映画『パプリカ』公式ブログ

世界最高峰のクリエイターによって誕生したパプリカは5月23日いよいよDVD発売!宣伝担当によるちょっとだけ舞台裏ブログ

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●第六の手引き「才能の光」

ではみなさん、コンテの244ページを開いてください。
今日はカット448からのシーンについて考えてみたいと思います。
キャプションにはこうありますね。

 448
 研究所、廊下。
 敦子の先に立って、説得しつつ歩く小山内。
 小山内「下手に共有して逆侵略されでもしたら!?」
 立ち止まる敦子。遅れて小山内も。
 見つめ合う形になる二人。

 この廊下は既出の廊下と
 ちょっと雰囲気を変えます。
 白っぽく明るい廊下。
 天井のスリットから外光が直接取り入れ
 られています。
 廊下の片側、敦子のいる側にだけ
 スリットを通した光が入っていて、
 敦子に縞状の明暗を作ることになります。

このカットの絵を見るだけで、映像的な勘のいい人ならこのライティングの意図に気づいてしまうかもしれませんね。よくあるパターンかもしれませんし、かなり意図が露骨なので……エ?
コンテを持っていないから分からない?
みなさんコンテを忘れてきたんですか? 
エ? はなから持っていない?
エ? 手に入らない?
これはどうしたことでしょう。
コンテなら『パプリカ』の「豪華版DVDボックス」に収録されて……あ。まだ出てないんでした。だいたい劇場公開中でしたね、『パプリカ』。
いやーすっかり忘れていました。随分昔に作り終わった気がしていて。
よく考えたら、まだボックス用のジャケットも描いてないじゃないか。やーやー、忘れてたわい。
ボケはそのくらいにして。

先のコンテのキャプションで少しは思い出していただけたことでしょうが、もう少し説明いたしますと、研究所の廊下で敦子と小山内が話をしているシーン。

 敦子あくまでクールな表情で。
 「盗まれたDCミニはあと二つ。取り戻す手がかりは氷室君の頭の中にしかない。そ れに……」
 言葉を切った敦子に疑念の色が翳る。
 小山内、納得が行かない表情で。
 「サイコセラピーマシンの使用は凍結だと、(俯いて)理事長が」
 「非常時には非常時の対処があるの。(表情、明るくなって)大丈夫。バックアッ プには天才坊やが付いてるから」
 敦子、歩き出す。
 「また時田先生ですか?」
 小山内の言葉に立ち止まり、振り返る敦子。
 小山内、後ろ姿で。
 「先生が時田先生と共にセラピーマシンの分野を切り開いてきたことも、だからこ そ先生が信頼をおくのも十分理解します。でも…天才の裏にある幼稚な杜撰さが不 祥事の原因でもある!」
 敦子、あくまでクールに。
 「だからこそ彼に責任をとってもらうの。それに代わりになる人が他にいる?」
 言いつつ歩き出す敦子。
 何か言い返そうと息を呑む小山内。呑み込んだ言葉は「え?僕は…!?」

ということで、今回のお題は「天才と秀才と凡人」です。
それら天才、秀才、凡人は当てられる光の量によって分かたれている、ということです。

まずこの敦子と小山内、二人のシーン。
この廊下では天井から外光が直接取り入れられていて、スリットを通した光が敦子側に縞状の明暗を作っている。そして小山内は影側にいる。このシーンを通して小山内は光の側に足を踏み入れません。
光の量=才能の量と考えると「敦子>小山内」ということです。
これは小山内自身も痛いほどに分かっていることで、氷室のマンションに車で向かう途中、小山内自身がこう口にしている。

「氷室は時田先生に嫉妬していた。ぼくだって千葉先生を憎いと思ってしまうことがあります。いくら頑張っても先生にはかなわない。己の無力を呪いますよ」

ぎゃはは。呪え呪え、凡人め。そんなことで鬱々としているからダメなんだよ、お前はよ。いつまでもそうやっていじけてるがいいさ!
何が「いくら頑張っても」だよ、本当に頑張ったのかよ? どうせ他人の半分も努力してないんじゃねぇの? それで何が己の無力だよ。やってから言えよ、そんなことはよ!
そう言ってやりたくなりますな、まったく。
小山内は、敦子に対して嫉妬しつつも憧れと愛も感じている。愛憎半ばする、というやつです。
この「小山内-敦子」の関係は「氷室-時田」とまったくのパラレル。

 小山内 < 敦子
   |    |
  氷室 < 時田

という関係になるので、敦子と時田が結局くっついてしまうように、小山内の意思はどうあれ小山内と氷室がくっついてしまう運命だったのかもしれません(笑)
可哀想な小山内くん。
『パプリカ』の劇中世界において、別に小山内は「凡人」というわけじゃないんです。むしろたいへん有能な人間なんだろうと思います。
私だってそう思っているからこそ、この廊下のシーンで小山内の肩口に少しだけ「光」を落としているんです(笑)、ホントに。
小山内は、きっと学歴も高く、仕事もそつなくこなす、平均をかなり超える能力も持っていて、実務処理などにはとても長けていて如才もないでしょう。外見だっていい。きっと育ちもいいだろうし、経済的にも余裕があるのでしょう(一応ベンツに乗ってるし)。
なんだけれども敦子や時田に比較されてしまうと劣等感を感じざるを得ない。ただ、時田のように全体的には穴だらけなんだけれど突出した何かがない、そういう人間なんじゃないかと思っていました。
そのコンプレックスが彼を抑圧して、結局「変態監禁王子様」みたいなことになっちゃったんだろうな、と。『コレクター』小山内の話は後で触れるとして。

このシーンの最後で小山内は敦子の眼中にないことを知って、いたくプライドを傷つけられます。敦子がそういう「効果」を知らないはずはないんです。先に少し引用した車のシーンで自嘲気味に語る小山内の「己の無力を呪いますよ」というセリフを受けて、敦子は何も言いませんがその小山内に視線を返しています。
これは、どうとでも取れる芝居ですが、少なくとも私はここで敦子ははっきりと小山内が自分の気を引こうとしていることは分かっている、と思っていました。
「ふーん……そういう子供じみた気の引き方をするとはね……小山内君も子供ね」
なので敦子は小山内の気持ちを知りつつ、この廊下のシーンで「代わりになる人が他にいる?」というんですから、暗にこう言ってるわけです。
「あんたごときの出番じゃない」
ひどい女ですね(笑)
で、誰の出番かというと、この廊下の直後のシーンで出てくる「三目の巨漢」なわけです。

時田が自分の研究室で無邪気にDCミニの改造に取り組んでいる。
そこに敦子が入ってきて、氷室は真犯人ではなく彼もまた被害者ではないか……と疑念を口にするが、時田は取り合わず、敦子が切れる、と。
このシーンのトップ、暗い研究室で時田が巨大な背中をこちらに向けている、という絵。ここで時田は天井からの光をいっぱいに受けています。これは天井からの光、というより「天上からの光」といった方が良いかもしれません。つまり天上から授けられたギフト、才能です。
そして先ほど、小山内を前にしたときはいっぱいの光を受けていた敦子も、時田の研究室内では、時田が浴びる光の輪には入れないんです。敦子はその照り返しを受けるだけ。
つまり「時田>敦子>小山内」ということで「天才>秀才>凡人」と。

時田はこのシーンで変なゴーグルを掛けています。きっと何か細かい作業をするためにおでこの部分にライトが仕込まれているんでしょう。でしょう…って私が基本的なデザインをしたんですけど。
デザインの良し悪しはともかく、デザイン的にはこのおでこにあるライトに意図があありまして、これは三番目の目のつもりです。イメージソースは巨匠・手塚治虫先生の『三つ目がとおる』。私は小学生の頃「少年マガジン」連載中のこの作品をリアルタイムで読んでいました。
主人公の写楽保介は「三つ目族」の末裔で、普段おでこにある三番目の目玉が「×」印の絆創膏でふさがれているときは凡庸な子なんだけど、それが露わになると悪魔のような天才になる、という設定です。
なので大好きだった写楽くんに倣って時田も天才を発揮しているとき、三つ目に見えるようにあんなゴーグルをつけてみた次第。
せっかくそういう設定にしたのですから、ただそれだけでは勿体ないと考えるのが演出家。なので、このゴーグルはこのシーンの終わりの方でも心情変化を表す小道具としても使っています。

敦子が時田の無責任をなじり、罵り倒していると島が呼びに来て敦子は研究室を出て行く。ドアがバタンッと閉まり、訪れた静寂の中、時田がやおら「ゴーグルを外して」立ち上がり、二歩ほど歩いて「光の輪から出て」、床に落ちたDCミニを拾い上げ、それを見つめながら何事か思う、と。
重要な変化に「」をつけたのでお分かりいただけると思いますが、「ゴーグルを外す」ということは「三つ目ではなくなる」ということですから、天才から普通の人間的な部分にいくらか戻ってきたということです。
さらに歩いて「光の輪から出る」わけですから、二重にそれは強調されている。
敦子に罵られたのが堪えて、少しは人間的な情緒を回復した、というようなことでしょうか。
なので、シーン終わりで「何事か思う」わけで、何を思ったかというと、それは後に「友達であった氷室の中に真相を求めて一人で下りて行く」という無茶な行為として表される、と。
お分かりいただけたでしょうか。

閉じる コメント(3)

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やはり豪華版出るんですね 普段DVDはめったに買わない自分ですがパプリカは必ず買います いや~、楽しみです

2007/1/13(土) 午後 3:57 [ - ]

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新潟では今日公開だったので早速見させていただきました!「パプリカ」名のごとくステキな色合いでした♪の一番の印象は、カオスでしたが(笑)最終的に、コスモスだったな、と感じました。テスト期間中にも関わらず無理やり連れ出してくれた友人に感謝です。

2007/1/13(土) 午後 9:09 [ s.cat(vo.) ]

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時田さんのゴーグル、確かに目みたいに見えましたが、写楽くんから来ているとは思いつきませんでした。三つ目がとおる、好きだったのに…。監督の解説通り、思い返せば本当に似ている、この二人。自分でそこまで思い至る事が出来ていたら、このブログ読んでいて「ほら、やっぱり!!」と痛快だっただろうなあ。

2007/2/9(金) 午後 6:25 [ cal**orm ]


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