映画『パプリカ』公式ブログ

世界最高峰のクリエイターによって誕生したパプリカは5月23日いよいよDVD発売!宣伝担当によるちょっとだけ舞台裏ブログ

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●第四の手引き「穴」

明けましておめでとうございます。
今年も引き続き『パプリカ』並びに当公式ブログをご愛顧のほどお願いいたします。
皆様いかが新年を迎えられたでしょうか。初夢などは見られましたでしょうか。
初夢の縁起ものといえば「一富士、二鷹、三なすび」などと申しますが、私はなんと初夢に「富士山」を見ました。
本物の富士山とはやや異なるものの、真っ白に雪をかぶった富士山が、黒いほどの青空をバックにそびえていました。
私は東海道新幹線の下りに乗っているようで、右手にゆっくりと近づいてくる富士山がごく間近に見え、時折トンネルに遮られるものの何度かはっきりと晴れた富士山を見られました。
鷹となすびは出てきませんでしたが、その後なぜか『東京ゴッドファーザーズ』の心地よい上映に立ち会い、色々あった後に友達とパンを揚げつつビールを飲み歓談する、という奇妙な展開をしてくれました。
意味不明ですが楽しい夢でした。
さて、自分の夢を探る「手引き」は出来ませんが、自分で監督した映画についてなら少しは「手引き」も可能ということで、引き続き『パプリカ』鑑賞の「7つの手引き」、第四回は「穴」についてです。

●その1

『パプリカ』には「穴」がたくさん出て来ます。
エ?『パプリカ』に穴がたくさんある?
ええ、ええ、そうでしょうとも、拙い演出で悪うござんしたよ。穴ふさぎに腐心するより攻撃的であろうとしたのが今回の演出的戦術でそれを私は「チンピラ」的態度と……もう、穴があったら入りたい。
いや、映画の穴じゃなくて、映画に出てくる「穴」の話です。
『パプリカ』に出てくる「穴」で印象に残るのは、やはりクライマックスで登場する巨大で暗黒の「穴」かと思われますが、その他にもいくつかの「穴」が出て参ります。
今回はこれらの「穴」について考察してみたいと思います。

『パプリカ』の映画化にあたって、当初から今回は上下方向の動き、特に「下る」運動が多く出てくることになるだろうな、と思っていました。当然といえば当然で、夢の中に入っていく話なんですから、つまりは無意識を下って行くことになる。そのため運動としては「下る」「下りる」ことが多くなるのはどなたにも想像がつくことかと思います。
まさか、無意識に向かって上がって行く、とは表現しないでしょう。どうしたって次のようなイメージで人間の意識を捉えていると思います。

  自我
-------
  無意識

ユングだったらそのさらに下に「普遍的無意識」と来るのでしょうが、ともかく自分が意識できる層の下に無意識があるというモデルで考えますよね。
だから空間移動としても上下方向で考えることになる、と。

まず『パプリカ』で最初に登場する「穴」はといえば、サーカスのシーンで粉川の足下に穴が開いて呑み込まれる場面でしょうか。粉川と同じ顔をした老若男女に迫られて、動揺した粉川が穴に呑み込まれる、と。
『パプリカ』において穴に落ちる、下に下がるという運動はほとんど無意識を下ることを表しているでしょうから、これも「自分と同じ顔の人々=もう一人の自分」という連想から無意識をもう一段下に下りた、というようなことでもあり、同時に恐怖を感じた粉川が覚醒しないように夢が退路を用意した、というようなことでもあります。多分。
なぜ退路が用意される必要があるかというと、夢は基本的に眠りを疎外しないように働くものでもある、と何かで読んだ覚えがあります。そりゃあ夢が覚醒を促してばかりでは当の個体を身体的な危険にさらすことになるでしょうからね。
穴から落下したと思ったら、サーカスのテント内上方を落下する粉川になって、そこをパプリカが助ける、と。さらに空中ブランコで滑空した粉川がアクロバット用の障壁を突き破る、と。これまた「穴」です。
無意識を下る「穴」の他に、「穴」には別世界への入口という機能もありましたね。

監督が特に「穴」を意識して作ったシーンがあります。
敦子と時田と小山内の三人で氷室のマンションを訪ねると、まず氷室が作ったらしい小さな人形やロボットが動き出して「お帰り」「お帰り」と迎えてくれる。
「穴」の話の前に、この人形やロボットが迎えてくれるというアイディアは、気がつかれた方も多いと思いますが、その通り『ブレードランナー』(BLADE RUNNER /1982・米/監督リドリー・スコット)のセバスチャンの部屋がネタ元です。
ヴェネツィア映画祭でイタリア語の通訳をしてくれた方が「一つ聞いていいですか?あの氷室の部屋は『ブレードランナー』ですよね?」と仰っていたのが印象的ですが、他にもインタビューに来られた方のうち何人かに指摘されて嬉しかったです。
敦子が氷室の寝室にあるタンスの奥に「穴」を見つけます。日本人形の笑い声に誘われるように敦子はこの縦穴を降りて行くことになりますが、実はこの「タンスの中に隠れた穴がある」というアイディアは村上春樹『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』がイメージソースになっています。そんなんばっかり、といってはいけません。世の作家の多くはあまりネタ元を証したりはしないでしょうが、どんなアイディアだって必ずイメージソースがあるものだと思います。
『パプリカ』のプリプロダクション(実制作に入る前のシナリオとか設定開発期間)の時期、私は村上春樹作品にはまっておりまして、その影響か、異界への通路としてタンスの奥の穴とか井戸みたいなモチーフを好んで使ったようです。

敦子はタンスの奥にある「穴」を下りて行きます。
実はこの時点ではすでにDCミニによる侵入を受けているわけですが、この「梯子を下りる」というのは氷室の夢に入っていくということでもあります。梯子で下りた先の部屋、ここの廊下一面にロボットの楽描きがされておりますが、これは氷室が子供の頃に住んでいたマンションということになります。
多分、子供の頃に壁に悪戯描きなんぞをして親に怒られたこともあったんじゃないでしょうかね。氷室はアホな子ではなかったでしょうから、善悪の分別がつかずにそんな真似をしたわけではなく、きっと両親が共働きであまりかまってもらえなくて、だから親の気を引くためにわざとそんな悪戯をしていたのかもしれない……などと考えながらコンテを描いていました。
だいたい絵を描いている時なんて、頭の中は暇なことが多いんですよね(笑)
「どういう絵を描くか」を考えているときは、頭もいっぱいに回転させますが、何を描くか決まって、後は描く作業ということになると、あれこれ考えでもしてないと退屈してしまいます。なので、映画には出てこないような背景にあれこれ思いをめぐらしたりもするわけです。
役に立つか立たないかは別にどうでも良いのですが、そんな想像が玄関先に「家族写真」を貼り込むことに繋がったりしたので、少しは役に立っているんでしょうね。
敦子が梯子から飛び降りて着地したカット、この画面右下に写真立てが置いてあって、コンテ段階では別に何を貼り込むか考えていませんでしたが、撮出し時に「家族写真」にしてみました。氷室の背景を考えると、多分兄弟はないだろう、ということで両親と子供一人の写真です。
氷室は兄弟もなく、子供時代は家で一人寂しいことが多くて(内向的なやつだろうし)、だから家のすぐ前に「遊園地があればいいのに」なんて願望があったのではないか、と。なので敦子がマンションのドアを出た途端に遊園地が見えたりする……んじゃないかと思います。
敦子は日本人形を追いかけて遊園地に入り、やっと人形に近づきますが、手をかけた手すりが歪み、風景が裂けて……現実に戻ります。
ここでも「穴」です。
「穴」に入ることで夢に入って行ったのだから、戻るときも「穴」が良かろう、というちょっとした映像的な韻みたいなものでしょうか。
私のカットの設計が良くなかったため、風景が裂けてその下に街の風景が見える、という高さの恐怖が思ったほど出なかったのは残念ですが、それなりに効果はあったかと思われます。

「穴」のことから話はずれますが、敦子はこの「夢の遊園地体験」の後、現実の遊園地を訪れることになり、一度体験したこの恐怖を自ら克服します。
こういう敦子はけっこう好きです。
一旦味わった恐怖に自分で向き合わないと、いつまでもそれが恐怖の体験として固着してしまうことを分かっているから、敦子は自分で錆び付いた手すりを確かめて「乗り越える」。強いですよね。時田に頼んだって良さそうなのに(笑)
このあたりが敦子は「父の娘」というか、たいていのことを他人を頼らず自力で解決しようとしてきた人なんだろう、と思うところです。強くあらねばならない、と自らに課してきた。半面、他人に上手く頼ることが出来ない、かわいげがないということに繋がるんでしょう。
「父の娘」という概念は河合隼雄先生の著書で知ったのですが、要するに父親-男性と同一化したような男性的な強い女性像、といえばいいでしょうか。自立非婚のキャリアウーマンみたいな。
単純な図式で言ってしまえば、敦子はそうした男性性が極度に強い女性で、その半面である欠落した(あるいは欠落させた)女性性がパプリカという形で現れているのかな、というようなイメージでした。
どうも私はそういう考え方にすぐ陥るようです。
『パーフェクトブルー』の未麻しかり、『妄想代理人』の月子しかり。1パターンめ。

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あけましておめでとうございます☆元旦のレイトでパプリカを満喫しました。正直、ゾクゾクして笑いが込み上げてきました。粉川が下るシーンから、だいぶ世界に入り浸ることができたからでしょう。元旦に見て、ゾクゾクする今年の始まりを体感しました☆

2007/1/4(木) 午後 11:41 [ - ]


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