NGINX、モスクワオフィスへの強制捜査の状況を説明。創業者Igor Sysoev氏への尋問はあったものの、現時点で逮捕者や拘束者はなしと

2019年12月16日

オープンソースとして開発されている軽量なWebサーバ「NGINX」などの知的所有権をめぐって、NGINXのモスクワオフィスに当局者による強制捜査が12月12日に入ったことが米ZDNetなどで報道されていました。

12月15日、NGINXゼネラルマネージャGus Robertsonの名前で、この状況について説明するメールが届きました。おそらく主要な関係者、顧客、ジャーナリストなどに送付しているものと思われます。

fig

NGINXは、カザフスタン生まれのIgor Sysoev氏が、当時Webサーバとして主流だったApacheよりも優れたWebサーバを目指して2002年にロシアで開発を開始したソフトウェアです。

参考:日本Nginxユーザ会が発足。開発者Igor Sysoev氏が語る、Nginxが生まれ、商用化された理由

当初はSysgoev氏が個人でオープンソースとして開発を行っていましたが、より本格的に開発を行うために2011年に会社としてNGINX Inc.を立ち上げました。

その後、オープンソースのNGINXに加えて商用版のNGINX Plus、ファイアウォール機能を提供するNGINX WAF、アプリケーションサーバ機能を提供するNGINX Unitなども展開。

2019年2月には東京オフィスを立ち上げを発表。2019年3月にはF5 Networksによる買収が発表され、現在ではF5 Networks傘下となっています。

NGINX Japan fig1 2019年2月の東京オフィス立ち上げ時に来日した、NGINX,Inc. CTO兼Co-Founder Igor Sysoev氏(中央)、CEO Gus Robertson氏(右)、エンジンエックス・ジャパン ジャパンカントリーマネージャー 中島健氏(左)(肩書はいずれも当時)

米ZDNetの報道によると、強制捜査の理由はロシアで検索エンジンやポータルサイトなどを手掛けるRambler Groupが、NGINXの開発時にSysoev氏が同社でシステム管理者として勤務していたため、NGINXの知的所有権が自社にあるとしてNGINX Inc.に対して著作権侵害を主張したため。

Sysoev氏は、NGINXの開発は勤務時間外に行っていたことであり、Rambler Groupは当時、その存在すら知らなかったはずだと説明してます。

12月12日、モスクワオフィスに強制調査。マスタービルドはロシア国外で保全

NGINXが今回明らかにしたところでは、モスクワオフィスに事実上の強制捜査が入ったことと開発者のSysgoev氏らが尋問を受けたのは事実だと言うこと。

下記に声明を引用します。

On December 12, law enforcement officials came to the Moscow office of NGINX (acquired by F5 Networks earlier this year) apparently seeking evidence related to an intellectual property dispute, to which F5 is currently not a party. The officers had a warrant, and we are still working to confirm the full nature of the investigation. NGINX cofounders Igor Sysoev and Maxim Konovalov were interviewed by law enforcement officials, but no employees have been arrested or are currently detained.

12月12日、法執行官がNGINXモスクワオフィス(今年初めにF5により買収)へやってました。F5は現時点で当事者ではないものの、彼らは知的所有権の紛争に関する証拠を捜索しているようでした。

執行官たちは令状を持っており、私たちは現在、捜査の全容について確認中です。

NGINXの共同設立者であるIgor SysoevとMaxim Konovalovは法執行官からの尋問を受けましたが、逮捕や拘束された従業員はいません。

そして同社は強制捜査後すぐ、モスクワで開発されているソフトウェアのマスタービルドの保全策を講じたとしています。

Promptly following the event we took measures to ensure the security of our master software builds for NGINX, NGINX Plus, NGINX WAF and NGINX Unit—all of which are stored on servers outside of Russia. No other products are developed within Russia. F5 remains committed to innovating with NGINX, NGINX Plus, NGINX WAF and NGINX Unit, and we will continue to provide the best-in-class support you’ve come to expect.

この出来事のすぐあとで、私たちはNGINX、NGINX Plus、NGINX WAF、NGINX Unitのマスタービルドの安全を確保する対策を講じました。これらはすべてロシア国外のサーバに保存されています。

これ以外の製品はロシアで開発されていません。

F5は引き続き、NGINX、NGINX Plus、NGINX WAF、NGINX Unitのイノベーションにコミットし、お客様が期待するクラス最高のサポートを提供し続けます。

同社は今後も経過を報告するとしています。

20年も前の出来事をいま掘り出して著作権侵害と主張するRamler Groupの姿勢は理解しがたいものです。一方で、NGINXはインターネットでもっとも使われているソフトウェアの1つです。万が一これがロシアで著作権の侵害だとみなされた場合、その影響は非常に広範囲に及ぶ可能性があります。

follow us in feedly




カテゴリ

Blogger in Chief

photo of jniino

Junichi Niino(jniino)
IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。2009年にPublickeyを開始しました。
詳しいプロフィール

Publickeyの新着情報をチェックしませんか?
Twitterで : @Publickey
Facebookで : Publickeyのページ
RSSリーダーで : Feed

人気記事ランキング

  1. Webで縦書きなどを実現する「CSS Writing Modes Level 3」、ついにW3Cの「勧告」に
  2. WebAssemblyがW3Cの勧告に到達。「WebAssembly Core Specification 」「WebAssembly Web API」「WebAssembly JavaScript Interface 」の3つ
  3. Windowsデスクトップアプリ開発にも対応した「.NET Core 3.1」が正式リリース。LTS版として3年間の長期サポート対象
  4. Oracle Databaseはクラウドネイティブの時代にどう対応しようとしているのか? 米オラクルのプロダクトマネージャに聞いた
  5. [速報]「Amazon CodeGuru」発表。機械学習したコンピュータが自動でコードレビュー、問題あるコードや実行の遅い部分などを指摘。AWS re:Invent 2019
  6. [速報]「The Amazon Builders' Library」発表。大規模分散システムの構築、運用などについて、Amazonが学んできたことをコンテンツとして公開。AWS re:Invent 2019
  7. マイクロソフトが方針転換。Windows 7の2023年までの延長サポート、あらゆる企業が購入可能に
  8. 2020年のIT投資はオリンピックが理由で増加の勢いに陰り? 総従業員数に対するITスタッフ比率は明確な上昇トレンド。ITR調査結果
  9. [速報]AWSをオンプレミスに持ち込める「AWS Outposts」正式リリース。日本国内でも利用可能。AWS re:Invent 2019
  10. 2020年のIT投資はオリンピックが理由で増加の勢いに陰り? 総従業員数に対するITスタッフ比率は明確な上昇トレンド。ITR調査結果

最新記事10本