それまでは強力な労働組合を擁する労働者側が力を持っていたが、通貨危機によって企業側が力を持つようになって、会社に忠誠を尽くし、サービス残業は当たり前の、会社人間であることを強いられ始める。「韓国の労働生産性は日本より高い」と言われることがあるが、それはサービス残業が異常に多いことも理由だと考えられている。

 通貨危機以後、45歳前後で給料がピークになり、その後は急減する給与体系を採用する企業が増えていく。そのために、管理職になれなかった50代は悲惨だ。いや、管理職になれたとしてもさらに厳しいノルマが課せられた。

 たとえ運良く財閥系の大企業に入れたとしても、40代までに大きな成果をあげて幹部にならないかぎり、それ以後は若手社員並みの年収になることもあり、クリエイティブな面白い仕事も回ってこない。給料が下がるくらいならと退職して退職金で店などの事業をおこす者も後を絶たないが、そういう人が多いので、そちらはそちらで競争が激しいのだ。まさに「出るも地獄、残るも地獄」である。

 ちなみに、左翼的な文在寅氏が大統領に選ばれた背景には、こういった労働環境の過酷さも一因となっている。朴槿恵政権の収賄事件やナッツリターン事件などで激しい財閥バッシングが起こったが、財閥ばかりがもうかり、庶民の労働環境が改善されないことへの不満も影響しているのだろう。

 40代から50代の働き盛りの自殺は経済問題が引き金になることが多いが、その背景にはこういった労働環境の過酷さがあると考えられる。通貨危機後も、韓国政府が1990年代から内需喚起のためクレジットカード使用を奨励したことで延滞者が出た2003年の「カード大乱」、2008年のリーマンショックなど立て続けに経済問題が起こり、この世代の救済策がなかなかとれず、対策が追いつかない状態が続いている。

若者への重圧

 2013年に出版されて大ベストセラーとなった『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健著/ダイヤモンド社)は、韓国でも翻訳されて100万部を超える大ベストセラーとなっている(ちなみに、台湾でもベストセラーとなっている)。むしろ日本より韓国での反響のほうが大きかったかもしれない。

「日本人より自己主張が強く、“嫌われる勇気”など持ち合わせていそうにない韓国人になぜウケるのだろう?」といぶかしく感じた日本人もいたようだが、他人の目を気にするという点では、韓国人は日本人以上ではないだろうか。