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 一部の不公平の解消には手をつけ、政権が重視する企業向けの優遇策を手厚くする。しかし所得再分配の強化という重い課題には、向き合わない。

 与党が決めた来年度の税制改正大綱のことだ。

 昨年結論を出せなかった未婚のひとり親の所得税負担は、配偶者と離婚や死別した人が対象の「寡婦(夫)控除」に組み入れて、軽くする。男女の間で差のある所得制限や所得控除額も、同じ水準にそろえる。

 自民党に根強い、結婚を前提とする伝統的な家族観に阻まれ、不公平が続いていた。遅すぎたものの、当然の判断だ。

 家族の姿は様々で、これからも変わるだろう。再び時代遅れとならぬよう、今後も見直しを重ねなければならない。

 ベンチャー企業や次世代通信規格への投資を促す法人税の優遇は、安倍首相のこだわりで創設された。大綱は、企業が手元の現預金を増やしている現状から、投資や賃上げが重要とし、企業の経営者に「『攻めの経営』に向けた自己改革と挑戦を強く求めたい」とも記す。

 だが、企業は税制のみで投資を決めるわけではなく、ねらった効果を生み出せるかは未知数だ。単なる企業の優遇に終わらないか。手元資金が潤沢な企業への減税が、国民の理解を得られるのか。賃上げ促進など他の企業関連の税制も含め、効果の見極めは必須になる。

 こうした制度改正を、自民党甘利明税制調査会長は「歴史的な節目」と自賛する。しかし、再分配強化に触れずして、胸を張れるだろうか。

 なかでも、株式の配当などにかかる金融所得への課税の見直しは、株価の動きを強く意識する安倍政権のもと、議論が封印されている。所得税と住民税あわせて20%の税率は、高い給与の人への税率より低く、合計所得が1億円を超えると、税負担率は軽くなっていく。

 確定拠出型年金の使い勝手の改善などには取り組んだが、年金収入や、働き方の違いで差がある退職金への減税も、公平の視点から見直しが欠かせない。

 大綱には、こうした問題意識に加え、「格差の固定化につながらないよう、機会の平等や世代間・世代内の公平を実現する考え方」「所得再分配機能の回復の観点」から、見直しを検討すると書き込んだ。しかし前年の文章の踏襲にとどまり、熱意は感じられない。

 所得の再分配を強めて格差の是正を図る議論は、「歴史的な節目」のなかで置き去りにされた。先送りするほど、問題は深刻になる。課題を認識しながら議論に踏み出さないのは、与党としての責任放棄だ。

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