直通に合わせて導入した紺色の新車両(横浜市保土ケ谷区の西谷駅)
横浜駅から海老名市や藤沢市など神奈川県内だけを運行していた相模鉄道が11月30日、JR東日本と念願の相互直通運転を果たした。東京・新宿や埼玉・大宮につながり、2022年度には東急電鉄と直通運転も始まる。相鉄は沿線に人を呼び込もうと住宅開発や宣伝に力を入れる。JRや東急との直通は、相鉄や沿線地域にとって転換点となる可能性がある。
12月7日、横浜駅地下街。相鉄がJRとの直通運転をアピールしようと、1日乗り放題となる無料乗車券を配布した。乗車券をもらおうと、できた行列は数百人。千葉県市川市の男性会社員は「相鉄線に乗るのは初めて。街並みを見てみたい」。
これまで横浜駅止まりだった相鉄線は渋谷や新宿に乗り入れる電車が走るようになり、一部は大宮駅などにも行く。相鉄は20年3月までの約4カ月間で輸送人員が278万人増えると見込む。
主に狙うのは通勤・通学での他社路線からの切り替えだ。例えばバスでJR湘南新宿ラインの東戸塚駅(横浜市戸塚区)まで出て都心に通っていた人が、相鉄の二俣川駅(横浜市旭区)などに切り替えることを期待。小田急線と競合する海老名駅周辺では路線バスに外装広告を出し、JRとの直通をアピールする。
「都心へダイレクト」。相鉄はこの売り文句で沿線住民を増やそうと矢継ぎ早に住宅を売り出している。グループの相鉄不動産が建設したタワーマンションが18年に二俣川駅、19年に海老名駅(神奈川県海老名市)で完成。西谷駅(横浜市保土ケ谷区)や南万騎が原駅(同市旭区)でも分譲住宅やマンションを販売した。
相鉄ホールディングスは「直通をにらんだ都心からの住み替え需要がある」(経営戦略室)とみる。20年には海老名でもう1棟マンションの完成を予定する。
相鉄不動産は二俣川駅など沿線でのマンション開発を進める(横浜市内)
「将来売る時に値上がりするかなと思って」。花井和佳子さんは直通運転を見越して、都内から鶴ケ峰駅(同市旭区)近くの新築マンションに引っ越した。夫の優樹さんは直通線の停車駅であるJR大崎駅に通勤する。近くに保育園もあり、子育て環境にも満足しているという。
新築マンションに子育て世帯や若い女性を呼び込もうと、相鉄が力を入れるのがSNSでの情報発信だ。インスタグラムなどで展開する「横浜で暮らす」は沿線のカフェや子どもと遊べる施設を紹介し、フォロワーが1万人を超えた。
ただ、直通は1時間に最大で4本しかない。料金は直通加算もあり割高だ。例えば二俣川―渋谷間はこれまで横浜駅でJRに乗り換えて600円だったが、直通線では780円。通勤定期は最安ルートを求められるケースが多く、差額を自腹で負担するのを避けて従来通りのルートを選ぶ通勤客も出てきそうだ。
東京から沿線に人を呼び込むのも容易ではない。相鉄の調査では、同社の認知度はわずか40%。首都圏の大手私鉄9社の中では最も低く、50%を下回るのは相鉄だけだという。相鉄は認知度を少しでも高めようと、都内の駅売店などで車両をパッケージに描いたパンを販売。直通に合わせて車両や駅舎を刷新した。
直通線の車体は深い紺色に統一し「相鉄といえば紺色」との印象付けを狙う。駅舎もレンガ柄への移行を進める。「首都圏のローカル線」と呼ばれることもある相鉄。「メジャー」の仲間入りができるかどうかは、鉄道と沿線の魅力作りにかかっている。
■相鉄、計26駅 駅数は首都圏大手私鉄で最少
相模鉄道は横浜駅と神奈川県央の海老名駅(同県海老名市)を結ぶ本線と、本線の中間駅・二俣川駅(横浜市)から湘南台駅(同県藤沢市)に伸びる「いずみ野線」がある。駅数はJR線との相互直通で新設した羽沢横浜国大駅を合わせて26駅がある。
総延長は直通で延伸した部分も含めて38キロ。首都圏を走る大手私鉄の中では総延長も駅数も最も少ない。
2018年度の輸送人員は約2億3000万人で、1日平均で約63万人。一部の駅には小田急線やJR線が乗り入れている。深い紺色をイメージカラーとする方針で、全車両の3割の車両が同色となった。
17年に創立100周年を迎えた。もともと大正前期に「神中軌道」と「相模鉄道」の2社で立ち上がり、第2次世界大戦中に相模側が吸収合併した。ただ現在残る主要路線は神中側が持っていた部分で、貨物輸送で活躍した時期もあった。