王都のあるリ・エスティーゼ領に200万人居たとして、残りの8大都市のある領域に700万人が均等に居たとします
すると各大都市の地方には87万人居ることになります。
モモンガは現時点でエ・ランテル領、エ・ペスペル領を治めるので160万人を統治する必要があるみたいですね。
現代の日本の都市に置き換えると、日本人口第5位の都市「福岡市」を統治するという事らしいです。
ヤバイですね。
一般人にそんなのやれとか言われたら、うつ病になっちゃいそうです。
人口が多いとされる中世ヴェネツィアでも約600ha=6キロ平方メートル(2x3km位)の土地に10万人超の人口らしいです。
魔法のある世界なので命を落とす事が現実より少ないのかもしれませんね。
●補足
近世とされる江戸でも110万人、ロンドンでも70万人、パリでも50万人だそうで
江戸とパリを統治の方がしっくり来るかもですね――――来ないわ!!!
ジルクニフが人的資源を削る策をとるのも止むなし。
01. スラム街からフロンティアヘ
―――― エ・ランテル 貴賓館
正直大変な事になった。
元々はジルクニフが派遣してくれる内政官に面倒を見て貰うつもりだったのに、エ・ペスペル領まで治める事になっちゃったから、内政官は殆どがエ・ペスペル領に行ってしまった。
元・ペスペア侯の派閥貴族は、エ・ペスペル領の西のリ・ロベル領に封じられたので皆そちらへ移ってしまった。
だからエ・ペスペル領を統治する者が殆ど居なくなってしまったのだ。
結果バハルス官僚はエ・ペスペル領に付きっ切りになってしまい、エ・ランテルは都市長パナソレイ達が居るから何とかなるだろうと放任されてしまった……。
流石のジルクニフも大都市を2つも得られるとは思ってなかったようだ。
「大公閣下。これからの統治方針をお聞かせ頂けると幸いなのですが……」
汗を流しながら都市長パナソレイは俺にお伺いを立てる。
俺は王侯貴族たちが滞在する、エ・ランテルで最も格の高い貴賓館の玉座(?)に座ってパナソレイと会話を交わす。
「法律は帝国法に徐々に移行していくとして、最優先事項はスラム街の対応だ。
それと、私の事はモモンガ公で良い。私はこの名に誇りを持っているのでな。
その他の事は今のところ、今まで通りで良い。」
「畏まりました、モモンガ公。」
退席するパナソレイを目で追いつつ、俺は思考の海へ沈んでいく。
度重なる戦争で疲弊しているエ・ランテルを立て直すには、トップダウンもしくはボトムアップどちらかを選ぶ必要がある。
トップダウンは富裕層に対しての政策を優先し、吸い上げる税金を使って富の再分配を行う。税収を増やし易いので長い目で見れば再分配できる資金量は大きくなる。
この場合、貧困層は必然的に後回しになり、目先の貧困層は見捨てなければならない。
ボトムアップの場合は貧困層に対しての政策を優先し、トップダウンほどは増加しない税を再分配する。
この場合、富裕層の負担が増えて上手く統治できなければ最悪富裕層が他の土地へ移住し、治められる税金がドンドン減っていく悪のスパイラルが発生する事がある。
どちらが正しいかは一般人の俺には分からない。
だから現実の俺に似ている、明日を生きていくのも困難な貧困層から救う事にした。
仮に富裕層が出て行ってしまうとしても、行き先は恐らくバハルス帝国内だ。
だから帝国の損失にはならないだろう……と思う。
といっても流石にエ・ランテルをノータッチという訳ではない。
今までエ・ランテルを警備していた衛兵に加えて、
部隊も人間のみ、混成、
これは、アンデッドと共に働く事を強制していないという意思表示だ。
治安が良くなるというだけでも領民にとっては喜ばしい事で、貧困層~富裕層どの層のウケも良い。
次に行っているのは人口調査と土地の所有者(厳密には所有者は俺で、自由に使う権利を金銭を対価に貸し与えているのだが)だ。
王国では帝国ほどしっかりと調査はしていないので帝国に編入するためににはしっかり行わなくてはならないし、正確な情報はこれから何をするにも必要だ。
ここは
ちなみに此処で集めた情報は格安で(銅貨~銀貨単位)購入できる。
人口台帳は氏名こそ明かさないが、どの地区にどのような職種の者が何人いるか年齢層まで正確に書かれている。
土地台帳には何処が誰の所有する地区か、どこが行政特区かまで色つきで分かる。
これはどちらかというと富裕層向けだが、結局データとしては必要なのでおまけのようなものだ。
商人には非常に人気ではあるが。
これらはナザリック内の活版印刷で印刷されたものであるため、販売まで出来るのはエ・ランテルのみの行政サービスといえよう。
活版印刷はルネサンス期ヨーロッパの三大発明の1つなので、暫くは秘匿技術にさせて貰っている。
魔法が使える世界でこの結果から何が生み出されるかも気になるし。
(エ・ランテルだけで40万人も居るとは思わなかったなぁ……。ていうかスラム街の人口が25,000人も居るなんて……。
しかも識字率も20%未満だなんて。現実よりハードな世界だなぁ……)
調べてみて分かる事もある。モモンとして活動している時は全然気が付かなかった。
スラム街の平均年齢は他の地区に比べてかなり低い。
つまり、病気や事件で若くして命を落とす事が多いし、性暴力もあるのだろう……。
貧困層は都市に来た理由も農家の長男ではないため農地が継げずに職を求めて都市に来たというものが多い。
または工房を持てなかった零細職人が落ちぶれてというケースもある。
畑を耕す力、物を製造する力はあるため、実験していた一つのアイデアが上手い事合致した。
元々はカルネ村の様な発展途上の村の為に開発していたのだが、ここで役に立つとは思わなかった。
パンドラズ・アクターも悪くない政策だといってくれた。
スラム街から人がいなくなるだけでも治安は良くなるし、何より何の生産性も無かった25,000人が新たなマーケットとなるのだから、商人にとっても、様々な職人にとってもいいことらしい。
因みに大雑把にはこんな感じだ。
200人程の開拓村を作る→スラム街の者を開拓村に送る→以上。
ね?簡単でしょ?
というのは冗談で、200人規模の村を作るのに、
木材はトブの大森林から、石材はアゼルリシア山脈の岩山を削りだして転移で輸送するから建材はノーコストだ。
行政サービスはアンデッド+αが働くから経費はかなり安い。
村の役場は
酒場併設の宿は
教会は流石にアンデッドは無理だったので、レベル40くらいの天使を金貨で召喚した。
Lv40くらいなのは、ナザリックの召喚できる天使の最低レベルが40からだったからだ。
もっと安いモンスターを召喚できるようにしておけば安く済んだのにと思うが、こんなこと予測できないから仕方ない。
鍛冶屋、工房はスラム街からつれて来た零細職人にやらせている。
ちなみに、開拓村を選定するための水源確保も簡単だった。
アゼルリシア山脈とトブの大森林のお陰で河川もそこそこあるし、井戸は大体何処を掘っても水が出るのだ。
そういうわけで、開拓村の新設とスラム街の貧困民救済は半年も掛かってしまったが無事に終える事が出来た。
これも実験やアインズ時代のアンデッド農業の貯蓄のお陰だろう。
半年間の炊き出しを行っても貯蓄が尽きる事はなかったのだから。
だが、この政策を行うためにユグドラシル金貨を20万枚も使うことになった。
勿論そのまま使ったわけじゃない。ユグドラシル金貨を鋳潰して金のインゴットやメダルを作って購入資金を確保したというわけだ。
帝国金貨にする? 馬鹿言え、幾ら公爵でも貨幣偽造になってしまうよ。
だが、そのアイデアは間違ってなかったのかもしれない。
鍛冶長達に細工を施してもらって装飾品として売ったほうが付加価値がついて良かったのだろうし。
パンドラズ・アクターとアルベドの試算では10年で回収出来るそうだからまぁいいか。
(やっぱりレベル40のシモベが重かったなぁ~)
こんなあっさりでは面白くもないだろう?
少し、各工程の話でもしてみようか――――
●小話1:ジルと爺
「爺。これを見たか?」
ジルクニフはそう言ってエ・ランテル土地台帳をフールーダに見せる。
「これは大師匠の居られるエ・ランテルの地図ですな。流石は大師匠、精巧な地図をお作りになられる。
はて、地図に書かれている人名と色は一体?」
「これはな、この土地の所有者の名だ。
色はこの土地が何を表すかだ。緑系が住居、青系が商業、黄系が工房、紫は行政特区だ。
工房と住居が一体化している場合は、緑と黄色の斜線が引かれている」
ジルクニフは地図を指しつつ、フールーダに説明していく。
フールーダはこういうことに関わって来なかったため、この手の情報には疎い。
「ほうほう、色で分けられていれば見やすいし、文字が読めぬ者にも理解がしやすいですな。」
「だが、手間は相当なものだ。」
「そうですの。一枚作るだけでも簡単では御座いますまい。
ですが私にこれを見せるということは、その様な平凡な答えを求めてはいない。ですかな?」
フールーダも気付く。自分がこの話題を振られた意味に。
そして彼の目が鋭くなっていく。
「そうだ。これと同じ物がここに100冊ある。
各貴族に渡すためとロウネに送られてきた。ロウネが血相を変えて来たときは面白かったよ。」
(まぁ、こんなものポンと渡されたら取り乱すのも無理はない。)
「木版印刷でも多数の職人が必要になりますし、これだけの精度、帝都でも難しいですな。」
「これが一度きりなら帝都でも出来よう、だがこれは二月に一回最新版が出るのだ。
しかも1冊銀貨10枚だ。」
「なんと!! いちいち木版など作っていては直ぐに捨てる事になりますな。
コスト的にも労力的にもとても現実的ではない!!」
フールーダは驚いた様子で台帳を捲っていく。
「ははは。爺よ、あまり演技は上手くないようだな。」
「わかりますかな。つまりこれは大師匠の魔法によるものと、そう言いたいのですな?」
「あぁ。確か第0~2階位に紙を作り出せる魔法があっただろう?
階位が上がるごとに品質がよくなり、着色や形が柔軟になっていくヤツだ。」
「その延長線上とお考えなのですな?
第2階位の紙ですら、単色かつ全体の色が変わってしまいますぞ。
第3,4位階での魔法を編み出したとしても、ここまで色と線を自由に扱う事は困難かと。」
「やはりそうか。モモンガ自らが作っているとは考え難い。
ならば、爺が使えぬような程高位の魔法ではないと思ったのだ。
だから、爺なら実物を見れば何かひらめくかと思ったのだがな。」
フールーダは印刷された紙をじっくりと眺める。
もしやモモンガ大師匠の自分に対してのテストなのではないかと勘違いするほどに。
「ジル、研究してみましょう。
此処までのものは難しいとしても、数段劣るものであれば不可能ではないのかもしれません。」
「おぉ! やってくれるか。魔法に疎い私でもこれが安易でない事くらいは簡単に分かる。
それは持っていっても良い。研究に使ってくれ。」
ジルクニフがモモンガが紙を大量に購入している事に気が付くのは半年ほど後だった。
貨幣価値:
1白金貨=5ユグドラシル金貨=10金貨=200銀貨=4000銅貨ということにしました。
白金貨~金貨は書籍やアニメで確定してますが、銀貨、銅貨はwikiの考察からキリのいい数値を使いました。
まぁ、銀貨、銅貨が頻繁に出てくることはないですが。
人口台帳:
銅貨10枚。第0位階の安物を使って作っているためコストが安い
各地区毎に人口、男女別年齢層、住んでいる者の職種割合、識字率が書かれている。
行政所に置かれている原本には人名、年齢も記載されている。
土地台帳:
銀貨10枚。第1位階の紙を使用している。
各地区毎の土地の所有者、土地区分(住宅、商業、産業、行政)が色付きで記載されている。
商人などが如何土地活用するか、ライバルが何処に土地を持っているか調べている