今週のお題「2019年買ってよかったもの」それはブログを買ったこと
(前回のあらすじ:1573年夏、戦国時代に転生したオババとアメリッシュ。アバターになった戦国時代の母娘を生かすため兵隊になる決意をした。鉄砲足軽隊として他の5人の仲間とともに古川久兵衛の配下に。彼と共に密偵として小谷城へ向かう)
小谷城への密偵の道
「どこまで、船をこぐんや」と、トミが聞いた。
「今日は天気がいい。琵琶湖もしずかで、風もねぇ。一生懸命こいでけば、対岸までは、すぐそこだ」
われらの頭、古川久兵衛は額の汗を拭った。
そう、私たちは恐る恐る小型の荷船に乗った。
すぐそこのはずの対岸は琵琶湖の向こう側で、ほとんど見えない。そして、私たちには距離以上の距離があったんだ。
「それで、向こうへ渡って何をする」
「おう、深く考えんな。それより、空を見てみろや、いい船旅日和じゃねえか」
久兵衛は笑っただけで他の情報は教えない。隠密行動なのだろうが、歴女を甘く見ないでほしい。行き先はわかっているんだ。浅井長政が住む小谷城にちがいないだろう。
この久兵衛という男、仲間のヨシに手をつけた速さは、それこそ光なみで、女に慣れているというか、ガサツなところが放っておけない母性本能をくすぐるセクシーさがあるというか。
あのキツネ目の『男なんてクソよ』であったヨシが、すっかりのぼせている。女性に手練れだけど、おそらく彼にその自覚はない。自覚のないモテ男こそ、世の男のなかで最も厄介であって。
「じゃ、マチ」と彼、私に言ったんだ。
「あんたが一番若い。方向みるにいいだろう、舵を頼むわ」
い、今! な、な、な、なんちゅうた!
い、い、一番若い!!!
うをぉおおお〜〜〜!
それな。
本当に若い女に言ったからって全然喜ばないから、ただ周囲の若く見える女の反感を買うだけだから。
だがな、私は違う。
2019年の現代では、もう子どもが大学生のすっかりオバちゃんなんだ。それに向かって一番若いだとぉ!!
いや、確かにマチは20歳そこそこの年齢だ、しかし、私は・・・
お、お、おい、お前、なかなかいい男じゃないか。
さっぱりして乱暴で、後先考えない性格なくせに、妙に優しいところもある。その上に「俺じゃダメか」オーラがでている。
だ、ダメだから、私は夫がいる身。
「アメ、なにクネクネしている」
「お義母さま、何をおっしゃいますの」
オババが横目で睨み、それから皮肉に頬をあげた。
「よし、漕げ、皆の者! 目指すは対岸じゃ」
久兵衛が号令をだした。
荷船の左側に久兵衛とテン。
右側にオババとトミがすわり、一斉に櫂を入れた。
入れた・・・
入れたんだ・・・
船、なぜか時計回りにその場で2回旋回した。
「止まれぃ!」
櫂を扱うのに慣れている久兵衛側と全くはじめてのオババとトミ。
「テン、右に移動しろ。左は俺だけでいい。それから、櫂は水のなかへ入れろ、トミ。空中で振り回しても船は動かん」
オババが得意顔してるけど、似たようなもんだから。
で、結果として彼一人に女三人が右翼に腰を下ろした。
素晴らしく美しい朝日に照らされながら、再び私たちは出発した。
出発・・・
そして、私は思い出したんだ。車の運転がむちゃくちゃ苦手だってことを。なぜ、苦手かって、そりゃ、右左の感覚が絶望的にないからであって。
これから向かう小谷城は、坂本城からみると北東の越前側(現在の福井県)にあり、越前から京へ上る要所に位置している。
ま、簡単にいうと、琵琶湖の京側ボトムからトップ方面に船を出した。
わかってる、小谷城に向かうって。
それが、なぜか、不思議なことに荷船は南方向へ。その方向には同時に出た他の荷船がいた。
「おう、姉ちゃんたち、どっちへ行く!」と、さっそく叱られた。
お前、世が世なら高速道路でヤンキーやってるオッチャンか。
「マチ、左だ、左に舵を切れ」
「おう」
私は左に切った。すると、船はゆっくりと左に向かい、それから、ゆっくりと大きな輪を描いて、元の位置に戻った。
「あのな、マチ、少しだけ左でいい」
「す、す、少しだけ」
その時、すでにパニック寸前であって、口中では苦いツバが大量にでていた。
私の脳内で、高速道路に合流するときの恐怖が蘇ったんだ。いや、思い出してはいけない記憶ってあると思う。
ともかく、ずっと昔(いや、いっそ450年ほど未来か)、運転免許を取得したとき理解したんだ。
首都高に入るのを、なぜ合流すると言うのか。
それは、他のビュンビュン飛ばす制限時速など全く理解できないスピード狂と同じ立ち位置に入ることであって、合流とは、その場の戦いに入ることだ。
いったい全体、なぜ、みな運転が上手い。
なぜなんだ。なぜ、しれっと合流できる!
運転下手だって存在していいと思うんだが、傲慢だろうか・・・
あの高速道路という魔界に合流する尋常じゃない精神力、そんな強い心はもちあわせてない、てなこと考えてると久兵衛が叫んだ。
「おい、櫂(かい)は同じ方向に動かせ!」
そうだ。舵をとる私以上に、初心者ふたりオババとトミ、なぜか櫂がぶつかって喧嘩している。
「前から後ろ、同時に1、2だ。いや、トミ、空中でうごかしても意味はねぇ」
ともかく、読者諸君。
これ以上は、なにも書くまい。
ただ、結果だけは教えておこう。われらは船頭を雇った。
「ち、この計画でもらった金、少ないんだぜ」と久兵衛が細かいことを言っていたが、誰も聞く耳は持たなかった。
戦国大名、朝倉義景という男
朝倉義景はプライドが高い。名門を鼻にかけた傲慢な男で、といっても戦国時代に名を残す人間で傲慢さがない男など見当たらないけど。
名門朝倉家の10代目の党首で天皇家と将軍家とも交流が深い彼は、とても残念な男でもあった。
この残念さ加減は信長の生き様と比較すればよくわかる。
もし彼が信長のような胆力と行動力があったならば、天下は朝倉家がとったかもしれない。それほど好位置にいたんだ。
歴史に仮定は愚かしいが・・・
けどね、足利将軍義昭が助けを求めたとき、朝倉が動いたら上洛できたのは彼だった。しかし、彼は足利義昭をかくまっただけで何もしなかった。業を煮やした義昭は明智光秀の意見を取り入れ織田信長に頼ることになったんだ。
こうした残念な党首をいただいた家臣は大きな悲劇である。
1573年、小谷城を守る浅井長政は、信長を裏切り朝倉側についてしまった。朝倉と浅井は古くから親交があり、その縁故を切ることができない気の弱さ、未来を見つめる目を持たなかったんだ。
ようは時代の趨勢(すうせい)を見誤った。こうしたトップを持つ家臣も、やはり悲劇だ。
織田信長による足利将軍追放の報告は、時間差で浅井長政にも朝倉義昭にも届いた。
「織田は足利将軍を追放しました」
という一報を聞き、浅井長政はうろたえた。
「誠か」と彼は確認した。
「は!」
「本当に誠に誠か」
「は!」
「4万の兵で二条城を取り囲んだそうで」
「4万・・・、か」
長政とその重臣は言葉を失った。
いや、大丈夫だと心を鬼にした。
彼と彼の親族が住む小谷城は難攻不落の山城。山の中腹から山頂にかけて築いた砦と、多くの手配の城を持ち、これを落とすのは容易ではない。
一般的に籠城した城を落とすには数倍の兵がいると言われている。
孫子でも学んだと心を強くした。
『防御に徹する守備側を攻略することは容易ではなく、攻城は下策で最も避けるべき』
それでも嫌な汗が背中を流れる。
戦争は数だ。それは戦国武将のだれもが知る常識であった。
「その後の信長の動きは」
「兵をとかず、休ませています」
「次は、どこ・・・」
織田信長が次に侵攻するのは、どこだという質問をのみ込んだ。
南の石山本願寺か、東の武田か、あるいはこちらか。
「引き続き、動静を探れ」
「は!」
こうして織田側、朝倉側、浅井側、遠くは上杉、武田、石山本願寺。多くの間者が放たれた。
その一つ、オババと私をともなった古川久兵衛は、琵琶湖で荷船を回転させていた。
・・・つづく
ほまちゃん (id:r-lovely-food) さん『信長はそんなに裏切られても尚人を信じたのかなぁ…アメさんとオババ様の登場もう少し増やして欲しい』というコメントありがとうございます。
がんばってみました。
登場人物
オババ:私の姑。カネという1573年農民の40代のアバターとして戦国時代に転生
私:アメリッシュ。マチという1573年農民の20代のアバターとして戦国時代に転生
トミ:1573年に生きる農民生まれ。明智光秀に仕える鉄砲足軽ホ隊の頭
ハマ:13歳の子ども鉄砲足軽ホ隊
カズ:心優しく大人しい鉄砲足軽ホ隊。19歳
ヨシ:貧しい元士族の織田に滅ぼされた家の娘。鉄砲足軽ホ隊
テン:ナイフ剣技に優れた美しい謎の女。鉄砲足軽ホ隊
古川久兵衛:足軽小頭(鉄砲足軽隊小頭)。鉄砲足軽ホ隊を配下にした明智光秀の家来
*内容は歴史的事実を元にしたフィクションです。
*歴史上の登場人物の年齢については不詳なことが多く、一般的に流通している年齢などで書いています。
*歴史的内容については、一応、持っている資料などで確認していますが、間違っていましたらごめんなさい。
参考資料:#『信長公記』太田牛一著#『日本史』ルイス・フロイス著#『惟任退治記』大村由己著#『軍事の日本史』本郷和人著#『黄金の日本史』加藤廣著#『日本史のツボ』本郷和人著#『歴史の見かた』和歌森太郎著#『村上海賊の娘』和田竜著#『信長』坂口安吾著#『日本の歴史』杉山博著#『雑兵足軽たちの戦い』東郷隆著#『骨が語る日本史』鈴木尚著(馬場悠男解説)#『夜這いの民俗学』赤松啓介著ほか多数
NHK大河ドラマ『麒麟がくる』メインビジュアル
『麒麟がくる』のメインビジュアルが完成したそうです。
主役の長谷川博巳さん
「てめえら、俺に逆らうか!」と言わんばかりに凛々しく立ってます。
背後をおおう黒い影は麒麟か悪魔か・・・
このクオリティの高さに、おもわず期待を寄せる私がいます。
「それでも、この仁なき世を愛せるか」
ご覧ください。
むちゃ、かっこよくないですか?
1月19日。公開が待ち遠しいです。
「それでも、この仁なき荷船は湖を渡ったか」
乞うご期待