ドラマログテキストマイニング

テレビ番組(ドラマ)の字幕情報を対象に、テキストマイニングの研究をしておりますので、解析結果の公開をメインに関連グッズを交えた構成で記事にしてます。また、解析結果の信憑性が確認できるよう、解析用ソースも部分引用し掲載してあります。

おしん 一挙再放送 第35週・太平洋戦争編 田中裕子、並樹史朗… ドラマの原作・キャスト・音楽など…

おしん 一挙再放送▽第35週・太平洋戦争編』のテキストマイニング結果(キーワード出現数ベスト20&ワードクラウド

  1. 戦争
  2. 初子
  3. 竜三
  4. 山形
  5. 希望
  6. 工場
  7. 仕事
  8. 気持
  9. ホント
  10. 自分
  11. 商売
  12. お前
  13. 大事
  14. 大丈夫
  15. 反対
  16. 一緒
  17. 勝手
  18. 心配
  19. 下宿
  20. 魚屋

f:id:dramalog:20191201213823p:plain

おしん 一挙再放送▽第35週・太平洋戦争編』のEPG情報(出典)&解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)

 

解析用ソースを読めば、番組内容の簡易チェックくらいはできるかもしれませんが…、やはり番組の面白さは映像や音声がなければ味わえません。ためしに、人気のVOD(ビデオオンデマンド)サービスで、見逃し番組を探してみてはいかがでしょうか?

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おしん 一挙再放送▽第35週・太平洋戦争編[字]

主人公おしんの明治から昭和に至る激動の生涯を描き、国内のみならず世界各地で大きな感動を呼んだ1983年度連続テレビ小説。全297回を1年にわたりアンコール放送。

詳細情報
番組内容
昭和14年、戦争によって運命を変えられていく人々のなかで、おしん(田中裕子)や竜三(並木史朗)も例外ではなかった。竜三は、軍の御用商人になったことから新しい事業のきっかけをつかみ、魚の練(ね)り製品の工場をスタートさせた。昭和15年の新春を家族そろって無事に迎えられた田倉家は、竜三の仕事が軌道に乗っていることもあって、結婚以来、初めての物心ともに恵まれた元日を迎えていた。
出演者
【出演】田中裕子,並樹史朗,【語り】奈良岡朋子
原作・脚本
【作】橋田壽賀子
音楽
【音楽】坂田晃一

 


♬~
(テーマ音楽)

♬~

昭和14年

戦争の影は 国民生活にも
重く のしかかり始めていた。

社会主義から転向した浩太が
過去と決別するために結婚し

網元の ひさは
石油の統制を見越して

家業に見切りをつけ
伊勢を去った。

戦争によって 運命を
変えられていく人々の中で

おしんや竜三も
決して 例外ではなかった。

ただ 竜三の場合は
少し 様子が違っていた。

(おしん)初ちゃん
ちょっと 氷 出して。

(初子)はい!

♬~

雄さん!

(雄)ただいま!
あ~!

何よ! 冬休みは 読みたい本が
いっぱい あるから

帰れないなんて
手紙 よこしといて!

そうだよ。 時間のある時に
できるだけ 読んどかないと

いつ 読めなくなるか
分からないからね。

学生だからって
いつまで 遊ばせてもらえるか…。

何 言ってるの!
学生が勉強できなくなったら

日本も おしまいじゃないか!
(竜三)雄!

父さん!
ハハハハハ! 帰ってきたな!

しかたないよ 父さんに
帰ってこいって言われたら。

えっ?
何の工場だか知らないけど

新しい仕事 始める事に
なったから

開所式に出ろって
手紙 もらってさ。

まあ そんな事で わざわざ?

しかたないよ 高い下宿代や学費
出してもらってる

父さんの命令だからね。
そんな口実 作ってね

父さん ホントは
雄の顔 見たいだけなんだよ。

当たり前だ。 田倉家の長男が
正月に帰ってこんって法は なか。

元旦は 家族そろって
祝いの膳に着くもんたい。

じゃあ 工場の開所式なんて 嘘?
いや~ 嘘じゃなか。

明日 開所式をしてから
新年早々 製品を作るんだ。

何を作るの?
魚の練り製品たい。

ちゃんと
手紙にも書いといたろうが…。

だから それは 何なの?

そがん事も知らんとか
魚屋の伜のくせに!

カマボコとか サツマ揚げとか。
何だ うちも カマボコ屋か!

ハハハハハハ!
こいつ! 全く!

(仁)やっぱり 雄兄ちゃんだよ!
仁!

(希望)お帰りなさい!
(雄)希望 元気か? うん!

ねえ 兄ちゃん
今度は いつまで いるの?

(雄)来月の6日ぐらいまでかな。
(希望)ホント?

さあ 初ちゃんも ゆっくりしよう。
はい!

よいしょ!

下宿の食事だって ひどいんだろ?
それは しかたないよ。

みんなが辛抱しなきゃ
ならない時なんだから。

京都へ帰る時に 下宿のおばさんに
天ぷら油 持ってってやれ。

そろそろ 手に入らんように
なってるだろう。

いいよ。 うちだって 家族は多いし
仁や希望は 食べ盛りだし

いくら あったって
足りないじゃないか。

うちの事は 心配するな。

そうよ。 工場には
たくさん あるんだから。

けど それは 軍隊に入れる物を
作るから 手に入る訳だろ?

それを 勝手な事しちゃ…。
いや 少しぐらいは 自由になるさ。

軍に食料品を入れる仕事を
しとる限りは

どがん時が来たって お前たちに
不自由はさせん。 安心しとれ!

軍隊っていうのは
オールマイティーだからな。

ああ。 今頃 新しい工場を
建てられるのだって

軍需物資に準ずる物を
製造するからだ。

一般の平和産業は
軍需工場に 人手をとられたり

原料を規制されたりで 倒産するか
大きな企業に吸収されるかして

まあ なかなか大変なんだ。

しかし 軍を相手の仕事をしとれば
そがん憂き目を見る事だってない。

それで 立派に
お国のお役にも立ってるんだ。

言う事ないじゃないか。

父さんに そんな商才があるとは
思わなかったな。

ハハハ! オイにも
やっと ツキが回ってきたんだ。

こがん時を待っとったたいね。

カマボコ工場なんていうのは
まだまだ 序の口だ。

これから ほかの
いろんな事業にも 精を出して

やっていくつもりたい。
父さん…。

どうせ長引く戦争なら
戦争に泣かされるよりは

戦争を利用するぐらいの根性が
なければ 生きてはいけんたい。

そんな! それじゃ 戦争に
便乗する事になるじゃないか!

(竜三)軍には なくてはならん
商売なんだよ。

誰かが やらなきゃ
ならん事なんだ。

それを 父さんが しているだけだ。

軍に必要な仕事となれば
戦場で戦っている

兵隊と同じぐらいに
大事な事をしている訳だ。

ちゃんと お国のためにも
なってる訳だ。 そうだろ?

父さんには
父さんのお考えがあって…。

もう 母さんが
何 言ったって駄目。

(竜三)女子は
黙って ついてくればよかよ。

母さん もう 早く
戦争が終わってほしいわよ。

また そがん軽はずみな事を言う!
はいはい。

(竜三)全く 困ったもんたい!

何しようか? めんこしよう!
うん!

あ~ 御苦労さん。
開所式 無事に済んだ?

ああ 盛大だったよ。
父さんは 連隊の人たちを

料亭へ招待するとかで
まだ 帰れないって。

そうか。 じゃあ また遅くなるな。
ああ。

母さんは
まだ 店 やっていくつもりなの?

えっ? 大して 利益ないんだから
いい加減にやめて

楽すればいいのにって
言ってたよ 父さん。

お金もうけのためじゃないのよ。

うちをね 今まで ひいきに
して下さった お客様のために

一日でも商売やってたいんだ。
私たちが

こうやって 飢え死にしないで
やってこられたんだって

そういうお客様のおかげだもんな。
軍に 魚 入れてる限りは

うちで売る魚ぐらいは
どうにかなるだろうから。

そうだね。 軍隊相手で
もうけてるばっかりじゃなく

少しは
町の人たちの役にも立たなきゃ。

そう。 そういう気持ちをね
父さん 今 忘れちゃってるのよ。

まあ どこまで 突っ走るつもりか
知らないけどね

母さんの言う事なんか
耳に入りゃしないんだから。

だけどさ
しょんぼりされてるよりは

ましだと思って…。

そうだよ。
父さん 生き生きしちゃって

若返ったみたいだもんな。

自信の出てきた男の顔って
やっぱり いいよ。 ハハハ!

そうだ。 父さんも 自分の力で

仕事できるように
なったんだもんね。

そういえば この魚屋だって

最初は 母さんが
始めたんだもんな。 うん。

でも よかったじゃないか
父さんも。

そう。 まあ 母さんね

軍隊に入り込むなんて
好きじゃないけど

ホントは ほっとしてるんだ。
父さんが

やる気さえ なってくれたら
もう どうだっていい。

もう 生き生きしてる顔
見られたら それだけでね。

うまくいったら うまくいってるで
また 苦労だね 母さんも。

うん。 雄は どうなのよ?
あんた 陸士やめて

高等学校 行った事
後悔してんの?

いいや。 もし 陸士へ行ってたら

今のような自由な学生生活は
知らずに終わっただろうと思う。

いい友達も たくさん できた。
いい先生にも巡り合えた。

本を読む面白さを知る事もできた。

今 1冊でも
余計に 本を読んでおきたい。

時間が いくらあっても
足りないよ。

そう…。

父さんの期待を裏切って
父さんには 申し訳ないけど

母さんには 感謝してるよ。
大学 出るまでは

あと まだ5年も 学生生活を
させてもらえるなんて

ホントに ありがたいと思ってる。

でも 雄
雄が大学卒業するまでには

この戦争も
いくらなんだって 終わるよ。

いつか きっと
陸士なんて やめて

大学で 本 読んでて
よかったなって時が来るから。

もう 思いっきり
大学生活 楽しみなさい!

ちょっと
これ やってしまわないと。

田倉家は 昭和15年の新春を
家族そろって 無事に迎えた。

…が 中国大陸では
蒋介石の戦意が衰えず

日本は 苦戦を強いられ
泥沼の様相を呈していた。

そして また 1人 戦争によって

運命を変えられようとしている
少女がいた。

(戸の開閉音)

(雄)ただいま!
お帰りなさい!

父さんや母さんは?
連隊長さんの所へ

お年始に行かれました。
そう。

あっ。 神社へ お参りに行ったら
これ 売ってた。 かわいいだろ?

ホント!
お年玉。 私に?

うれしい!

いい思い出になります。
山形へ帰っても 大事にします。

初ちゃん…。

私 3月に
高等小学校 卒業したら

山形の家へ
帰らなきゃならなくなって…。

どうして? 初ちゃんは
田倉の娘になったんじゃないか!

でも 田舎の母ちゃんが
帰ってきてくれって…。

そんなバカな!
父さんや母さんが承知したのか?

でも よかった…。

私 もう 雄さんには
会えないと思ってたの。

この冬休みは 京都で過ごすって
聞いてたし

春休みになる前に

私は 山形へ帰る事に
なるだろうから 諦めてたの。

どうして 今まで黙ってたんだ?

雄さんが 京都へお帰りになる時に
ご挨拶するつもりだったんです。

その方が つらくないもの…。
初ちゃん!

僕は いつまでも このうちに
いてくれって言ったはずだぞ!

絶対 山形へは帰さないからな。
初ちゃんは このうちにいるんだ。

絶対に いるんだぞ!

(雄)母さんだって
約束したでしょ!

初ちゃんは 一人前になるまで
うちで 面倒 見るって!

(竜三)無事に
高等小学校を出れば

一応 うちで してやれる事は
したんだから…。

今 山形へ帰したら
初ちゃんは どうなるか…。

みすみす 不幸になると
分かってて…。

農村だって 昔とは
事情が違ってきているんだよ。

今は もう 身売りだ 奉公だって
時代じゃない。

初子を帰してくれって
言ってくるには

それだけの事情があるんだ。
どんな事情があったって

約束は 約束じゃないですか!
初子の所だって苦しいのさ。

米は作らなきゃならないが
兵隊にとられたりで 男手はない。

老人や女こどもが 田んぼや畑を
やらなきゃならないんだからね。

初子を当てにするのだって
無理は ないのさ。

戦争だもの。 私たちの
勝手ばかりは 言えないのよ。

じゃあ 山形へ帰ったら
初ちゃんは

戦争が終わるまで ここへは
戻ってこられないじゃないか!

(竜三)しかたがないだろう。
それも お国のためなんだから。

ここにいたって お国のために
なる事は いくらだってあるだろ。

なんとかして 初ちゃんを
帰さないで済むようには

できないの?
雄…。

母さん 頼むから 初ちゃんを
山形へは帰さないでほしい!

初ちゃんには いつまでも
このうちに いてほしいんだ!

♬~

雄は 初子が好きなんだ。

おしんは その時 初めて
雄の気持ちに 気が付いていた。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

昭和15年の新春

おしんを狼狽させるような
出来事があった。


子どもだとばかり思っていた
雄が

いつの間にか 人を愛する年に
なっていたのである。

(竜三)何だ まだ起きとったとか?
風邪ひくぞ。

(おしん)大丈夫。

初ちゃんの事ね
どうしようかと思って…。

ああ…。 理由が理由だ。

山形へ帰さなきゃ
しょうがないだろう。

田舎は田舎で 大変なんですね。

年寄りや女たちが
みんなで 田んぼや畑して…。

まあ ちょうどいい
機会なんだよ。

初子は これ以上
うちに置いとかん方がよか。

でも 何だか
初ちゃん かわいそうでね…。

あの子だって うちにいたいのよ。

お前は 母親のくせして
のんきなもんたい!

このまま
初子を うちに置いといたら

どがん事になっかも
分からんとか?

雄は 初子に惚れとう。 初子だって
同じような気持ちじゃなかとか。

あんたも
気が付いていらっしゃいました?

もう 私も びっくりしちゃって…。

まあね 雄も 数えで 18です。

びっくりする方が
おかしいんでしょうけどね。

それが分かっとるんなら
やっかいな事にならんうちに

初子を 山形へ帰した方がよか。

どうして?
雄が 気に入ってるんだったら

初ちゃん
うちに置いてやったって…。

何 バカな事 言ってるんだ!
雄は 田倉家の長男だ。

どがん
雄が 初子に惚れとったって

初子を 嫁にもらう訳には
いかんとやけんね。 あんた。

どがん 娘のつもりで
面倒 見とったって

所詮は 奉公人たい!

あんた よくも そんな事!
世間の常識ってもんなんだ!

初子の どこが
気に入らないんですよ?

まさか お前…。

初ちゃんだったら
長男の嫁として

田倉のうちを ちゃんと
切り回してくれると思うわ。

冗談じゃなか!

そりゃ 初子は よくできた娘たい。

しかし なんも
わざわざ 小作の娘なんか!

私だって
山形の貧乏小作の娘です。

お前と初子とは 違うさ!
どこが違うんですか?

オイは 三男坊だった。
自分勝手な事ができる身分だ。

しかし 雄は 長男たい。

このうちの後を継がなきゃ
いけないんだから。

そんな ご大層な
家柄じゃないでしょ。

お前が どがん へ理屈 並べたって
私は反対だ!

初子は 山形へ帰す!

親って 勝手ね!

自分の息子は 親の言いなりに
しようっていうんだから…。

私たちだって 親に反対されて
つらい思いして

それでも 結婚して
ここまで来たんじゃありませんか。

なにも 今すぐ 結婚するの
どうのって話じゃないんですよ。

成人したら それこそ
ケロッと ほかの人 選んで

2人とも
そうなるかもしれません。

そうなったら
そうなったで いいじゃないの。

ただ 今は 2人の気持ちを
大事にしてやりたいのよ。

そがんふうに 物分かりの
いい顔ばっかりしとったら

ろくな事には ならんからな!
私 雄も初子も 信じてます。

黙って見守っていてやりましょう。

♬~

重いけど それ 持っていってね。
(雄)何 これ?

天ぷら油とね お米と
お砂糖も 少し入ってるから。

いいよ。 あんた 男だから
分かんないけどね

下宿の おばさんだって
大変なんだから…。

分かった。 担いでいくよ。
よっ! 重いな!

あんた 男でしょ! それぐらい
持てないで どうすんの!

母さん あの事 頼んだよ。
きっとだよ。

初ちゃん 母さんの事…。
(初子)はい!

(仁)僕 駅まで送っていくよ!
(希望)僕も!

じゃあ また 手紙 書くから。
あ~ はい。

頭 気を付けなさい。 上。

じゃあね!

初ちゃん?

初ちゃん。

(戸が開く音)

初ちゃん。

どうしたの? 初ちゃん。

初ちゃん?
母さん 私…。

初ちゃん…。

そうか。

今夜 お赤飯 炊いて
お祝いしなきゃ!

初ちゃん… それはね

とっても おめでたい事なの。

初ちゃん
立派な大人になったんだ。

座って…。 座ってごらん。

おしんは ふと 自分の歩いてきた
道を振り返りながら

初子は どんな人生を
生きるのだろうかと思うと

ふびんで
いとおしくてならなかった。

♬~

禎ちゃん 御飯だぞ!

あっ 今夜は お赤飯だよ!
おめでたい日なの? 今日は。

そう! 今日はね
とっても おめでたい日!

何の日かね?

おしん…。

♬~

ただいま 帰りました。
お帰り!

田舎の母ちゃんからですか?

手 洗って おやつ おあがり。
やっぱり 帰ってこいって?

あと1週間もしたら 卒業式です。
それが終わったら 私

帰して頂きます。
初ちゃん…。

母さん。 父さん 私の事
嫌いなんです。 初ちゃん!

ここ みつきくらい あんまり
口きいては下さらないし…。

父さんはね 今 お忙しいの。
カマボコ工場の方だって 大変でしょ。

それに 私たちだって 今に
軍需工場へ動員されるっていうし。

それなら
いっそ 山形へ帰った方が

父さんや母さんの やっかい者にも
ならなくて済むし…。

そりゃね
もし 初ちゃんが ここにいて

つらいって言うんだったら
母さん 止められないけど…。

私は いつまでも
母さんのそばに いたい。 でも…。

だったら 心配しなさんな!
母さん なんとでもするから!

(仁 希望)ただいま!

母さん もう お店の表に
いっぱい並んでるよ お客さん。

どうして あんなに並ぶの?
だんだん 物が不足してきたから

早く買いたいんだよ。
だから どうしてなのさ?

禎 頼むね。
そんな事も分かんないのかよ!

申し訳ありません。 あのね まだ
荷が入っておりませんのでね

ちょっと 今から お待ち頂いても。
分かってる 分かってる!

いやいや あの~
1人でも お待ち頂くと

次から次へ 皆さん 早く
いらっしゃるようになります。

それでは 皆さん お忙しいのに
ご迷惑かける事になりますんで

店が開いてから
お越し頂きたいんです。

あんた いつも そう言うけどな

あんたの言うとおりしとったら
買いそびれてしまうわ。

この前も ひどい目に
遭うたよって…。
そやそや。

そやけど 何で こんなに 魚が
のうなってしもうたんやろな?

石油がないよって
漁に出る船が動けんのやがな。

若い衆は 兵隊にとられとるし
漁師もおらんし…。

なあ お内儀さん 1人に なんぼて
売る魚 決めといた方がええよ。

早い者勝ちで 好きなだけ
買い占められたら たまらんわ!

配給やあるまいし なんぼ売ろうと
買おうと 勝手やないか!

ぎょうさん 欲しいんやったら
はよ来て 並んだらええのや。

よう そんな事! 少ないもんを
みんな 分け合うて 辛抱せな

この戦争には 勝たれへんのやで!
そんな きれい事 言うとったら

今に 飢え死にせんならんわ!
そやそや。

あんた 自分さえよかったら
それでええ言うのんかいな?

非国民!
何やて!?

やめて下さい。 私たちは 皆さんに
ご不自由かけまいとして

ない魚を 無理に
商売させてもらってるんです。

一人でも多くの皆さんに 魚を
分けれるように致しますから。

うまい事 言って! 軍に
出はいりしとったら… なあ!

ほかの魚屋は 売る品物が
のうなって 店 閉めた言うのに

この店では
商売できるんやからな!

まっ なんぼでも もうかるやろし
結構なもんやな!

よいしょ。

あ~ やれやれ
もう 戦争だ まるで。

(初子)あっという間に
売り切れですね。

おかしな世の中になったわね。

(初子)本当に
物が無くなり始めたんですね。

(戸の開閉音)

おしん
今日限り 魚屋は やめるぞ!

何か あったんですか?

「軍へ回す魚を横流しして
もうけてるやつがいる」って

連隊へ投書したやつが いるんだ!

横流しって…。 魚は
まだ 統制品じゃありませんよ。

それに 闇値みたいに
高い値段で売った覚えもないし…。

人に 後ろ指さされるような
商売は しちゃいません。

そがん事は 連隊だって
分かってくれとう! しかし

軍に出入りしてるから この店へ
回す魚だって 手に入るんだ!

それ言われたら 手も足も出ん!
そがん事まで言われて

こんな もうからん店やってる
理由が どこにあるんだ!?

いや~ でも
お客様は 喜んで下さってます。

人の事てん 考えてる時ではなか!
自分の尻に 火が付いてるんだ!

もう 魚は回さん!
店 閉めるんだ!

とうとう 来る時が来たと
おしんは思った。

夫婦の再出発に始めた
魚屋である。

おしんには
特別の思いがある店であった。

それを やめなければならない
寂しさと一緒に

戦争への不安が おしんの胸を
暗く押し潰していた。

それは やがて
厳しい配給制度を迎える

前触れであった。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(竜三)まだ こんな店に
未練があるのか?

(おしん)この店は
あんたと2人で始めて

ここまで やってきたんです。

続けられるもんだったら
なんとかして…。

しかし 「連隊ヘ入れる魚を
横流ししとる」とか

「軍の権利を利用して
商売をしとる」とか言われたら

何のために苦労しとるのか
分かりゃせんたいね。

そがん思いまでして

なんも あくせく
店なんかする事は なかよ。

でも 今まで ごひいき頂いた
お客様のためにだって…。

お前は 知らんだろうがな
魚がない訳じゃないんだ。

店を閉めとるような所だって
裏では ちゃんと商売しとるんだ。

金さえ出せば 手に入るんだから。

じゃあ お金 持ってる人だけが
買いだめしたり

ぜいたくできるって事ですか?
しかたがないさ。

物が少なくなってくれば
そういう事にだってなるんだ。

これだけ 状況が切迫してくると

配給制度にでもしないと
社会の秩序は 保てやせんたいね。

配給制度っていうのは
1人いくらって 買える物を

決められてしまうんでしょ?
そうだ。

それで 天井知らずの物の値段にも
歯止めが かけられる。

我先にと争って
物を買うような事もできなくなる。

みんなで
同じように 乏しい物を

みんなで
分け合おうって気にもなる。

それで 初めて
みんなで 力を合わせて

この戦争にも勝てるって訳だ。

そんなふうになったら
つまらないわね。

決まった物を 決められた値段で
売るなんて

商売と言えやしないわ。
ああ。 ただの配給所だ。

私…

店 やめるわ。

ただ 配給するだけの店
やるんだったら

誰にだって できる。

さっぱり 諦めた。

うん。 それで よか。

(希望)ホントに
田舎へ帰っちゃうの? 初ちゃん。

(仁)ずっと うちにいるって
言ったじゃないかよ。

(初子)卒業式が終わったら
帰る事になったの。

(仁)どうして?

初ちゃん 卒業式に着ていく洋服
仕立て上がってきたわよ!

母さん。 初ちゃん
山形へ帰る支度してるよ。

(初子)今から 少しずつ
整理しておかないと…。

初ちゃん?

もし 大阪へ売られていってたら

今頃 どうなっていたか
分からないのに

父さんや母さんのおかげで

高等小学校まで
行かせてもらって…。

娘と同じように…。

母さん 私 ホントに幸せだった。

まだ 帰るって
決まった訳じゃないじゃないの。

いいんです もう…。

今日 汽車の切符
買いに行ってきます。

卒業式の明くる日に
乗れるように…。


おしんには 何も言えなかった。

竜三の反対を押し切っても
初子を うちへ置く事はできる。

…が 竜三の気持ちを察している
初子には

かえって つらいだろうと
思ったのである。

そして とうとう 初子の
高等小学校卒業の日が来た。

あ~ ホントに よく似合う。

何だか
急に 大人になったみたいだ…。

申し訳ありません 洋服生地だって
なかなか 手に入らないのに…。

一生に一度の晴れの日だもの。

どうしても 新しい洋服
お祝いに 贈ってやりたかったの。

ありがとうございました。

じゃあ 行っといで。

初ちゃん ホントに
明日 山形へ帰っちゃうの?

ねえ お兄ちゃんが
帰ってくるまで待ってたら?

びっくりするよ お兄ちゃん。
とっても きれいだもん 初ちゃん。

そうだ。 もうすぐ
帰ってくるんでしょ?

お兄ちゃん! 春休みだもんね!

じゃあ 行ってまいります。

(仁)僕も一緒に行く!
(希望)僕も!

(戸が開く音)
(希望 仁)お帰んなさい!

ねえ 父さん 見て!
初ちゃん きれいだろ?

ああ… こりゃ 見違えたな!

うちへ来た時は
まだ ホントの子どもだったのに…。

うん。
(希望 仁)行ってまいります!

あ~ 行っといで! あっ おしん
ちょっと 話したい事がある。

また 一つ 工場を
やる事になったよ。

軍の衣料の縫製だ。

軍服の下に着る 襦袢とか袴下とか
簡単なものばっかりだが

相当な数量を
製品にする事になるな。

今度は 仕立屋ですか?

ああ。 やれって言われたら
何だってやらなきゃ! あんた…。

いや~ 連隊に 大勢 入ってる
業者の中で

オイに 白羽の矢が立ったんだよ。
それだけ 信用されてるって事だ。

今まで 真面目にやってきたかいが
あったってもんたいね。

でも 魚とか カマボコとか
工場の方も大変でしょ?

おしん
人間には 運ってものがある。

伸びる時には チャンスの方が 自然に
転がり込んでくるものなんだよ。

それを逃したら 人間
成功なんか できやしないさ!

大丈夫なんですか?

ああ!
軍の衣料の縫製をするんだ。

生地だって入ってくるし 人手に
不足する事だってないだろ。

どがん時が来たって
潰れる心配は ないんだからね。

それで 頼みがあるんだよ。

おしんに その工場を
見てほしいんだ。 私に?

いや~ 大した事じゃなか。

製品の縫製は
ほとんど 女子工員たちがする。

だから その工場の監督と世話と
製品の縫製の検査の責任と…。

おしんのほかに
任せられる人間がいないんだ。

まっ おしん
工場を見るようになったら

うちまでは 手が回らんだろう。
だったら 初子を うちに置いて…。

ほかの者に頼むといったって
役に立つような女子は みんな

働きに出てしもうとっし
おいそれとは 見つからんだろう。

初子なら 禎も懐いてるし…。
背に腹は代えられんたい。

雄と初子の事は お前が
気を付けてくれたらよかよ。

おしん
オイたちは これからだ!

これから 夫婦で事業を大きくして
雄が大学出る頃には

しっかりした会社にして
渡してやらんとな! ハハハハハ!

待ってくれよ~。

(戸の開閉音)

ただいま 帰りました。
お帰り!

今日 無事 卒業しました。 長い間
本当に ありがとうございました。

これ 卒業証書です。

おめでとう。 よく頑張ったね。

記念写真 撮ったの?
はい。

出来上がったら
山形へ送ってさしあげなさい。

一番 最初に お母さんに
お見せしなきゃ。 ねっ。

はい…。 すぐ 着替えて
手伝いますから。

あ~ それよりね 駅 行って

山形行きの切符
払い戻してもらっておいで。

いろいろ 事情が変わって
初ちゃんには どうしても

うちに いてもらわなきゃ
ならなくなったのよ。

こっちの勝手でね

山形のお母さんには
申し訳ないけども

後で お母さん
ちゃんと お詫びしとくから。

母さん?

父さん 何でも
1人で決めてしまって…。

母さん
もう 何が何だか分かりゃしない。

でも 母さん… 初ちゃんが
うちに いてくれるんだったら

もう 母さんは 言う事ないよ。

じゃあ 父さんも いいって
言ってくれたんですか?

父さんが
初ちゃんに いてほしいって!

母さん!

また 初ちゃん
頼りにする事になるけど

よろしく お願いするよ!

禎ちゃん! 禎ちゃん!

よかった! よかった!

♬~

「そういう訳で 初ちゃんは また

うちには なくてはならない人に
なりました。

やっぱり うちには
縁のある子だったんでしょう。

ただ 父さんは どこまで
事業を広げるつもりなのか

母さんには 不安です。

でも 今は 何を言っても

母さんの言う事など
通らなくなってしまいました。

黙って ついていくよりほか
ないんでしょうね。

春休みには 帰ってきますか?
みんなで待っています」。

よいしょ! よいしょ!
大丈夫か?

足元 気を付けて。
はいよ。

大丈夫か?

(雄)母さん! うん? 雄!?
どうしたの?

あら 引っ越しの事
手紙に書いといたでしょ。

引っ越し? 知らないな。

あ~ じゃあ
手紙 間に合わなかったんだわ。

でも あんた よかったわね 早く
帰ってきて。 もうちょっとで

出かけちゃうとこよ。
引っ越すって 何かあったの?

父さんがね 新しい家
見つけてきて 否も応もないの。

へえ~ かなり強引だね。
うん。 魚屋 やめるんだったら

もう このうちにいる理由は
ないだろうって。

そう言われたら
嫌だとも言えないでしょ。

そうか。
このうちとも お別れなのか…。

(竜三)お~い!
もう トラック 出してもいいのか?

ハハハ! 帰ってきたのか?
ちょうどよかった!

今度のうちは 広いぞ! ゆっくり
春休みを過ごしていったらよか!

ほら! 早く片づけちまわないと
日が暮れちまうぞ! はいはい。

なるほど。 父さん
もう一回り たくましくなったよ。

そうでしょ!

(竜三)おしん
何 グズグズしてるんだ!?
はいはい!

ここだ!
へえ~。

工場は ここだし 連隊には 近いし
言う事は なかよ!

お~い 着いたぞ!
(初子)は~い!

ほら どんどん 入れ!

雄さん お帰りなさい!
ただいま!

(仁)お兄ちゃんも帰ってきたのか。
(雄)ああ。

もう 掃除 済んだよ!
部屋が いっぱい あるんだ!

お風呂だって あるんだぞ!
でっかい風呂だぞ!

さあさあ どんどん上がってみろ!

はい。
ありがとう。

まあ~!

お~ すごい!

(竜三)どうだ? 雄!
(雄)驚いたよ!

部屋だって
6つもあるんだからな!

一度は こういう うちに
住まわせてやりたかったんだ!

でも 大丈夫なんですか?
お家賃だって 高いでしょ?

心配は なかよ! オイだって

このぐらいのうち 借りるぐらいの
かい性は あったいね。

だけど この戦争の時に
ぜいたくすぎるんじゃ…。

ハハハ! 俺だって それだけ
お国のために働いてるんだ!

なんも 遠慮する事は なかよ!
ハハハハハ! どうだ? このうちは。

(雄)すごいよ!
父さんは これからだぞ!

どこで どうやって こんなうちへ
入れる事になったのか

おしんは 竜三のしている事が
不安でならなかった。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(仁)パッカパッカ パッカパッカ!
パッカパッカ パッカパッカ!

(おしん)パッカパッカじゃないでしょ
仁!

(仁)パッカパッカ! あっ!
(初子)危ない!

痛え!
バカね。 大丈夫?

仁 早く! もう少しだから
手伝ってよ! 片づけて!

(仁)はい!
あっ これ くるまなきゃ駄目だ。

このごろは うちに いくらぐらい
収入があるのか分からないけど

やっぱり
この家は どう考えたって

分不相応じゃないですか?

(竜三)まだ そがん事ば
言いよっとか!

(雄)無理ないよ。 連隊に
魚 納めるようになっただけでも

今までの魚屋とは
桁の違う商売になったのに

すぐ カマボコの工場 始めて
今度は 衣料品工場だろ?

どれだけの金が かかるか
分からないのに

その上 こんなうちに入ったんじゃ
誰だって 心配するよ。

父さんだって むちゃな事
してる訳じゃないんだ。

事業っていうのはな 大きくなれば
なるほど 金もかかるが

それだけ 利益だって
大きくなるんだよ。

でも いつも うまくいくとは
限らないでしょ。

しかし 軍の仕事をしとる限りは

真面目にやってさえいれば
潰れるなんて事は

ありゃしないんだからね。
そりゃ

日本に 軍隊が無くなってしまえば
どうなるか分からんが

たとえ 今の戦争が終わったって
軍隊が無くなるなんて事は

あるはずないんだから!
はあ…。

(竜三)お前は 黙って
オイに ついてきたらよかよ!

雄! お前が大学出る頃には
父さん

もっと もっと 事業を大きくして
お前に渡してやるからな!

けど 僕だって 学生のうちは
兵役も猶予してもらえるが

卒業したら どうなるか…。
冗談じゃないわよ 雄。

あんた 今度で
やっと 高等学校2年でしょ。

大学卒業するまでには
5年もあるんだもの

そんな長い間 戦争やられて
たまるもんですか! ねえ!

そりゃ そうだ。
早く終わってもらわないと

日本は 自給自足できる国じゃ
ないからな。

そのぐらいは
政府だって 百も承知しとう。

長引かせる道理がなか。
まあ もっとも うちは

戦争のおかげで もうけさせて
もらってるようなもんだがな。

嫌な事 言わないで下さいよ。
いや~ こがんうちを

我々みたいな者が
借りられるのだって

戦時下だからこそだ!
軍が 将校用に借りたんだが

借り手がなくって 遊ばせとくのは
もったいないからって

貸してくれたんだよ。
あら。 じゃあ お家賃は?

ちゃんと 連隊に払ってるさ。

また 軍のお世話に
なってるんですか!

(雄)どういう人の うちなの?
金持ちなんだろうな!

何でも 軍関係の仕事をしとって
家族を連れて 永住するそうだ。

じゃ いつかは お帰りになるのね。
大事に使わなきゃ。

今は 向こうへ永住する腹を
決めたって事たい。

まあ 話によっては
売るつもりになっかもしれんな。

お前が欲しかったら
買ったってよかよ。

今に買えるようにだってなるさ!

いや もう 私 こんな大きなお屋敷
とっても 落ち着かなくて…。

どこまで 貧乏性にできてんだ
お前は! ハハハハ!

いや~ しかし やっぱり
庭のあるうちは よかない!

(仁)父さん!
うん?

風呂 沸いたよ!
ねえ 一緒に入ろうよ!

分かった 分かった!
雄 お前も一緒に どうだ?

背中 流してやっぞ!
はい! すぐ行きます。

(仁)早く! 早くしてよ ほら!

父さんの自信は 大したもんだね!
やっぱり 男ね。

前は 何でも
母さんに相談してくれたのに

このごろは 全然…。

何でも 1人で決めて
1人で切り回して…。

母さん 何か言おうもんなら
すぐ どなられるんだから…。

父さんも変わったわ。
いいじゃないか。

母さん一人で 何もかも しょって
随分 苦労もしてきたんだ。

これで
やっと 楽になれたんだから。

そうね。

父さんに 愛想尽かして
母さん 雄と二人っきりで

生きていこうなんて思った時も
あったけど

その父さんに こんな事業の腕が
あるとは 思いも寄らなかった。

ただね 母さん 軍に取り入るのが
嫌なんだけど…。

そんなふうに言っちゃ
父さんが かわいそうだよ。

その時代時代で
目端の利く商売するのは

やっぱり 商人の才覚ってもんだし
軍の仕事だからって

別に 悪い事してる訳じゃ
ないんだ。

父さんは 父さんなりに
軍に奉仕してるんだよ。

父さんの言葉じゃないけど
お国のためにもなってるんだから。

今 平和産業は どんどん潰れるか
軍事産業に吸収されてしまってる。

そんな時に
一匹おおかみで生きてるなんて

立派だよ 父さん。

ものは考えようか。
母さん。


今は もう 軍の仕事でもしないと
生きてはいけない時代なんだ。

父さんだって
それが分かってるから。

黙って 父さんに
ついていけばいいんだよ。

じゃあ 久しぶりに 父さんの
背中でも流すかな! よいしょ!

♬「ハァー 岸川万五郎さんな」

≪(仁)お父さん うまいね!
≪(竜三)♬「腰にゃ とんこつ」

あっ。

初ちゃん よかったね。

雄さんの着替えも
お持ちしてありますから。

初ちゃんが うちにいてくれたら
母さんも安心だろう。

これからは 一生懸命
うちの事 させてもらいます。

(雄)家事を覚える事も
大事だけど

暇を見つけて 本を読む習慣を
つけなきゃいけないよ。

女学校へなんか行かなくたって
本は いろんな人生 教えてくれる。

初ちゃんに読んでほしい本を
持ってきた。

初ちゃん
心の豊かな女性になるんだ。

戦争で みんな
心が カサカサしてきてる。

こんな時だから
自分を見失わないように

本を読むんだよ。

(初子)お夕飯は?
あ~ 済ませてきた。

砂糖と マッチと みそだ!

まあ こんなに?
いいんですか?

みんな 少ない配給で
我慢してるっていうのに…。

天ぷら油を欲しいっていう人に
分けてやったら

これを よこしたんだよ。

だって 天ぷら油は カマボコ工場へ
割り当てられたもんでしょ?

そうそう
あんたが勝手なさっちゃ…。

いや~ 私たちは
ただ 軍に注文された物を

ちゃんと納めてさえすれば
それで いいんだ。

その上で 油が余ったら 何に
使おうと 私たちの勝手だからね。

砂糖が余って
油が欲しい人だっている。

別に 闇で売ったり買ったりしてる
訳じゃないんだから。

私は 友情で 彼に油を贈り

彼も 友情で 砂糖や みそや マッチを
くれたんだから。

それだけの事だよ。

でも 軍の物を横流ししてる事には
変わりないでしょ?

それが
もし 人の耳にでも入ったら…。

誰でも やっとる事たいね。

それに
人に知れたら まずい事ぐらい

みんな 承知しとう。
まっ 人に知れる事は なかよ。

何だか 嫌ね。 私たちばっかり
ぜいたくしてるみたいで…。

何ば言いよっとか おい!

配給だけで
くそ真面目に暮らしとったら

今に 飢え死にせんばらん時が
来っぞ!

この暮れには 炭だって
切符制になるっていうし

いずれは 米だって…。
お米もですか?

そがん時が来たって
軍の仕事をしとる限りは

食べ盛りの子どもたちを 飢え死に
させるような事はないんだからね。

風呂は 沸いとっか?
今日は お休みしました。

またか~! 薪なんか
ケチケチするなって言うたろうが!

ご近所の手前だって…。
あなた うちばっかり

毎日毎日 お風呂 立ててたら
何て言われるか…。

煙で分かるんですよ。
全く…。

それよりね 隣組とかっていって

今夜 集まりが
あるそうなんですけど

私 出ますか?
よか! 私が出よう!

着物を出してくれ。
助かった。 もう 私 気が重くて。

女が出て
お茶を濁すような事では なかよ。

あっ 初ちゃん
ちょっと これ頼むわね。 はい。

大丈夫か?
はい。

その隣組っていうのは
何なんですか?

うん。 町内会みたいなもんだ。
ああ…。

これからは 住民が一つになって
この非常時を

乗り切らなきゃならん。
そのためには

政府の意向が 下々まで行き渡り
政府に協力する体制が

できていないと
うまくは いかないんだ。

一人でも
この戦争に そっぽを向く者や

私利私欲で動く者のないように
するのが 隣組の役割たいね。

みんな 入んなきゃ
いけないんですか?

当たり前だ! 国家総動員体制の
重要な基礎になる組織なんだ。

これからは 隣組が単位になって

いろんな住民運動にも
参加しなきゃならないんだからね。

ふ~ん。 じゃあ ただの
ご近所づきあいじゃないんですね。

そうさ! 政府の方針といったって
命令みたいなもんだからね。

≪初ちゃん。
はい!

≪入っていい?
どうぞ!

あれ? 本 読んでたの?

何 読んでたの?
万葉集」。

へえ~。 母さん
聞いた事ないわ そんな本。

大昔の人たちの歌を
集めたもんなんです。 ふ~ん。

雄さんに頂いたんです。

へえ~。 雄も
こんなもの 読むようになったの。

ふ~ん。

だんだん 雄も
母さんの知らない事 勉強して

母さんの分からない事
考えるようになるのね。

私にも まだ 難しくて…。
でも 一生懸命 読んでると

雄さんが これを読むように
下さった お気持ちは

分かるような気がするんです。
きっと

こういう歌を詠んだ人たちの
喜びや悲しみが分かるような

人間になれって事なんじゃ
ないかって…。

いいわね 若いって…。

何か?

あっ あのね
あの~ 山形のお母さんに

仕事着にでもしてもらおうと
思って 反物 買っといたのよ。

正真正銘の木綿。
それと あと

少しだけども お砂糖も
一緒に お送りしようと思って…。

いいんです そんな心配…。
大した事は できないんだけども

山形のお母さん 初ちゃんを
当てにしておいでになったのに

結局は うちで こき使う事に
なっちゃって…。

まあ せめて お詫びのしるしに
少しでも…。

(竜三)じゃあ 皆さん これから
どうぞ よろしくお願い致します。

まっ お互いに 心と力を合わせて
しっかり やっていきましょう。

ああ。 それじゃ。

こんな遅くまで
何のお話だったんですか?

あ~ 初めての集まりだ。
隣組が何のために作られるのか

てんで分かっちゃいない
連中ばっかりで…。

ただの親睦会ぐらいに
思ってるんだな。

分からせるだけでも
一苦労だったよ。

それは 御苦労さまでした。

結局 私が
組長をやらされる事になった。

忙しい時に 迷惑な話だが

みんなに推されちゃ
嫌だとも言えんしね。

また1つ 仕事が増えちまったよ。

あんた もう
人が よすぎるんですよ!

まあ いいじゃないか。
みんなも 私が

軍の仕事をしてるっていうんで
信用してくれてるんだ。

これからは 隣組の組長というのは
大きな力を持つ事になる。

大役だが 大役だけに
やりがいもあるってもんだ。

役にとって 不足はなかよ!
ハハハハハハ!

たかが 隣組の組長に
なったぐらいでと

おしん
竜三の意気込み方に あきれた。

…が この人は 一体 どこまで

この時勢に
迎合していくのだろうと思うと

ふと 背筋に寒いものを
覚えていた。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

昭和16年

田倉家では 仁と希望が そろって
中学校へ進学した。

戦時色の濃くなる中で

まだ 物に不自由していない
田倉家には

戦争の厳しさは
遠いものであった。

そんな ある日
思いがけない客があった。

♬~

(おしん)兄ちゃん!?
(庄治)おしんか?

たまげた…。 どうしたの!?

知らせてくれたら
駅にでも 迎えに行ったのに…。

表札には 「田倉」と出てるけんど
まさかと思ってよ~。

あ~ やっぱ ここだったのか!

よく来てくれたな!
よく来てくれた!

ほら 入って! 入って 入って!
ほら 入って! さあさあ!

兄ちゃん 一杯 やってけろ。

いや~
おしんも出世したもんだな。

今では 手さ入らねえ物ば
時々 送ってくれるから

一体 どだな暮らし
してるんだべって

おとらと話してたんだ。
こだな立派なお屋敷に住んで…。

借家だ。 こんなうちは
一生 かかったって 持てやしねえ。

借家にしたって…。
田倉さん 何してるんだ?

いろいろ 軍の事をね…。

んだべな。
そうでないと 今どき…。

戦争で泣いてる者もいれば
いい思いしてる者もいるんだな。

兄ちゃん。

俺たちは いつまでたっても
貧乏くじよ。

雄は?
うん。 京都で下宿してる。

高等学校3年になるの この春。

雄と うちの坊主は えれえ違いだ。
坊主の代になっても

貧乏小作の伜は
むつこいもんだな。

俺たちが苦労してるのを
見てるから

偉くなって 父ちゃん 母ちゃんに
楽させてやりたいって

15の時に
少年飛行兵に志願して…。

あら… 貞坊が?

うちでは
高等小学校 出してやるのが

精いっぱいだったんだ。
それでも

中学 行ってるやつらと 一緒に
試験 受けて 合格したんだ。

偉いじゃないの。
じゃあ 霞ヶ浦予科練

いや 貞吉は 陸軍の方だ。
今度 新しく出来た航空学校だ。

それでも いつかは
立派な飛行機乗りになって…。

そういう学校 行くと
少尉さんになるんでしょ?

俺も貞吉も
そう信じ込んでたんだ。

ところが 陸軍士官学校ってとこ
出ないと

将校には なれねえんだと。
おまけに

操縦士には向いてねえって
整備兵に回されてしまって…。

いいじゃないの 整備兵だって
軍人に変わりないんだもの。

何がいいんだ!? 貧乏小作の伜は
なんぼ 頭 よくったって

出世できねえようになってんだ!

まだ 19だぞ…。
おぼこみてえな面してよ。

それで 福岡まで行くって
聞いたから

何が何でも会っておきたくて…。

会えたの?

ああ 福岡で…。 これが 最後に
なるかもしれねえと思ったら

どうしても 会いたくて…。

あいつ… 笑って 別れてった。

天皇陛下の御為に 一身を
なげうって 戦ってきます」って

挙手の礼してよ…。

そりゃ
日本人としては 名誉な事だ。

オラだって
軍国の父になったんだからな。

雄と同い年なのにね…。

地主に いじめられて
戦争で痛めつけられて…。

貞吉が自分から志願して 戦争に
行くはめになったんだって

みんな 貧乏のためだ。

オラ つくづく
百姓 やんだくなった。

(竜三)おしん
山形のお兄さんが見えたって?

兄ちゃんです。
あ~ お初に お目にかかります。

田倉竜三です。
突然 お邪魔して…。

いや~
よく いらして下さいました!

ここじゃ ろくな おもてなしも
できません。

これから 食事に出よう!
あんた…。

いや 大事な お兄さんたい!
粗末にしたら 罰が当たるぞ!

おしんも 一緒に行こう!
積もる話も あっじゃろうが!

さあ お兄さん 今日は うまい魚を
うんと食べて頂きますからね!

さあ どうぞ! さあ! さあさあ!

(初子)よいしょ。

(庄治)おしん。 お前は 果報者だな
かい性のある亭主ば 持って!

田倉さん! 今夜は
ほんてん オラ 楽しかった~!

あだな豪勢な料理屋さ行ったの
オラ 初めてだ~!

やっと寝たわ 兄ちゃん。
よっぽど うれしかったんですね。

ホントに ありがとうございました。
明日 帰られるそうだが

できるだけ
持たせてあげた方がよか。

失礼でなかったら
金も 少し包んで…。

雄と同い年の貞吉君を
兵隊にとられた

お兄さんの気持ち 思うと
ひと事では ないんだよ。

金や物で済む事じゃないが

できるだけの事してあげるのが
私たちの務めだ。

あんた…。

♬~

翌日 庄治は帰っていった。
その後ろ姿が 何か哀れで

おしんは 長い間の庄治への恨みが
消えてしまっていた。

そして 庄治を通して
おしんは 初めて

戦争の残酷さを
身近なものとして感じていた。

う~ん おいしく漬かった!

その年の12月8日も おしんには
いつもと同じ朝であった。

(仁)おはよう!
(希望)おはようございます!

はい おはよう。 早くしなさいよ。
遅れたって知らないからね。

今日は 定期試験で 昨夜2時まで
勉強してたんだから。

(ラジオ)「臨時ニュースを申し上げます。
臨時ニュースを申し上げます。

大本営陸海軍部
12月8日 午前6時 発表。

帝国陸海軍は 本8日未明
西太平洋において

アメリカ イギリス軍と
戦闘状態に入れり。

帝国陸海軍は 本8日未明
西太平洋において

アメリカ イギリス軍と
戦闘状態に入れり」。

よいしょ。

(雄)ただいま!
雄さん!

な~んだ 帰ってきたの?
(雄)ああ。 今年の冬休みこそ

京都で じっくり 勉強しようと
思ったんだけどさ

図書館も下宿も 火の気がなくて
とても いられたもんじゃないよ。

京都は 寒いとこだって
いうから…。

なにを 意気地のない事
言ってるんだ~!

満州の兵隊さんの事 考えたら
どんな我慢でもしなきゃね。

僕たちだって いつ 戦争に
駆り出されるか分からないからね。

雄…。

何してんの?
いい木を みんな 掘り返して…。

せっかくの庭が
台なしじゃないか。

畑にしようと思ってさ。

ここ 借家だろ?
そんな勝手なまね…。

父さんがね 持ち主の方から
譲って頂く事になったのよ。

へえ~。 高いんだろう?
いや よくは知らないけど…。

こういう ご時世だろ。
持ち主の方だってね

永住なさる事になったんだって。
ふ~ん。

畑なんかにして どうするの?
自分たちで食べる野菜ぐらいは

自給自足しないと このごろは
もう 野菜が 手に入んないのよ。

そうだね。 アメリカと 戦争
始めたんじゃ どうなるんだか。

あんたたち なにも 気にしないで
勉強してればいいのよ。

それが お国のためなんだから。

僕は いつだって
兵隊になる覚悟は できてるよ。

戦えるもんなら 今すぐにだって
戦いたいよ。
雄…。

僕たちと同じ年の連中が
どんどん戦ってるんだ。

学生だからって
便々と 机に向かってるなんて

やりきれないよ!
バカな事 言うんじゃないの!

真珠湾攻撃を成功させた
特殊潜航艇なんて

すばらしいじゃないか!
それが 大和魂ってもんなんだ!

日本男児の本懐じゃないか!
雄…。 あんた 本気で そんな事?

女には 分からないよ
こういう気持ち。

愛する祖国のためなら
今すぐにだって死ねる。

いつだって アメリカの船と
刺し違えてやるさ!

随分 古い本だね。 母さん
どうして こんな物 持ってたの?

子どもの頃に
ある人から頂いたの。

雄に あげる。

なぜ それを 母さんが
大事に取って置いたか

読んだら分かるから…。

♬~

(俊作)「あゝ をとうとよ 君を泣く
君 死にたまふことなかれ

末に生れし君なれば
親のなさけは まさりしも

親は刃をにぎらせて
人を殺せと をしへしや

人を殺して死ねよとて
二十四までを そだてしや

堺の街の あきびとの
舊家をほこる あるじにて

親の名を繼ぐ君なれば
君 死にたまふことなかれ」。

おしんは いつの間にか 戦争を
賛美している雄が怖かった。

恐らく 今の若者は 皆
雄と同じような教育をされ

雄と同じ思いで
戦場へ赴いているのだろう。

でも 雄だけは 母親の気持ちを
分かってほしいと

おしんは 願っていたのである。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

昭和16年12月8日の

ハワイ真珠湾奇襲による
米英との開戦と

その赫々たる戦果は
国民を狂喜させ

米英打倒に向けて 挙国一致体制を
つくる事に 成功した。

米英 何するものぞと

国民は 必勝の信念をもって
物資の窮乏にも耐え

「欲しがりません 勝つまでは」と

進んで
戦争遂行に参加したのである。

おしんも 日本が勝つ事を信じ

勝つためには 精いっぱいの事を
しなければと思っていた。

ただ おしんは 雄を
戦場に送る事だけを恐れていた。

それは 理屈を超えた
母親の本能であった。

(竜三)高木さんとこの三男坊な

陸軍航空学校へ
志願してくれる事になったよ。

(おしん)また
説得なさったんですか?

ああ! 素直な いい少年だ!
両親の同意も得たし

中学校の成績も上々だ。
まあ 合格疑いなしだな!

かわいそうに…
まだ 14か15でしょ?

戦闘機に乗れる人間は いくら
あったって 足りはしないんだ。

どんどん 志願してもらわんと
追っつかん。

そりゃ そうでしょうけども
あんたが勧めた子どもに

もしもの事があったら…。
お国のためたい!

誰も戦死させたくて
志願させる訳じゃない。

勝つためには 一人でも多くの
戦闘員が必要なんだから。

じゃあ 希望や仁が
その年になったら

少年飛行兵に
志願させるおつもりですか?

当たり前たい!
国民の務めじゃなかか!

両親が
私情を挟むような事ではなかよ!

滅私奉公たい! うん!

竜三は もちろん おしん
日本が敗戦国になるなどとは

その時
夢にも思ってはいなかった。

昭和17年4月には 雄が 無事
京都帝国大学に入学したが

そのころは 太平洋での華々しい
戦果が 連日 報道されて

物資の乏しい暮らしの中でも
国民の士気は 上がっていた。

しかし それも たかだか
1年余りで 翌 昭和18年には

早くも
戦局に 陰りが見え始めていた。

ここ 畑にする時

父さん バカにしておいでに
なったのに 今になったら

どんなに助かってるかね。
(初子)さすがの父さんも

ここまで物が無くなるとは 思って
いらっしゃらなかったんでしょ。

びっくりした!
(初子)お帰りなさい!

どうしたの? 急に。

(雄)へえ~! なかなか 立派な
サツマイモじゃない。 うまそうだね!

学校の方は いいの?
ああ。

母さん 工場へは出てないの?
原料にする魚がないもんだから

カマボコ工場の方は
休む事が多いのよ。

それで 父さん 衣料品の
工場の方へ詰めてらっしゃるの。

雄!
あんた?

何ですか! 雄が帰ってくる事
分かってたんですか?

うん? いや…。

アハハ 嫌ね! やっぱり 親子なのね
分かるのかしら。

とうとう 来たな。

覚悟は してました。

でも 母さんは まだ…?

ああ…。

とっくに知ってると思ってたのに。

新聞は 読んでるんだろうが
気が付いてないらしいんだ。

だから 父さん
切り出しにくくてな…。

父さんから話す。
いつまで いられるんだ?

京都の下宿は
引き払ってきたのか?

本とか残しておきたい物だけ
チッキで送った。

あとは 下宿で
処分してもらう事にして…。

それでいい。

今すぐ ふかしますからね!

やっぱり 母さんには 僕から話す。

何?

(雄)それ 返しておくよ。

そんな本 持ってるの
見つかったら

ただじゃ済まないからね。
与謝野晶子反戦歌じゃないか。

戦場の弟に 「君
死にたまふことなかれ」だなんて

今は 通用しないよ。

雄 これはね…。
分かってるよ。

母さんが それを僕にくれた
気持ちは よく分かってるんだ。

僕だって 母さんの気持ちは
大事にしたい。 でもね

戦場へ行って 命を惜しんでいては
十分な働きは できやしない。

雄… あんた…。

今まで 学生は
徴兵を延期してくれていた。

…が 今度 文科系の学生の
徴兵猶予は 認められなくなった。

僕は もう 満二十歳だ。
当然 兵役の義務がある。

入隊する覚悟で帰ってきたんだ。

やっぱり そうだったの…。

文科系大学生の徴兵延期が
打ち切られるって

新聞で読んだ時
もしやと思ったのよ。

でも 父さん
何にも おっしゃらなかったし

母さんも 聞くの怖かったし…。
父さん やっぱり

隠しておいでだったんだ。
母さんの事 心配したんだよ。

雄だって 何にも言わなかったじゃ
ないの! だから 雄は

大丈夫なんだとばっかり…。
僕は とっくに 心を決めていた。

日本の戦局は
ますます厳しくなる一方だ。

アメリカは 手ごわい相手になった。
そう簡単に勝てるとは思えない。

でも 負ける事だけは できない。

そのために 僕たちに
できる事があるのなら

命を捨てても 悔いはない。

母さんや父さんや弟や妹たちが
生きていかなきゃならない

祖国のためなんだよ!

みんなが平和に暮らせる祖国に
するために 戦うんだ!

役に立つ命なら 惜しくはないよ!

母さんはね
7つの時に 奉公に出されて

あんまり つらくて 雪の降る日に
逃げ出した事があるんだよ。

それが すごい吹雪になってね
行き倒れてしまったの。

その時に 脱走兵のお兄さんに
助けてもらった。

その お兄さんと
ひと冬 山の中で暮らしたんだ。

心の優しい温かい人だった。

俊作兄ちゃんっていってね…。

兄ちゃんには いろんな事
教えてもらったけど

「人と人とが殺し合うような事は
絶対 あってはいけない」って…。

「もし おしん

戦争に巻き込まれるような事が
あっても

おしんだけは 反対しろ」って…。

今でも はっきり覚えてる。

その兄ちゃんに
この本 もらったの。

なのに 母さん
戦争に反対しなかった…。

できなかった…。

母親なのに 自分の息子も
守ってやれなかった…。

母さん…。

母さん一人でも…

何の力もなくても
反対しなきゃいけなかったんだ!

母さん
父さんの仕事も 黙って見てきた。

軍や戦争 食い物にして
もうけようって…。

でも それも 子どものためだと
思って 目 つぶってきた。

母さん!

自分の息子が
戦争に駆り出されると

思っていなかったんだよ!

母さん バカだった…。

何のために この本 大事に
してきたか 分かりゃしないよ!

母さんは 僕が 士官学校 行くの

反対してくれたじゃないか。

士官学校 行ってたら

知らずに終わった青春を
過ごさせてもらった。

それで 十分だ!

もしもの事があっても 母さん
僕のためなら悲しまないでほしい。

僕は 母さんのおかげで

二十歳までの人生を
幸せに生きてこられたんだ。

雄…。

大丈夫だよ。
死ぬ覚悟ができてたって

犬死になんて しやしない。
きっと 元気で帰ってくるから!

(竜三)おしん…。

笑って 送ってやろう。

母親が 泣き顔 見せたら
つらいのは 雄だ。

(竜三)雄。
母さんの事は 心配すんな!

父さんが ついてるから!
思う存分 働いてこい!

(雄)母さん!
(竜三)雄!

女々しいまねは すんな!

父さんに 母さんの気持ちなんか
分かりゃしないよ!

母さんが どんな思いをして
僕を育ててきてくれたか!

いつだって 母さんと一緒だった。

酒田で 飯屋をしてる時も

伊勢で 魚の行商をしてる時も…。

母さんの思いは
父さんとは 違うんだよ!

死んでいく者は いい…。

でも 後へ残された人たちは 一生
奪われた者への思いを背負って

生きていかなきゃならないんだ。
母さんのような母親が

何万 何十万と残されるとしたら
ひどすぎるよ…。

戦争は 人と人が殺し合うだけが
残酷なんじゃない。

愛する者たちを失って

それでも 生きていかなきゃ
ならない人たちの方が

どれほど つらいか!

その方が ずっと残酷だよ!

雄…。

僕は 戦争のない時に
生まれてきたかった…。

親孝行なんて
できないかもしれない…。

でも…
せめて 親不孝しないで済んだ。

♬~

言葉にならない深い後悔が
おしんの胸を押し潰していた。

一人で戦争を反対しても

どうにもならない事は
よく分かっていた。

それでも 反対しなかった自分を
おしんは責めていた。