻だ。飛び込み営業やテレアポは、その精神的な負担が大きく、大抵の人は長期間続けることができない。なかには心が病んでしまう人もいる。必然的に人は使い捨てになる。
悲惨なデータはまだある。営業というのは、される方は79%が、する方も74%が「無駄がある」と感じている、というデータだ。つまり営業に関わる7割以上の人が「自分の仕事には無駄がある」と思っているわけだ。
それなのに営業方法に変化は見られない。なぜ企業は、だれもが無駄が多いと感じていて、数字上も非効率この上ないとわかっているのに、飛び込み営業やテレアポのような営業を続けるのだろうか。答えは簡単だ。それで十分、利益が出るからだ。
テレアポで1人が100件の電話を掛けるには、1時間もあれば十分。その人件費は1000円程度だ。テレアポの成功率が1%というと低いように感じるが、1人が1時間、電話を掛け続ければ、1件は取れるという計算になる。つまり、その商品がある程度の価格の商品なら、100分の1の成功率でも十分に利益が出てしまうわけだ。あとはテレアポの人数を増やしていけば、スケールメリットによって、どんどん利益を上げられる。
つまり営業という業務は、それをする方もされる方も、ほとんどが無駄な時間になり、精神的にキツいにもかかわらず、企業活動としては合理的なのだ。だから、なくならない。
安達氏は前述の記事の中で、自分が過去にやっていた営業活動の「無駄」についても明らかにする。そして、
「『良いマッチング』を探るために、大量の『悪いマッチング』をせざるを得ないのが、ローラー行為であり、こうしたマスに対するアプローチなのだ」
と、営業の本質について指摘する。つまり、営業とは、1の利益を得るために99の不利益をまき散らす行為、ということだ。その上で、こう言う。
「これは一種の『公害』かもしれない」
公害とは、企業の営利目的の活動によって引き起こされる、大気汚染、水質汚濁、騒音などの社会的災害のこと。安達氏は営業をこれになぞらえ、1の利益のために99の無駄を生む「公害」だというわけだ。
たしかに安達氏の言う通り、企業の営業活動は、明らかに、その企業とは無関係の人々に不利益や迷惑を与えていることがある。突き詰めて言うなら、その不利益や迷惑は公害と同等といえるかもしれない。
そして安達氏は言う。
「(営業が)『公害』である以上、企業はこれを放置してはならない。」
「大勢の人に迷惑を掛け、社員を使い潰すような企業に価値はない。」
私も同感である。