モモンガ式領地経営術   作:火焔+

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ようやくプロローグが終わり本編に入ります。
長かった……10話以内に終わるはずだったのに……

あ、四季がある体でお願いしますね。
雨季、乾季とかイマイチイメージ付かないので。



14. モモンとモモンガ

―――― エ・ランテル

 

 一月に始まった1時間にも満たない戦争が終わり、戦後処理で二ヶ月が経過し三月となる。

 寒い冬が終わり春の芽生えが始まる頃、俺はエ・ランテルに凱旋パレードをする事になった。

 

 エ・ランテルがバハルス帝国の国土となったが市民の生活は変わらなかった。

 元々、国民は中世的な感性の持ち主であり、村から都市から殆ど出ずに一生を終える者達が多いのだ。

 つまり鈴木悟の様に日本人という帰属意識はなく、エ・ランテル市民、カルネ村の村人という遙かに小さい括りとなる。

 簡単に言うと彼らは、自身をリ・エスティーゼ王国民とは思っていない者が大半なのだ。

 

 だから統治者がリ・エスティーゼ王国からバハルス帝国に変わろうとも、エ・ランテル市民であることは変わらないから生活も変わらないのである。

 実際には統治方法が変わるから生活は緩やかに変わっていくのだが、市民としては自分の生活が豊かになるかが大事なのだ。

 特に戦争で市民の死が無かった事が変わらなかった大きな要因の一つだった。

 

 故に今回の凱旋パレードは彼らにとって友人を家族を死なせなかった統治者として思った以上に好意的に受け入れられた。

 

 

 

 モモンガはアルベドを傍に従え、意味の分からないほど豪華で大きな神輿に乗ってエ・ランテルの大通りを進んでいく。

 その左右には500名ずつの死の騎士(デス・ナイト)魂喰らい(ソウルイーター)が騎士の代わりに隊を組んで歩みを進め、その外側に今回の為に応援に来た帝国騎士が隊列を組む。

 

 エ・ランテル市民にとってアンデッドは墓地に出現する敵ではあるが、帝国騎士がとなりを歩くという奇怪な現象を見て困惑しつつもその様子を見上げていた。

 この程度で済んでいるのはモモンガが予めエ・ランテル都市長のパナソレイに布告するように指示しておいたからだ。

 

 

 新たにエ・ランテル領主となったモモンガ大公は、十三英雄の一人リグリット・ベルスー・カウラウを超えるネクロマンサーだと。

 

 

 王国民が如何にマジックキャスターについて知識がなくとも、十三英雄は誰もが知る英雄。

 それを超えるものと大々的に触れ込み、しかも先回の戦争では戦わずに王国軍に勝利したという噂もエ・ランテルでは広まっている。

 更に死者がいなかった(市民にとって貴族は数に入っていない)ことが事実ではないかと魔法に詳しい者達は言う。

 普通に戦えば死者がいないなどありえないのだから。それに、戦場から戻ってきた者達が俺達は何をしていたのかと狐に化かされた様子だった事からも、魔法の力説が支持される要因だ。

 それ故に強大な力を持つ俺が使役するアンデッドだからと忌避感が少なかったのだ。

 

 

 エ・ランテル市民たちは事実かどうか分からない噂を確かめるべく大通りに集まった。

 それがモモンガ達の狙いだった。

 

 多数のエ・ランテル市民、冒険者、他国の商人たちといった様々な種類の人間がモモンガ大公の凱旋パレードを見る。

 隠密の報告では、王国と法国、聖王国のスパイがいることも確認済みだ。

 つまり此処での出来事は周辺国家に伝わるということだ。

 

 

 

 これをモモンガが提案した時、デミウルゴス達は非常に驚いていた。

 

「まさか、この時に使うために名声を高められていたのですか」と。

 

 正直これからの仕事は多忙すぎて冒険者をやっている暇はモモンガにはない。

 ついでだからこの機に名声をすげ替えようとしただけだった。

 

 

「モモンガ様。そろそろお時間です。」

 

 モモンガが思考の海に沈んでいるところをアルベドが引き上げてくれた。

 

「あぁ。ありがとう、アルベド。」

 

「とんでも御座いません。モモンガ様のサポートをするのがわたくしの至上の喜び。

 いつまでもお傍に置いてくださいませ。」

 

 やっぱり大げさなもの言いをするアルベドにモモンガは困った笑いを浮かべる。

 

(さて、頼むぞパンドラズ・アクター)

 

 

 

 エ・ランテル三重の門の内、2つ目を通った所で異変は起きた。

 

 漆黒の全身鎧を纏ったモモン(パンドラズ・アクター)が大通りの中央に立っていたからだ。

 隣にはナーベ(ナーベラル)、ハムスケも控えている。

 

 モモンガの乗る神輿はモモンの目の前で止まる。

 エ・ランテル市民たちは何が起きるのかと、息を飲んでその光景を凝視している。

 

 敢えて少し時間を置いてどよめきが起き始めた頃、モモンガは飛行(フライ)モモン(パンドラズ・アクター)の目の前に降り立つ。

 漆黒の英雄と十三英雄を超えると噂されるマジックキャスターが対面し、周囲は不思議と静けさに包まれる。

 

 誰もがこの光景から目を離せない。

 何が起きるか全く想像が付かないからだ。

 

 

 先に動きを見せたのはモモン(パンドラズ・アクター)だった。

 

「我が師よ。いえ、我が義父。ようこそエ・ランテルにお越し下さいました。」

 

「ああ、息災だったかモモン。」

 

 モモンガとモモンは再開を喜び抱擁を交わす。

 それを見たエ・ランテル市民はまさかの関係性に驚愕する。

 

「ナーベ、いやナーベラルも、モモンをよくサポートしてくれた。」

 

「はっ!御身の望むままを果たしたに過ぎません。」

 

 ここでナーベ(ナーベラル)をモモンの従者から、モモンガの命によって行動を共にしていた仲間という関係性に作り変える。

 これ以降は自分の命で動いていても怪しむ事はなくなるはずだとモモンガは思う。

 

「折角の凱旋だ、モモン、ナーベラル。お前たちも共に乗っていくといい。キミも乗っていくかね?ハムスケ君。」

 

 エ・ランテルの英雄『漆黒』のモモンと十三英雄を超えるマジックキャスターのモモンガは神輿に乗って大通りを共に進んでいく。

 驚愕から立ち直ってきた市民達は次第に理解していく。

 

 

 『漆黒』の英雄モモンの師であるモモンガならば、十三英雄を超えるというのも事実だと。

 それも無理はない。市民からすれば英雄譚(ものがたり)の中の英雄よりも、現在も英雄譚を魅せ続けてくれる『漆黒』の方が輝かしく見えるのは仕方ないのだ。

 

 そして高潔で誠実で慈悲深い『漆黒』の師であれば、戦わずして(指揮官を攫って)勝利したのも事実だと。

 血を流さずに、死者も出さずに勝利を収めたのも事実だと。

 

 

 そんなことは並みの英雄では出来ない。

 『漆黒』と共に進む英雄の中の英雄、偉大なるマジックキャスター『モモンガ』。

 

 

 次第に群衆の中から歓声が上がり始める。自分達は奇跡を見ているのだと。

 『漆黒の英雄モモン様、万歳!!』『モモンガ大公様、万歳!!』と。

 

 自分達の未来は必ず明るくなると誰もが信じた。

 そして誰が言っただろうか

 

 

 『無血大公様、万歳』と――――

 

 

 

 『無血大公』と『漆黒の英雄』を祝う声は凱旋パレードが終わるまでずっと続いた。

 

 

 

●現在の領土

 

(

【挿絵表示】

)

 

青:モモンガ大公領

緑:バハルス帝国

赤:リ・エスティーゼ王国

 

地図作ってて分かったけど、モモンガ領広すぎ。

2/3は人類住めないけど……

 

 

●小話1:ジルと爺

 

「まさか、あの『漆黒』とモモンガが知己だったとはな。

 そういうことは早めに言ってほしいものだ。

 彼はいつも驚く事ばかりしてくれる。」

 

 モモンガの宮殿で初めて会ったときも、モモンガが登城したときも、戦争で見せた作戦も、そして今回も。

 

「ジルもサプライズは好きではありませんか。」

 

「俺は自分の流れに持ち込む為に演出しているだけだ。

 ――――爺、何故そんな事をしているのだ?」

 

 フールーダは飛行(フライ)で浮かんで、自身が時計の針になったかのように頭を中点として回っている。

 しかも一分で一回転というオマケつきで。

 

「体内時間のコントロールをする訓練ですぞ、ジル。

 マジックキャスターたるもの、正確な1秒が戦況を変えると大師匠が仰られましたので。」

 

「そうか…………」

 

 モモンガという強大なマジックキャスターが現れてもジルクニフとフールーダの関係は変らなかった。

 いや、フールーダはジルクニフを切り捨てようとしたのだが、モモンガが「自分のやるべき事を平気で投げ出すようなヤツに教える事はない」と説教してフールーダが心を入れ替えたのだ。

 結局魔法の為なのだから変わってないのかもしれないが、お陰で2人の関係は続いたままだった。

 

(まぁ、以前より一層変なヤツになったのは間違いないが……)

 

 くるくると時計回りに回るフールーダを見つつ心の中で溜息をつく。

 

「そうそう、ジルは演出と仰いましたが、大師匠も演出という線は考えられませぬか?」

 

「転移で登城した事に関しては、戦争で用いる作戦の前振りだということは理解できた。それを敢えて言わなかった事も。

 だが『漆黒』の件は予め説明してもいいはずだし、初見でアンデッドの件は見当もつかんぞ?

 『漆黒』については言っても言わなくても特に変わらないといわれればそれまでだが……」

 

 ジルクニフにはどうしてもアンデッドの姿が頭を過ぎる。

 あのタイミングで何故?と。

 

「ジルは随分と外見を気にするようになりましたな。」

 

「何を言う爺。私は才覚があれば容姿など――――」

 

「それにしては大師匠の『外見』を随分と気にされておりますな。あの『漆黒』の関係者だというのに。」

 

「む…………」

 

 人格者である『漆黒』の師という視点から見れば、悪意のある人物とは到底思えない。

 ジルクニフは自分が視野狭窄に陥っている事を改めて実感する。

 

「だが、そうであれば何故あのタイミングであの姿を見せたのか……

 モモンガ程の才覚があればデメリットしかない事は明白のはず……」

 

 ジルクニフは考える、自分にとってデメリットにしか見えないと

 

「いや、違うな。私にはデメリットである必要があった。

 ――――!!

 そういうことか!」

 

 ジルクニフはモモンガの策に気が付き不敵な笑みを浮かべる。

 

「爺よ。私が優秀で人畜無害な人物を招聘した場合、如何扱うと思う?」

 

「その者の能力に適した席を用意し、後は結果を重視する様になるでしょうな。

 勿論、その者に注視しない訳ではありませんが任せておいても結果を出すのならば、必然として他の改善に精を出すことでしょう」

 

「では、優秀だが癖のあり過ぎる人物は?」

 

「それは私のことですかな?ジル」

 

「だったら少しは大人しくしてほしい物だが。

 それもあるが、この場合は爺は当てはまらんな。先代からの実績に先に目が行く。」

 

 二人の会話はまるで台本でもあるかのように進んでいく。

 

「何をするか分からないのであれば、今のように最大限の監視、注目をするでしょうな。」

 

「アンデッドも『漆黒』も『無血勝利』も自分に目を向けさせるためなら納得がいく。

 モモンガは今やこの周辺国家で最も注目されている人物となった。

 『時の人』というヤツだな。この状態でモモンガは自分の実験成果を披露する。

 これ以上の発表会はないだろう。爺とて、自分が素晴らしいと思う研究が完成したら大々的に発表したいとは思うだろう?」

 

「なるほど、大師匠はサプライズがお好きな方かと思っておりましたが……」

 

(そうそう、俺はそこまで考えてないよ)

 

「あのモモンガの事だ、そんな単純ではないだろう。爺は何故そう思うのだ?」

 

(いや、あれはミスだったんだよ!)

 

「数百年も生きると趣味は必要ですぞ。」

 

「なるほどな。余は爺の10分の1も生きては居らぬからな、そういうものかもしれん。」

 

(趣味かぁ……。俺は数十年後何をしてるのかなぁ……)

 

「ほほ。いい顔になってきましたな、ジル」

 

「あぁ、爺が自分と同等、もしくは以上の存在を欲した気持ちが分かる。

 自分を超える知者が近くに居ると感じ入るものがあるな。これがライバル心というものか。」

 

(えぇぇえ――――!!!何でライバル!?!?)

 

「『鮮血帝』と『無血公』。先手は大師匠に取られてしまいましたな。

 それに大師匠は自分より優れた才を持つ者を重用する事が出来る、王者の資質も持ち合わせて居られますからの。」

 

「あの場にいた7名は、やはりとんでもない強者なのか?」

 

「全ては知りませんが、大師匠と同じくらい『武』や『知』に優れた方々だと。

 ジルは私以外に自分を超えるものを重用する事が出来ますかの?」

 

(ホント、アルベド達には助かってるよ。自分が出来ない事くらいわかってるからね。)

 

「爺は生まれる前から重用されていたからな。

 余の器が試されるということか。

 いいではないか、余はバハルス皇帝ジルクニフ。周辺国家を統一するものだ。それくらいの事やってみせようではないか」

 

(おぉ……やっぱりカッコイイなジルクニフ)

 

 モモンガはジルクニフの王者の風格を学ぼうと時折、ジルクニフの行動を覗き見ている。

 

(でもライバルはちょっと荷が重いな……デミウルゴス達のお陰だし……)

 

 時折こうやってプレッシャーをかけてくるのは、ジルクニフの作戦なんじゃないかとモモンガは思ってくる。

 

 

(もしかして、覗いてるの気がついてるかな?)

 

 

 ジルクニフは気付いていないが、知らず知らずにモモンガにプレッシャーを与えることには成功していたのだった。

 

 




モモンとモモンガの間にはモモンラという人物がいるとかいないとか……

画像は初投稿なのでサイズ感が分かりません。
大きくはできませんが、小さくならできるので仰ってつかぁさい

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