非正規雇用でも職場の規模に関係なく厚生年金に加入できる。働く人にとっては当然だが、政府内の議論からは、そんな声が聞こえてこない。制度を確実に前へ進めるべきだ。
パートなどの非正規で働く人は職場の厚生年金に加入できず、年金額が不十分な国民年金に自ら入るしかなかった。
働く高齢者も増えるし、非正規雇用は今後、ますます増える。政府は、高齢になっても働ける社会を目指しているはずだが、厚生年金に入れずに年金額を増やせないのは、この政策に逆行する。
非正規が多い女性や就職氷河期世代など現役世代も将来、無年金・低年金にならないために厚生年金加入の拡大は重要な施策だ。
加入条件は二〇一六年に緩和され約四十万人が加入した。今回の議論では制度を適用する企業規模が焦点になっている。
現在、従業員五百人超の企業で週二十時間以上働き、月収八万八千円以上などの人が適用対象になっている。このうち企業規模条件を二二年に百人超へ、二四年に五十人超へ拡大する案が有力だ。
だが、適用を拡大しても五十人超で六十五万人にすぎない。条件撤廃なら百二十五万人になる。
企業規模や労働時間などを考慮せず、一定の賃金以上の人という条件だけで推計すると千五十万人が対象となる。
適用拡大は保険料の半分を負担する企業の反発があり、たびたび先送りされてきた。
しかし、企業規模で加入の可否が左右されては不公平感が残る。従業員の老後を考える社会的責任は企業にもある。中小企業への支援策が必要になるが、企業規模の撤廃を目指すべきだ。
制度を議論する厚生労働省の審議会では、保険料負担を問題視するのではなく、中小企業の経営体力の強化を通して適用拡大を実現する政策を求める意見があった。生産性をどう向上させるか、年金制度から見ても重要な課題だ。
選べる受給開始の上限年齢を七十歳から七十五歳に引き上げる。受給しながら働く高齢者について、その間に払った保険料をすぐに年金額に反映させて増やす仕組みの導入も検討されている。額が増える対策は実施すべきだ。
安倍晋三首相は第一次政権の〇六年、非正規雇用の待遇改善を目指す「再チャレンジ支援策」として適用拡大を打ち出した。ならば、政権の長年の課題だと認識して取り組んでほしい。
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