かつて三河屋さんは、BtoCにおける「営業マン」として存在していた。
ここで「営業」の定義をしておこう。営業とは、「潜在顧客を発掘し、コミュニケーションによって顧客のニーズをヒアリングし、商品を提案し、価格などの条件を交渉して、販売をまとめること」。商品の設計やプロモーションなどを考えるマーケティングは、ここで言う営業とは別のプロセスと考えよう。
三河屋さんは、この定義上の営業をサザエさんに対して、たしかに行っていた。かつては、BtoCにおいても、そんな営業マンの存在が当たり前だった。三河屋さん然り、商店街を歩けば、小売業の八百屋さんや魚屋さんがあって、その店のおじさん、おばさんたちは、「いいサンマが入ったよ」、「とれたてのトマトだよ」などと言いながら、モノを売っていたのだ。
しかしその姿は、スーパーマーケットの登場などの影響で、徐々に少なくなっていく。スーパーマーケットに行けば、食材から生活用品まで生活に必要なモノは、手頃な値段でひと通り手に入る。近所にスーパーマーケットが出店すれば、その便利さゆえの集客力によって、商店街の小売店へ与える影響は大きく、小売店は立ち行かなくなった。そして、スーパーマーケットでは、八百屋のおじさんのようなBtoCのおける営業的機能を果たしていた存在はあまり必要がない。
そして、Amazonの登場によってその影響はさらに顕著になる。いま私たちは、スマホを通じて、ネットにある膨大な商品カタログにアクセスでき、自分の「ほしい」を満たすモノに出会える。どこに住んでいようが関係ない。スマホさえあれば、クリックひとつでほしいモノが手に入るわけだ。店まで足を運ぶ必要性は乏しい。だから店が潰れる。
ロングスパンで考えれば、BtoCの姿は、「便利さ」によって変わってきたという。そしてこれは、BtoCに限った話ではない。すでにBtoBにおいても、このAmazon的変化は始まっている。
「モノタロウ」という間接材に特化した通販サービスがある。間接材とは、ある商品を作るために、原料である直接材以外に必要なものすべてを指す。たとえば「目玉焼き」という商品を作るなら、直接材は卵だけで、フライパン、ガスコンロ、フライ返し、皿など、卵以外のその他諸々はすべて間接材だ。
間接材はあらゆる業種において存在する。その数も種類も多く、必要になる頻度も高いが、買うのには非常に手間が掛かる。
大抵の事業者は、間接材を商品知識のある卸業者から一括して安く購入するが、中小企業では大口購入は出来ないので、比較的高くなる。また、卸業者への注文では、発注から納入までの時間も掛かっていた。
モノタロウはそこを突くビジネスモデルを構築した。すべてワンプライスで、ネジ1本でもすぐに届ける。つまり、事業者が卸業者に頼っていた間接材の購入を、モノタロウは、そこそこの安さで豊富な品を揃え、何より、注文から発送までのスパンを短くすることで、「ほしいモノがすぐに手に入る」というシステムを作ったわけだ。
それが当たった。売上は2018年12期まで、9期連続20%以上の増収で、1000億円の大台に乗った。品揃えは、あらゆる業種に対応できるよう、どんどん増え、取扱点数は1800万点になった。商品のうち、50万点については即日出荷が可能だ。いまやモノタロウは、BtoBにおけるAmazonとして、日本の事業者を支える存在になっているのだ。
間接材は数が膨大で、その中からどの商品を選べばいいかの判断は、これまで、卸業者の営業担当者の商品知識に頼るか、自分で多くの時間を掛けて調べるしかなかった。そこをモノタロウでは、検索エンジンやレコメンド機能を充実させることで、お客さんが商品を買いやすい仕組みを作っている。テクノロジーが卸業者の営業マンや人の手間を代替しているわけだ。
つまり、BtoBにおいても、テクノロジーが人の営業的機能を代替することは可能なのだ。モノタロウの成功は、BtoCで起きたAmazon的変化が、BtoBでも広がる可能性が高いことを示している。