人間の愚かさを決して過小評価してはいけない

ユヴァル・ノア・ハラリが説く「戦争」の本質

経済的資産=知識は戦争では征服できない(写真:grandfailure/PIXTA)
著作の累計部数が2000万部を超えるユヴァル・ノア・ハラリ。『サピエンス全史』『ホモ・デウス』に続く、新著『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』(以下『21Lessons』)は、タイトルのとおり、21のテーマごとにさまざまな知見を駆使しながら、われわれ人類が直面している重要課題を取り上げている。
「人間の愚かさをけっして過小評価してはならない」。ハラリがそう警鐘を鳴らす、「戦争」の章から「謙虚さ」の章へ至る箇所を、一部抜粋してお届けする。

戦争に勝つという失われた技巧

21世紀に主要国が戦争を起こして勝利を収めるのがこれほど難しいのはなぜなのか? 1つには、経済の性質の変化がある。過去には、経済的資産は主に物だった。だから、征服によって裕福になるのは比較的簡単だった。戦場で敵を打ち負かせば、敵の町を略奪し、敵国民を奴隷市場で売り、価値ある麦畑や金鉱を占領すれば、利益をあげられた。ローマ人は捕らえたギリシア人やガリア人を売って繁栄し、19世紀のアメリカ人は、カリフォルニアの金鉱や、テキサスの牧場を占有することで金持ちになった。

ところが21世紀には、そのようなやり方ではわずかな利益しかあげられない。今日、主な経済的資産は、小麦畑や金鉱ではなく、油田でさえもなく、技術的な知識や組織の知識から成る。そして、知識は戦争ではどうしても征服できない。イスラミックステートのような組織は、中東で都市や油田を略奪して、相変わらず栄えることができるかもしれない(イスラミックステートはイラクの複数の銀行から5億ドル以上を強奪し、2015年には石油の販売でさらに5億ドル稼いだ)が、中国やアメリカのような主要国にとって、そのような額は微々たるものでしかない。

年間のGDPが20兆ドルを超える中国は、わずか10億ドルのために戦争を始めたりしそうにない。また、アメリカとの戦争に何兆ドルも費やしたら、中国はそのような出費や、戦争による損害、失われた交易の機会をどう埋め合わせることができるというのか? 勝利を収めた人民解放軍はシリコンヴァレーの富を略奪するのか? たしかに、アップルやフェイスブックやグーグルといった企業は何千億ドルもの価値があるが、そのような富は力ずくで奪うことはできない。シリコンヴァレーにはシリコン鉱山などないのだ。

次ページ平和の最善の保証
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
  • 埼玉のナゾ
  • 日本野球の今そこにある危機
  • スージー鈴木の「月間エンタメ大賞」
  • 僕/私たちの婚活は今日も終わらない
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
9

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

ログインしてコメントを書く(400文字以内)
  • といざヤす9fb97ee2a27b
    ユダヤ人が「ヨガはユダヤ発祥」と主張している話は初めて聞きました。近年はやりの「日本スゴい」も、よその民族から見れば同じように滑稽に見えるかもしれません。もちろん、日本から見ればその民族におかしな点があるかもしれません。

    ただ、このように文化を冷静に比較する視点は、たとえ三流大学の一般教養レベルでも、文系の学問を少しでもかじっていれば習得できるはずで、そういった視点が結構大切なんで、だから文系学問は大切なんです。

    敵を知り己を知れば、うぬぼれている相手より優位に立てるものです。
    ただ、その過程では、自分のイヤなところにも向き合わないといけませんけどね。

    up18
    down5
    2019/12/14 09:34
  • no name38d9740415a5
    北朝鮮に核を持たせてしまったNATO陣営も愚かだと思う。

    ユダヤ人の優秀さを示すには、ユダヤ人のノーベル受賞者/受賞者、ユダヤ人口/世界人口の比率を比べると10倍以上の驚く値なので、記載してほしい。

    フェイクニュースは良く知られているが、歴史もフェイクが多い。
    up1
    down1
    2019/12/15 00:28
  • M&K5d103f2167b8
    まぁ、僭越ですが、またさらに付言すると、浜矩子だっけか、言ってましたが、ネットを支配する人がでたら、云々とか言ってましたが、無いんですよ(笑)
    分かりますよね(笑)
    アンチテーゼとして、ネットにハッキング出来ないプラグラムを作れないと、意味が無いんですよ(笑)
    それは今のところ無いでしょうよ(笑)
    up0
    down2
    2019/12/14 20:32
  • すべてのコメントを読む
トレンドウォッチAD
最新! 危うい会社リスト<br>7つの指標で徹底解析

高成長会社と危ない会社は紙一重。業績順調な企業も先行きは安心できません。突然巨額赤字に陥る、そもそも行き詰まっているなど、将来リスクを抱える会社を多様な切り口でリストアップしました。7つの指標であなたにも見分けられます。