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(風の音)
♪~
(アナウンサー)「前夜からの大雨が うそのように晴れ渡りました 東京。実にすがすがしい10月10日の朝であります」。
(田畑)よし…。(四三)ばっ!
ハハ… やあ 金栗さん!
あら 田畑さん! てっきり一番乗りと思っとったばってん先ば 越された。
眠れなくてね。俺もです。
それにしても 晴れましたな~。
そりゃ そうだ!一番面白いことをやるんだ 今日から。
ここで! ハハッ。
晴れてもらわなくちゃ困る!
はい!
(松下)あああ…!
晴れてる~!
(孝蔵)<大雨で中止と決め込んでいたブルーインパルスの隊員たち。本番に向け 気合いを入れ直します>
ああ…。
これば 読んで下さい。うん?
嘉納先生が 生前 下すった手紙ばい。
へえ~ エアメールですな。
ベルリンで招致が決まってすぐに書かれたようです。ほう。
「ついに念願は叶った。昭和15年 東京でオリムピックを開催する運びとなった」。
(治五郎)田畑!持って帰るぞ オリンピックを 東京に!
「君は今 熊本で切磋琢磨の日々だろうが是非とも上京して 力を貸してくれ。開会式の聖火ランナーを君に頼みたい」。
聖火ランナー 頼むぞ!
はい!
ハハ… へえ…。
「開会式の聖火ランナーを君に頼みたい。この大役 日本人として初めてオリンピックに参加し黎明の鐘を鳴らした」…。暗記してるんだ!
「君をおいて ほかにない」!
ばってん 坂井君がよかです。
悪かったよ。 ねっ?あっ いやいや…。
いやいや… 根に持ってる あんた 絶対。諦めきれてないじゃんね~!
足袋 履いてるし。
いや これは 坂井君にもしものことがあったら…。
走るの!?走りません。 金栗四三は走りません。
誓います。いや…。
なぜ 誰も来ない?
都知事は? 寝坊してんのかね?
じゃあ そろそろ 私は…。
どこ行くの?これから走る坂井君にこん手紙ば読んで 励まそうと。
頼むから やめてくれ。 おい 金栗さん!
や… 金栗!
走ってるよ ほら… ああ…。
泣いてどうするよ… おい 8月6日!(坂井)8月6日じゃありません!
アトミックボーイでもない!僕は坂井です!
あいつならきっと やってくれるに違いない。
<開会式まで あと5時間。そのころ 東 龍太郎東京都知事は羽田にいました。不参加が決定した インドネシア選手団を空港まで見送りに来たのです>
(東)申し訳ない。
私は出てほしかった。
(アレンの通訳する声)
選手同士 政治や思想を超えてスポーツで技を競い合ってほしかった!
(吹浦のすすり泣き)
泣くな 吹浦。
参加国94 それでも過去最多じゃんね。
(吹浦)どの国もメダルを取る可能性があるから金 銀 銅 3つ取ってもいいようにどの国の旗も3枚ずつ作ったのに!
始まる前に無駄になりました。
なあそうやって泣いたこと 忘れんなよ。
なっ?
(市川)これは記録映画ではないドキュメンタリーでもない。劇映画だと思って下さい。
(一同)はい!え~ キャメラは一人一台ずつ持って配置についてもらいます。
何でも構わない。好きなものを撮ってきてくれ。
(ブランデージ)カイケイ センデン…。
(岩田)ノー ノー。 「カイカイ センゲン」。
<岩ちんは 日本語で開会式のスピーチをしたいというブランデージ会長に付きっきりでしたが…>
(英語で)
ノー。 アイ ドント シンク ソー。
水明亭… あっ。
すんまっせん。 あの 水明亭って どこ…?
<最終聖火ランナーの坂井君は人目を避けるため競技場の目の前にある店にスタンバイさせられていました>
ごめんください! 坂井君!
(店主)あ~ 駄目 駄目 駄目!マスコミの人 帰って。 誰もいないから。
あっ 坂井君。 金栗です。 どぎゃんね?
(店主)「どぎゃん」も何も営業妨害だよ じいさん。
注文いいかい?ああ… あとで焼き飯ばもらいます。
普通 ちゃんぽん頼まないかい?
こんだけ ちゃんぽんの店って書いてあんのにさ~。はあ~ 焼き飯なのね。
<午前10時 いよいよ開場>
来るんだろうね? えっ?
来ないじゃない。 えっ?来るの? 本当に。 うん?
ハハッ…。
来たよ… 来た来た 来た来た おい!
来たよ おい! 来た来た!来ちゃった 来ちゃった。
おい 来ちゃったよ。 ハハハ。
♪~
(北出)世界中の秋晴れを全部東京に持ってきてしまったようなすばらしい秋日和でございます。何か すばらしいことが始まりそうな予感に満ち満ちました国立競技場であります。
いいよ いいよ いいよ そう…。あのじいさんだ あのじいさん…帽子の 帽子のじいさん。 あのじいさんだ。
いい表情 いいぞ いいぞ…。
(笑い声)
<スタジアムには懐かしい顔が 続々とそろい始めました>
(野田)あ~ 田畑さん!おっ!
ハハハ! 野田 老けたな お前。
あっ 田畑さん。うん?
おっ 出た 大横田!
(松澤)いらっしゃい!(野田)あ~ カクさん!
みんな いらっしゃい。あっ まーちゃん ちょっといいかな?
入間基地に集まったはいいけど二日酔いで飛べないんじゃないかって。何!?
℡二日酔いじゃないだろうな!?もう大声出さんで下さいよ。
飛べるのかって聞いてるんだよ!℡飛びます 飛びます。
ここに落ちたら どうするんだよ!?失敗は許されんのだよ!
(大河原)ヨンベ?うん? どうした?
行方不明で ヨンベがいないんです。
何!? もうすぐ入場だぞ!
ちょっとカクさん 代わって。 ヨンベ!
ヨ… ヨンベか? ヨンベ?…じゃないな。
おい ヨンベ! ヨンベか? …ウランダか。
ヨンベじゃないやつは向こう行って。
♪~(「オリンピック序曲」)
全国旗 掲揚!掲揚! 揚げろ~!
揚がれ!
<午後1時50分参加94か国の国旗が一斉に揚がる>
揚がれ 揚がれ 揚がれ 揚がれ!(拍手と歓声)
♪~
開いて。あっ… はい!
(拍手)
♪~
田畑さん いました!
あっ よかった! ヨンベ。
ヨンベ 着替えて 着替えて。
これ持って ほい ほい。
待機場所 あっち。 あっち あっち。行こう 行こう。
行こう 行こう。 急いで。ヨンベ よかった。 大河原 頼むよ。
はい。あ~ よかった。 ヨンベ 行ってこい!
あっ じゃあ まーちゃん。おう。
いいな~ カクさん!ヘヘッ。
ば~ すごかね~ ここ!
入場行進の待機場所になっとるばい。
まっ 硬くなるのも無理なか。
何しろ 7万人だけん。
金栗先生は なぜ走るんですか?
はあ~ それな…今まで 何べんも聞かれたばってん…いっちょん分からん。 フフッ。
僕を推薦した方は前の事務総長さんだそうですね。
ああ 田畑さんね。
いいな~。
聖火ランナーは敗戦からの復興の象徴ばい。
原爆投下の日に広島で生まれた君がふさわしかって。
僕は あの人を恨みます。
ただ その日に生まれただけで…僕なんか 何者でもないのに。
なぜ 僕が走るんですか?
♪~
すんまっせん。(店主)えっ?お水ば頂きます。
(店主)あ~ 出てなかった?ごめん ごめん。
(戸の開閉音)いらっしゃいませ。
(大島)さあ 時間だ 坂井君。そろそろ 準備をしようか!
はい…。
(店主)おい 何してんの?すいまっせん。
ちょっと… ちょちょ… ちょちょ…。
(大島)金栗先生!(店主)何してんの じいさん!
冷水浴たい! どぎゃんね? 落ち着いた?
めちゃくちゃだよ!あんた いい年して めちゃくちゃだ!
わわっ…。
な~んも考えんと 走ればよか!
ついに この時が来たよ。 ハハッ。
あっ… 見ろ ヨンベ。客席は超満員 空は快晴 ハハハ。
何もかも出来すぎじゃんね~。
えっ ヨンベ?
ウイ。お前 ヨンベ!?ウイ?
さっきの 誰だよ? えっ?
た… 大変だ! 大変だ 大変だ!
いた!いや ヨンベがいた。 本当のヨンベが。
まーちゃん まーちゃん どうした?大変だ 東龍さん!
実はね これ コンゴの旗手でね…。北ローデシアの選手 1人足りませ~ん!
それ それ それ! それ そいつさっき あっち行った あっち。あっち?
おい 待てよ おい! 待てよ おい。これ コンゴの旗手 ねっ?
はい 行こう 行こう。急いで。急いで 急いで! 早く 早く!
バタバタじゃんね~!(笑い声)
時間 時間 時間!あ~ そうそう…。
<1時58分 天皇陛下 ご臨席>
♪~(テレビ「君が代」)
あれ? 焼き飯のじいさん どこ行った?えっ?
(テレビ)「選手団の入場行進 開始であります。華やかなパレードが開始されます」。
あっ ああ… ああ… ああ~! ハハハ!
♪~(「オリンピック・マーチ」)
♪~
あ~ ごめんなさい ごめんなさい。ごめんなさいね。
あっ…。(野口)あっ あっ 金栗さん!
あ~ 野口君!(可児)金栗君。
(野口)ちょうど今始まったところですよ。そぎゃんね。
アハハハハ 可児先生。ご無沙汰しております。
いや~ こりゃ とつけむにゃあ!
(北出)「オリンピアから東京へ。今大会 聖火リレーの第1走者しかも 旗手として選手団の先頭を行進する…」。
(可児)あ~ やっと見られる…やっと見られるよ オリンピック。
可児さんは いつもお見送りでしたもんね。
「22番目は コンゴであります」。ハハハハ!
ヨンベ 間に合った 間に合った。
ヨンベ! ウランダ! ハハハ。
思い出すね~ ストックホルム。
三島さんと 2人で歩いた…。
嘉納先生に見せたかったですね。
(拍手と歓声)
あ~ そうそう まーちゃん。アレンが「よろしく」って。
あっ… インドネシアか。
(アレン)コレハ タバタノ タイカイ。
タバタノ オリンピック。
ダカラ デタカッタ。
(東)アレン!
すまない!
サカラワズシテ… カツ!
次は 必ず出てもらおう。
次!?ヘヘヘ。
おっ 聖火 スタートだな。
<午後2時35分 皇居を出発した聖火は国立競技場を目指します>
「日本選手団の入場であります。男子は 真っ赤なブレザー女子も 真っ赤なブレザー。女子は 白のプリーツスカート男子は 白ズボンであります。女子は 白い帽子をかぶっております」。
(拍手)
「ロイヤルボックスから盛んな拍手が送られます。ちょうど その前にさしかかりました」。カクさん!
お~い! カクさ~ん!
「堂々の行進であります」。
(拍手)
「赤と白のコントラストは開催国 日本の意志と力を振りまくようであります。そして 帽子を胸に当てまして…」。
晴れてよかった。
あの時は…。
(河野)晴れてよかったですね 都知事!
あの時は どしゃ降りでしたもんね。
あの時?
小松 勝君ば送り出した時たい。
ここから戦地へ向かったんだよ3万人の若者が。
(一同)ばんざ~い! ばんざ~い!ばんざ~い!ばんざ~い! ばんざ~い!
ばんざ~い! ばんざ~い!ばんざ~い!
(りく)ばんざ~い! ばんざ~い!
俺は諦めん。
田畑…。
オリンピックは やる。 必ず… ここで!
♪~
やったぞ 河野! ここで オリンピック!
ヘッ! ざまあ見ろ バカ野郎め ハハハハ。
やかましい! 何も言うな。
(拍手)
ばんざ~い! ばんざ~い!
ばんざ~い!ばんざ~い!
ばんざ~い!ばんざ~い!
ばんざ~い! ばんざ~い!
ばんざ~い! ばんざ~い!
ばんざ~い!ばんざ~い! ばんざ~い!
ばんざ~い!
ばんざ~い!
(一同)ばんざ~い! ばんざ~い!ばんざ~い! ばんざ~い!ばんざ~い!ばんざ~い! ばんざ~い!ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!
「オリンピックは 全世界の青年の胸に平和と希望と前進の火をともしてまいりました」。
すいません。選手 通りますんで 空けて下さい。
♪~
(鐘の音)
来た…。
(岩田)会長が日本語をしゃべったら 英語字幕を。
もし 英語をしゃべってしまったら日本語の字幕を電光掲示に出して。はい。
よろしくね。 お願いね。
よし…。
(英語で)
点火!
(拍手と歓声)
(鈴木久美江)頑張って。
はい。
(声援)
♪~
「天皇陛下に第18回 オリンピック競技大会の開会宣言をお願いするのであります」。
ワタクシハ 1896ネン…。うん?
「ピエール・ド・クーベルタンダンシャクニ ヨッテ…」。
日本語? ちょっと 英訳に切り替えて。こっち!はい!
キンダイ オリンピックノダイ18カイ キョウギ タイカイノカイカイ センゲンヲココニ ツツシンデテンノウヘイカニオネガイ モウシアゲマス。
(拍手と歓声)
グッジョブ プレジデント!(拍手)
(歓声)
「ここに オリンピック旗の引き継ぎが終わりました」。
(マリー)晴れたでしょ!占い わざと反対を言ったんです。
だから 田畑さんが買って下さったの。カラーテレビ。
(拍手と歓声)
「その数 1万という風船が鮮やかな色彩を残しまして緩やかな飛翔を始めました」。
すごい…。
間もなく 聖火 入ってきます。よし!
「そして 選手団の目が7万5,000の観衆の目が等しく…」。
♪~
(拍手と歓声)
「拍手が起こりました。聖火の入場であります。オレンジの炎 白煙をなびかせて聖火が入場してまいりました」。あっ 坂井君!
あ~ よか!「昭和20年8月6日生まれ」。
よか! よか走りばい 坂井君!
「無限の未来と可能性を持った19歳の若者 坂井義則君です。10万人の若人に受け継がれ 引き継がれて聖火は 今日本の東京オリンピックのメインスタジアムに到着したのであります。バックストレッチへその中央にあります 聖火台への階段に今 さしかかるところであります。これより 高さ32mの聖火台まで上る階段は163段 勾配は28度。菊の花が香る花道であります。坂井君 上り始めました。緑のじゅうたんを踏んで力強く上っていきます。未来へ向かって限りなき前進を象徴するかのように速く 高く 力強く上っていきます」。
♪~
「ついに坂井君は聖火台に立ちます。日本の秋の大空を背景にすっくと立った坂井義則君」。
いいぞ 坂井! 坂井義則! ハハハハ。
(拍手)
♪~
うん! でかした!
坂井君でよかった! ハハハ。
♪~
(ブルーインパルスの飛行音)
♪~
うわ~!「よ~うっ!」(鼓の音)
♪~
うわっ ハハハハハ! ウエ~イ!
みんな ありがとう!
♪~
とつけむにゃあ~!
アハハハハ!
初めて成功したじゃんね~! アハハハ!
♪~
(クラクション)
(タクシー運転手)あ~ すいません…お客さん 日本橋も駄目です。
(美津子)見りゃ分かるわよ。 何で混んでんのよ。
高速道路が出来て渋滞 解消されたんじゃなかったの?
違うんです。 今日 何か みんな車 止めて 空 見てんですよ。
♪~
(志ん生)始まった? オリンピック。
じゃあ 「富久」でもやろうかな。
フフッ。 暮れでもないのに?
ヘッ いいじゃねえかよ。フフフ。
えっ おじいちゃん 落語家さん?
(拍手)
「よ~うっ!」(拍子木の音)
(拍手)
え~… どうも。
え~ 日本中がですね 「オリンピックオリンピック」って大騒ぎの中ですね寄席に これだけお客さんが来るなんてのは もう…何で こんなに来たんだろうという。(笑い声)
まあ 今日は オリンピックに比べりゃちょっとね…寄席ですから 話が小さい噺で「富久」というですね久蔵というね 幇間まあ たいこもちですねこれが あの~お酒でしくじっちゃってですねどうにかして 旦那に出入りを許してもらおうかと思ってその火事の現場 駆けつけたり…。
(孝蔵)「火事だ 火事だ 火事だ 火事だ火事だい! どけどけ どけどけ!」。
私がですね 満州でやった時にですね浅草から日本橋に…。
「浅草から日本橋まで」。
久蔵がですね 走っていくっていうことをしゃべったんです。
ところが そこに聞いてた兵隊がですね…。
(勝)浅草から日本橋ってせいぜい 4~5kmばい。
距離が短いよと怒りだしましてね。
芝まで走ったらどぎゃんですか?芝!?
しょうがないから 私は 日本橋から芝まで走ることになっちゃった。
そしたら その兵隊さんは 何かかけっこが好きでオリンピック目指してたんですけどあとで聞いたら 死んじゃったと。
おめえ… 俺の「富久」最後まで聞いてねえだろ!
久蔵!
まあ その関係でですねなぜか その せがれがですね…。
(知恵)この人 弟子になりたいんだって。
まあ私のとこに弟子入りしてきたんですよ。
で これがまた私をしくじりましてですね…。
(五りん)これ 曲げて下さい。
しくじったのに コレ作りまして。これがまた コレになっちゃって。
(笑い声)コレになったら行方不明という何だか よく分かんないことになっちゃいまして はい。
五りん。
「聖火リレー参加のお願い」?
落語協会から1人出さなきゃいけないのよ。
ほら あんた 走りたいって言ってたから。
まあ あの時は「走ってる場合じゃない」なんて言ったけどさ。
あっ… あの… すいません。
あの件は 忘れて下さい。
開会式の日ね お父ちゃん 名人会なのよ。
芝の「てれび寄席」。
来たら 詫びがかなうかもしれないよ?
しくじりが直るかもしれないよ?
何です? それ。「富久」だよ!
忘れちまったのかい。
ジャンジャ~ンと半鐘が鳴る。
「おい 留さん 火事だ 火事」。
「火事?」。「お前 火事見るの得意じゃないか お前」。
すいません。10月10日は ちーちゃんの予定日なんで。
あの… すいません。
ずっと気にかけてるよ。
落語はサゲのひと言で終わっちゃうけどさそうはいかないだろ 人の一生は。そのあとも続くだろ?
あんたのこと許すかどうかは別としてさお父ちゃんも お母ちゃんも 私も強次も 清も 喜美ちゃんも美濃部家一同… 今松もそれから… きっと…死んだ あんたの父ちゃんも気にかけてるからね。
ハハハハ…。
(美津子)いいサゲ 待ってるよ。
どうも…。
♪~
「久さん 芝の方に客はいねえか?」。
「客? いねえどころじゃねえですよ。ええ その客 しくじんなきゃねこんな汚えとこには住んじゃいねえ」。
「火事はな 芝のな 久保町だってよ」。「久保町? 旦那のとこだ」。
「行ったらいいじゃねえか おめえ。行って 詫び入れて出入り 自由になるぞ」。
(五りん)「志ん生の『富久』は絶品」。
「志ん生の『富久』は絶品」。
あっ こんにちは。
はあ!?
えっ いや あの… あの あの…。
あっ 君 名前は?古今亭五りんです。
あ~ そうか そうか。 落語協会のね。はい。
えっ?えっ 足袋で走んの?
えっ?(笑い声)
すいません 駄目ですか?あ~ まあいいか。
はい じゃあ こっち 入って入って。・前の組 来たぞ!
あっ 来たよ ほら。 はい 並んで並んで…。
あっ… あっ ちょっと あの…僕のトーチ… トーチは? トーチ。えっ? ないよ。
えっ!? 聖火ランナーじゃないんですか?えっ 説明聞いてない?
正走者1名 副走者2名 随走者20名計23名で1区間を走ります。
聖火ランナーズじゃないですか!
ハハハ… そうだね。えっ?
来たぞ~!はい 並んで。
あっ…。旗の受け渡しをお願いします。
(一同)お願いします!えっ 旗? えっ これ持つの!?
え~ 思ってたのと…。点火!
(拍手と歓声)
駆け足 始め!
(声援)
まっ こんなもんか。 五りんだし。
♪~
もう少し ゆっくりで~す!
時速12kmを維持して下さ~い!
「邪魔だ 邪魔だ 邪魔だ…邪魔だよ この野郎!邪魔だっつったって俺しかいねえかこりゃ。 何だよ。火事だ 火事だ 火事だ この野郎」。
「火事だ 火事だ 火事だ~!」っつって。
おい 落語家! うるせえ。
すいませ~ん。
♪~
スッスッ ハッハッ スッスッ ハッハッ…。
えっ?・点火!
ちょちょ… いや… えっ?
(拍手と歓声)
もう終わり? えっ? いや…。
頑張って。
はい。
あっ ちょっと… えっ えっ…。
(拍手と声援)
おっ? おっ おっ…?
おお~!
おじさん 水ちょうだい!
やだよ!えっ?
焼き飯しかないよ。ああ… まあいいか。
おい… 食べんのか おい。
(拍手と歓声)
「拍手が起こりました。聖火の入場であります。オレンジの炎 白煙をなびかせて聖火が入場してまいりました。栄光の最終走者は昭和20年8月6日生まれ…」。
あ~!な… 何だよ!? 何だよ おい… おい!
「坂井君 上り始めました。緑のじゅうたんを踏んで力強く上っていきます」。
ほっ! おっ…?「ついに坂井君は聖火台に立ちます」。
何なんだよ さっきのじいさんといいこいつといい。
「日本の秋の大空を背景にすっくと立った坂井義則君」。
うわっ…。
(志ん生)ジャンジャ~ンと半鐘が鳴る。
「おい 留さん 火事だ 火事」。
「火事だ 火事だ 火事だ この野郎。どけ どけ どけ!どけってんだ この野郎!」。
おじさん こっから芝まで何km?
え~… 芝?いや 本当は日本橋なんだけどさ親父が余計なこと言っちゃって芝になっちゃったのよ。
どっちにしても遠いよ。地下鉄 乗んな。
地下鉄じゃ 詫びはかないませんよ。大事な旦那ですから。
おい これ これ これ!(五りん)あっ!ほら!
いや こっちだろ おい!
「火事だ! 火事だ 火事だ!火事だ 火事だ~! 火事だ 火事だ~!おい 火事だ~!火事だ 火事だ~!」。
スッスッ ハッハッ スッスッ ハッハッ。
日本人が初めてオリンピックに出たのは明治の…。マラソン!
「富久」って落語 ありますか?
「富久」なら知ってるよ。
ああっ! 親父の言いつけで。
冷水浴ば させてあげて下さい。
息子が オリンピック選手になったらうれしかでしょうね~。
てっきり オリンピックにちなんで「五りん」って名付けてくれたんだと思ってました。
おい 五りん今日な 「てれび寄席」だから芝まで つきあえ。
スッスッ ハッハッ スッスッ ハッハッ…。
(荒い息遣い)
「旦那!」。「旦那~!」。 「おう 久蔵じゃねえか」。
「へい 駆けつけてまいりやした」。「駆けつけてまいりました!」。
「どこから?」。 「浅草阿部川町から」。
「えっ 浅草から芝まで!?」。
「『浅草から芝までか! よし 出入りを許す!』ってなこと言うかな? ハハハ。どうすっか分かんねえけど行ってみなきゃ分かんねえ!」。
「ワンワン!」。「鳴くんじゃねえ バカ野郎!えっ? 何で犬が鳴いてやがんだ犬のくせに。 チクショー。泣きたいのは こっちだ この野郎。 え~火事だ 火事だ チクショー! うわ~!」。
(物音)パ~ッと燃えてダダダダッと広がっていく方にパパパパッと ひづめの音。
「ごめんよ ごめんよ!ごめんください! 旦那 旦那 旦那!」。
(拍手)(今松)はい… はい…。
あにさん…あにさん ご無沙汰しております。
師匠 復帰 おめでとうございます。
五りん お前は… 今頃 どの面さげて…。
あっ あっ… 足伸びちゃって。
どっから走ってきたんだ?
あっ…。
浅草の三軒町… あっ 間違えた。
国立競技場から。
忘れねえで来たんだな。
よし 出入りを許してやる。
ほら 何とか言えよ 五りん。 芸人だろ。
よし… 出入りを許すぞ…そう来ると思った。
(今松)何言ってやがる。いえいえ こちらの話で。
あの… 志ん生のよ 「富久」はどうだった?
そりゃ もう…。
「旦那 旦那 旦那!」。「何だ? お前 久蔵じゃねえか」。
「へい 久蔵でございます。 この度は あの大変なことでございまして」。
「何だ お前 どっから来た?」。「へい 浅草の三軒町から」。
「お前 浅草から芝まで来たのか!?偉い! よし 出入り許す」。
「そう来ると思った」。「何だ おい。 何だよ」。(笑い声)
絶品でした!
♪~
五りん 大変! 浅草の病院から。知恵ちゃん 産まれるって。
あっ 予定日!
はい 呼吸大事に! ひい ひい ふう~。ひい ひい ふう~。
はい 曲がりま~す。もうちょっとですからね。
ひい ひい ふう~!
スッスッ ハッハッ…。
(強次)「富久」は片道で終わりじゃありません。ねっ? 芝から浅草まで戻らなくちゃいけませんから。
産まれる 産まれる!あっ 男か女か 女か男か!?
まあ 産まれてみなくちゃ分かんねえってやつだ!
ちーちゃ~ん!
(産声)
あっ… こちらです。
アハハハ…。
ちーちゃん… ちーちゃん…。
お父さんだよ~。ちーちゃん…。お父さんだよ~。
(強次)女の子でした。「富久」やってる最中に産まれた知恵ちゃんの子どもだからってんで富恵と名付けました。おお~!
(拍手)
ねっ 普通でしょ?
いやいや…。(笑い声)
えっ? …あっ 時間がないそうなんで「オリムピック噺」に戻ります。
(辛作)マラソン 金メダル アベベ・ビギラ。
あっ あっ あっ…!
(辛作)どうだ?アベベ うちの足袋 履いてるか?
あっ いや…。
(声援)
いけよ ほら… ほら…。
(強次)レースのもようはってえと宇宙中継システムってのが導入されましてなんと 全世界で放送されました。
嘉納治五郎先生が再三おっしゃられていた「マラソンは スタジアムを出ると待ってるしかないのかね?」問題をテレビ中継が解決したんです。
…が カメラは 一台っきり。なので アベベしか映ってない。
アベベ ぶっちぎりの1位ばい!
はだしで走れってんだよ。
ですからね 2位の選手の姿がこう カメラに スッと入ってきた時にお茶の間の皆さんはどぎもを抜かれたそうです。
「日本の円谷が来た!」。ばばばっ!
つ… つ… 円谷君が 円谷君が2位ばい!
何!?
♪~
ゴール直前ってところで英国の選手に抜かれちまいましたがそれでも 見事 銅メダルを獲得。
「円谷も 今 ゴールイン!」。
よかった よかった! よくやった!やった! よくやった よくやった。やった! やった やりました!
え~ そして10月23日 女子バレーボール 決勝。
(大松)ウマ。(河西)はい!オチョコ。
(宮本)はい!(大松)アチャコ!(磯辺)はい!
(大松)パイスケ!(谷田)はい!力道山!
(松村)はい!
お前 何やったっけ?(半田)最近は フグです。
(大松)フグ!はい!
み~んな 今日で卒業や。
ウマ。はい。
お前 何て言うた?「バレーボールは続けます。 でも…」。
やめたくなったらオリンピックの前日でも やめます!
当日やぞ。 どないする?
やめます!(一同)えっ?
うそです。あ~ びっくりした…。
やります。脅かすな お前。
ええか?
人道上 許し難き 女性の敵鬼の大松は今日で卒業や。
お前ら…勝って 嫁に行け。 行ってまえ!
(一同)はい!
(拍手と歓声)
「日本チーム 6回目のマッチポイント。金メダルポイントであります!サーブは サウスポーの宮本」。
(菊枝)いけ オチョコ!おい… おい。
「さあ 宮本 打った。 ソビエト 懸命に…」。(ホイッスル)
「おっと ホイッスル!」。うん?
(ホイッスル)「オーバーネット!日本 勝った」。あっ やった!
やったぞ やったぞ! アハハハハ!
キャ~!勝った 勝った 勝った 勝った…。
やったぞ 大松!
(五りん)<選手たちの胸に金メダルが輝き優勝の日の丸が揚がった。鬼の大松も この時ばかりは涙を浮かべその体は何度も宙に舞ったのです。その後も うっとうしいぐらいに選手の世話を焼き続けた大松監督。父親を亡くした河西選手の結婚式では父親の代わりに親族の列に並びました>
ありがとう。ありがとうございました。
ありがとうございました。
え~ だいぶ 駆け足でしたが全競技 終了しました!
(拍手)ありがとうございます。
え~… そして迎えた 10月24日閉会式 当日。
ザンビア 独立?
北ローデシアが イギリスから独立してザンビア共和国になったんです 今日。
今日!? これ 今日の新聞かい!
はい。えっ? あ~ ゴンパパ 独立したって?
タバタ!
本当に無理かね? 岩ちん。
悔しいじゃんね~。独立記念日だよ 今日は彼らの。
こういうところを おろそかにしないのが平和の祭典じゃないのかね?
(英語)いや 新しい旗…。
ヘイ ヘイ ヘイ エブリボディー!うん?
ルック!
おい ゴンパパ! ハハハ!
(拍手と歓声)
でかしたぞ 吹浦! ハハハハハ。
<国旗は なんとか間に合ったんですが…>
(森西)国ごとに並んで!<閉会式 直前。全競技を終えた解放感から選手たちは 全く言うことを聞かない。肩を組むやつ 抱き合うやつ酔っ払って 雄たけびを上げるやつ>
おい 森やん! 何やってんだ!違う… めちゃくちゃだよ!
もう入場行進だぞ!
あっ… えっ?(森西)松澤さん もう無理!
もう ゲート開けちゃいま~す!何 何 何…?
ちょちょちょ… 何やってんだ おい。知らないよ もう!
どうなってんだよ お前ら!
あっ! あああ~!
もう おしまいだ…。
何もかも台なしだ~!
♪~(拍手)
<ところが このしっちゃかめっちゃかの行進が世界中から称賛されたってんだからあ~ 分からないものですな~>
(拍手)
「開会式のあの統一された美しさではありません」。
<あああ… もう ぐっちゃぐちゃ!>
「しかし そこには国境を越え 宗教を超えました美しい姿があります。このような美しい姿を見たことはありません。まことに 和気あいあい 呉越同舟…」。
♪~
(治五郎)田畑。
(治五郎)これが 君が世界に見せたい日本かね?
回想 (治五郎)オリンピックは…オリンピックは… やる!
今の日本はあなたが世界に見せたい日本ですか!?
はい。 いかがですか?
面白い… 実に面白い!
(治五郎)田畑… 私は 改めて君に礼を言うよ。ありがとう!
♪~
(岩田)田畑さん ようやく終わりましたよ。まあ いろいろありましたが 最後は…。
(秒針の音)これが お守りでした。
どうぞ お返しします。
田畑さん?
♪~
岩田君… 俺は…改めて 君に礼を言うよ。
ありがとう!
♪~
最高だよ!
俺のオリンピックがみんなのオリンピックになった。
ありがとう。
♪~
はい。
♪~
(秒針の音)
(花火の音)
♪~
「よ~うっ!」(鼓の音)
♪~
ご苦労さまでした。
♪~
♪~
(孝蔵)<東京オリンピックから3年後。韋駄天のもとに 一通の手紙が届いた>
(スヤ)「金栗四三選手 あなたは1912年7月14日 マラソン競技において競技場をスタートしたあと一切の報告がなされておらず今 まだ どこかを走り続けていると想定されます。当委員会は マラソン競技の完走を要請いたします」?
わ~ すご~い!
あら~。行方不明?
消えた日本人って呼ばれとるらしか。
<1912年のオリンピックを祝う式典が行われ韋駄天55年ぶりにストックホルムを走ります>
やっと来られた!
ついに見られますね オリンピック。
うん。
<そのころ まーちゃんはってえと…>
はい 追いつこうよ 木原に。
<河童に逆戻り。日本水泳連盟 名誉会長として後進の育成に力を注ぎました>
ん~ よいしょ~! ハハハハ いいね!
あっ ちょっと… まだ早かですよ。
ウォーミングアップたい。
ひ… ひゃあ~!
アハハ!あ~ 寒か! あ~ 寒い…。
よっ 韋駄天!
♪~
♪~
ほら… 頑張れ!
2m! 1m!
よいしょ!
あっ! 止めちゃった。
(日本語で)
え~…今度 55年ぶりにやって来ましたので。
いや~ 実に長い道のりでした。
(笑い声)ありがとうございました。
(拍手)
「よ~うっ!」(拍子木の音)
「参加することに意義がある」と唱えたクーベルタン。
オリンピックは時に政治や戦争に影響を受けながらも参加する国と地域が増えていきました。
東京大会では初参加が 15か国。
田畑が夢みた多彩な民族が集まる大会が実現しました。
その時 初参加したアフリカ 北ローデシアの代表チャールズ・フォックスさん。
16歳だったチャールズさんには多くの女性ファンができたそう。
なんと 閉会式の日に母国が独立を迎えたのです。
さまざまな背景を持った参加者が集うオリンピック。
前回からは難民選手団も設けられ母国から出場できない選手も参加しています。
来年 東京は56年ぶりに夢の舞台となります。