映画『パプリカ』公式ブログ

世界最高峰のクリエイターによって誕生したパプリカは5月23日いよいよDVD発売!宣伝担当によるちょっとだけ舞台裏ブログ

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●第五の手引き「謎をかけるもの」

『パプリカ』を初めて見た段階で気がついた人は多分ほとんどいないと思うのですが、「粉川が敦子と初めて会う」場面、粉川が研究所を訪れて時田から事情を聞いているところへ、敦子が入ってくる、というシーン。この時、二人の後ろに絵が掛かっているんですが、この絵には一応意味があります。
絵の画題は「スフィンクスとオイディプス」。
これが今回のお題。

まずスフィンクスについては皆さんご存じかと思いますが、一応おさらいしておきますね。ギリシア神話に登場する、獅子の身体に人間の顔を持つ化け物です。エジプトにある石像が有名ですよね。ピラミッドのそばにあるスフィンクス。私は実物を見たことがあります。
『ジョジョの奇妙な冒険』というビデオアニメの脚本・コンテ・演出を担当した際、取材でエジプトに行きました。
「何だよ、これがスフィンクスか、けっこう小っちぇな。お、鼻が取れてるよ、梅毒持ちだ、こいつ。さては遊びが過ぎやがったな」
バカですね、ホント。

スフィンクスといえば謎々で有名です。
「ある時は二本足で歩き、またある時には三本足で、またある時は四本足で歩くこともあるが、その時が一番弱いものは何だ?」
という謎をかけて、答えられない者を貪り食っていましたが、オイディプスが、
「人間だ。なぜなら赤ん坊のときは四つん這いで這いまわり、成長して二本足で立ち、老いては杖にすがるからだ」
と正解を答え、スフィンクスは岩から身を投げて死んだと言われてます(参考・『世界 神話と伝説の謎』ニール・フィリップ著)。オイディプスが殺したという話もあるみたいですけどね。
この知恵者オイディプスはスフィンクス退治でも有名ですが、悲劇の主人公としてさらに有名です。オイディプスは、それと知らずに父を殺し自分の母親と結婚してしまった、というギリシア悲劇です。
この悲劇の物語になぞらえてフロイトは、母親に対する近親相姦的欲望(父を殺し母を手に入れる)を「エディプスコンプレックス」と呼んだのもまた有名です(エディプスとはオイディプスのことです)。

基本的な知識を確認したところで、最初の話題に戻りますと、懸命な読者諸氏においてはすでにお分かりかと思いますが、先の絵の意味はこういうことです。

 敦子-スフィンクス VS 粉川-オイディプス
------------------------
  謎をかけるもの      謎を解くもの

この時点では、粉川はパプリカは知っていても敦子を知らないわけですが、粉川は「この女がパプリカに違いない」と直感的に考え、時田との奇妙な会話の中で敦子の反応を知ろうとする、と。
敦子が謎をかけ、粉川がその謎を解こうとする。
この構図が「スフィンクスとオイディプス」にそっくりな気がして、この場面の彩りとして採用しました。ま、それが分からなくても別に問題はないので、演出のちょっとしたお遊びみたいなものです。
ただ、ここに「スフィンクスとオイディプス」の絵をかけるというアイディアはコンテ段階では生まれておらず、美術監督の池 信孝氏に適当に見つくろってもらおうと思っていたのですが、後にパプリカが夢の中で罠にかかり、乾・小山内に追われて逃げ込む絵として「スフィンクスとオイディプス」というナイスなアイディアが出て来たので、ここでもそれを使うことにした次第です。
それに何しろ「財団法人・精神医療総合研究所」なんですから、エディプスコンプレックスの元となった「スフィンクスとオイディプス」の絵が掛けてあるのは何かいいじゃないですか。

さて、今度はこのエディプスコンプレックス。
「エディプスコンプレックスとは母親を確保しようと強い感情を抱き、父親に対して強い対抗心を抱く心理状態の事をいう」とWikipediaにあります。
さらに引用しつつ紹介しますと、
「男児の自我は、もっとも身近な存在である母親を自己のものにしようとする欲望を抱」き「同時に、自己を父親に同一化させる」が「父親は競争相手あるいは敵であるという認識を抱く。このようにして、父親と同一化した自我と、父親を敵視する自我の二つの位相が生まれ、自我は葛藤に直面する。」そして「かつて父親に同一化していた自我の成分を無意識下に置き「自我の理想形」すなわち「超自我」とすることで、男児の心理は発達するとされる。」
で、この「超自我は、父親の規範としての像を維持し、「なんじなすべし」または「なんじなすべからず」という定言命法(カント)を発する。これは道徳規範である自我理想、つまり超自我の成立とその発展を通じて、自我はより高い道徳規範を志向するようになる。」
『パプリカ』劇中世界にあって「なんじなすべし」とか「なんじなすべからず」といった態度の人間といえば理事長の乾であり、乾は小山内にとってのいわば「蝶自我」じゃないや、「超自我」というイメージでした。
なので、パプリカを捕らえた小山内の首元から乾が現れてきてこう言う。
「私に隠し事など、あり得ぬ」

小山内という人間は、その名字「おさない」の通り、「幼い」人間であると想定していました。時田もよほど子供じみていますが、小山内だってかなり子供です。
他人の自由を奪って監禁したい、という欲望がそのまま垂れ流しになっていて、そのくせ権力には弱い。権力に弱いというのは、結局権力に憧れているからでしょうね。
そのあたりの人間関係のバランスは「第六の手引き」で触れられると思いますので、ここではおくとして、「小山内-オイディプス」と「パプリカ-スフィンクス」のシーンに触れてみましょう。

「これも夢なのね!」
パプリカが乾たちの罠にはまって温室から逃げ出す。ここからパプリカが捕らえられるまでの一連のシーンはたいへん気に入ってます。平沢さんの曲「逃げる者(Escape)」と画面とのシンクロが非常に良くて、最初に映像に曲を合わせて見たときは私もドキドキしてしまいました。
音楽に合わせてコンテを描いたり編集したわけではなく、逆に映像に合わせて音楽を作ってもらったわけでもないのに、非常に映像と音楽がマッチしていました。
パプリカが屋敷の中を逃げ、触手のような樹根がそれを追う。パプリカが走り一室に飛び込む、とその部屋には絵画が並んでいる。
気づかれた方もおられるかもしれませんが、この部屋に並んでいる絵はすべて同じモチーフ、どれも「スフィンクスとオイディプス」です。部屋の両隅に置いてある彫刻もスフィンクスです。画面一番左手に掛けてあるのは粉川と敦子が出会うシーンで掛けてあった絵と同じ素材(色が違いますけど)。
後でパプリカが飛び込むギュスターヴ・モローの絵が中央にあって、その右手に2枚並んでいるのはアングルが描いた絵。私はアングルの絵を見つけたおかげで「スフィンクスとオイディプス」というアイディアに辿り着けました。
シナリオ段階でも「パプリカが絵に逃げ込む」というアイディアはあったのですが、コンテをこのシーンまで描いてきて、逃げ込むべき絵というのがどうもシナリオで考えていたものでは納得が行かなくなってきた。
「何だ?何の絵が相応しいのだ!?」

随分考え込んでしまいました、ホントに。
唸ってばかりでも名案が浮かぶわけもないので、私はこういう難所にさしかかると本棚に並んだ画集とか写真集を開いたり本屋をうろついたり、あるいは浮かんだ単語でウェブ検索をかけるといった方法で切り抜けるのですが、この時もあれこれ本を開いては閉じ開いては閉じを繰り返していました。その時に出会ったのが、アングルの描いた「スフィンクスとオイディプス」(この絵です。http://sapporo.cool.ne.jp/sigmundfreud/Resources/oedipus.jpg/以下のページにはエディプスコンプレックスについての解説もあります。http://sapporo.cool.ne.jp/sigmundfreud/f2.html)でした。
先にスフィンクスの謎々のくだりで紹介した『世界 神話と伝説の謎』(ニール・フィリップ著)という本を開いていて出会いました。この本は以前、別の企画の資料用に買っておいたものですが、『パプリカ』で役立ってくれるとは。ありがとう!オレ!
「おお!これだ!」
と、思ったのもつかの間、アングルの「スフィンクスとオイディプス」だと、画面に締めるスフィンクスのサイズが小さいんです。
「う~ん……画題はうってつけなんだが、サイズがなぁ……これじゃパプリカが飛び込みにくいなぁ……」
ということで、今度は「スフィンクス オイディプス」でウェブの画像検索をかけてついに出会いました。それがギュスターヴ・モローの「スフィンクスとオイディプス」で、完成した映画でパプリカが飛び込むあの絵です。
以前にもこの絵はたしかに知ってはいたのですが、なかなか都合よく思い出せない自分が情けないものです。ただ、今時は画像検索があるので、検索した結果新しく何かを発見するという利点もさることながら、何かを思い出すきっかけとして機能してくれるのはありがたいことです。


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