映画『パプリカ』公式ブログ

世界最高峰のクリエイターによって誕生したパプリカは5月23日いよいよDVD発売!宣伝担当によるちょっとだけ舞台裏ブログ

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●その2

「穴」がまとまって出てくるシーンもありました。
孫悟空に変身したパプリカが氷室の夢の中に降りて行くと、パレードはいるもののその玉座に氷室本人はいない。で、パプリカは風の音に誘われて、風景のひび割れた「穴」を見つけて入って行く、と。
私は「風景がひび割れる」というイメージが以前から好きみたいです。私の作るもので最初に風景のひび割れが登場するのが『OPUS』という漫画作品。漫画家である主人公が自作の中に入り込んで行くのですが、彼の漫画世界の崩壊の前兆として風景にひびが入る。『妄想代理人』の13話でも「記号の町」が割れる。
これも1パターンといえば1パターンですが、『パプリカ』は良く言えばこれまでの仕事の集大成、使ってきたイメージのオールスターキャストみたいに考えていたので是非使っておきたかった。
誰もいない昼間の街から、パプリカが風景のひび割れをくぐると、そこは夜の廃墟の住宅街。パプリカはかすかな風の流れを探るように廃墟を「下りて行く」と。
ここから続く廃墟のイメージは、要するに氷室の荒廃した心的世界ということでしょうか。荒廃した心的世界、というと荒涼とした何もない風景の方がそれらしい気もするんですが、高い密度の画面を好む絵描きの私としてはどうもそちら側には行きたくないらしい(笑)
描くものがたくさんないとつまらないようで、背景の方にはご迷惑をかけることが多くて申し訳ありませんが、この廃墟が続くシーンの背景は密度が高くて気に入ってます。

廃墟の路地でパプリカはびっしり並んだ時田人形といかがわしい光に照らされた小山内の彫像を見つける。
氷室の心的世界は残骸となりつつも、彼にとってもっとも影響力のあるものが残っていた、と。びっしり並んだ時田人形はすべて首を吊られていて、頭がブルブルと小刻みに震えている。震えていることにあまり意味はないです(笑)
その方が気持ち悪いかな、というのが一つ(ちょっと『ジェイコブス・ラダー』の(1990米/監督エイドリアン・ライン)幻覚のイメージがあったかもしれません)。
一応の理由としては、残骸となりつつも氷室は何かメッセージを発しようとしていたのかもしれない、といった程度でしょうか。
ただ、能動的な動きをする以上、氷室も人格崩壊の末期にはわずかながらでも「助けて欲しい」といったことは思ったのかもしれない。そういう意識の残滓かもしれないな、と思っていました。
まぁ、氷室にとって時田はどうしようもなく憧るものであると同時に、憎いとも思っていたでしょうから、もっとも強い感情が時田という形を取り、もう一つの強い感情が小山内という形を取って残っていた、と。
いかがわしい色のライトで照らされた小山内像は、さながらラブホテルを連想させる感じですが、その通りです。氷室にとってはそういう対象だった、と。

そして次に登場する「穴」がマンホール。
マンホールなんですけど、私は「井戸」をイメージしていました。コンテを描く段になってから「さてマンホールはどういうデザインにしようかいな」と、やおらネットで検索をかけてみたら、あら不思議。地面から飛び出しちゃってるマンホールの画像があるではありませんか。
「おお!まるで井戸みたいだ。採用」
このマンホールが飛び出してしまう現象は「抜け上がり」というんだそうで、地盤の液状化現象によって起こるらしいです。こちらのページに写真が出ておりましたので興味のある方は見てください。
http://staff.aist.go.jp/n.kaneko/jp/gakkai/chikyo05.html
パプリカは小さな妖精に変身して(変身というか目に入った妖精の人形に想を得て、それに変容するという感じなんですが)、この井戸のようなマンホールを下りて行く。さらに「横穴」を飛び、風が吹き出してくる壁の「裂け目」に入って行く。その先は明るくなっていて、実は氷室の「抜け殻」。その抜け殻は井戸のような「穴」の底に赤い着物を着て横たわっていた、と。
要するに氷室の心的世界を深く深く下って行ったらすっかり荒廃した氷室が抜け殻となっていた、ということです。そして氷室の中味をすすっていたのは触手のような樹根で(分かりにくかったかもしれませんが)、その先に氷室を壊したやつがいる、と繋がって行きます。
ひび割れからここまでの一連のシーンは、シナリオ段階のイメージと随分変更しておりまして、私もコンテで絵を描いてみるまではどうなるんだかさっぱり予測がつかなかったです。「抜け殻」という描写はシナリオにもあったのですが、それがどういう抜け殻か、という具体性はコンテで初めて考えついた。
最終的には蝉の抜け殻みたいな質感で表面に葉脈が走っている、という感じになりましたが、あの「わずかに透ける」という質感が作業的にはたいへん凶悪でして、一応透けるその奥まで描かないとならないわけですから、作業的には何枚も描く必要があってデータ量も鰻登り(笑) (笑)いごとじゃないんですけど。
でもその甲斐あって、私は気に入るシーンになりました。
「枯れた井戸の苔むす底で、蝉の抜け殻のような男が女物の赤い着物を着て横たわっている」
こんな絵を文脈も無しに急に描け、といわれても私は上手く対処できないと思いますし、何よりそんな絵を急に思いつけない。色々積み上げて行ったら出て来たイメージでした。この絵に出会った(といっても描いているのは私なんですけど)時はちょっと嬉しかったです。
「はぁ……こんな絵が出てくるとは思わなかったわい」
といったような。
蠢く樹根を追ってパプリカが穴を上がって行くと、御大がおわすわけです。
パプリカが穴から飛び出すカットと、御大に驚くパプリカを俯瞰で捉えるカットで、地面に穿たれたたくさんの穴を見ることが出来ます。つまりは氷室の他にも犠牲になっている人がいて、それぞれの穴の底で抜け殻になっている人がいるのであろう、と。
津村も信枝もきっと抜け殻です。でもまだ抜け殻にはなりきらず、半透明の表皮を通して、溶けだしている内部が見えることでしょう。うう、気持ち悪。

『パプリカ』に出てくる「穴」「裂け目」で他に印象に残ると思われるのは、小山内がパプリカの身体を裂く場面、粉川が映画館のスクリーンを無理矢理押し破るくだり、それとやはりラストに出てくる暗黒の大きな穴ということになりましょうか。
いずれも後の手引きで触れるかもしれない、ということで今回はこれにて。では。

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大量の首フリ時田人形にはおぞましさすら感じました(;^~^)パプリカの身体を裂いたり、スクリーンの向こうに行こうとすごい力をかけている感じの迫力が凄くおもしろかったです♪それぞれのシーンの穴にドキドキさせられました。

2007/1/4(木) 午後 11:46 [ - ]


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