こうたの物語集

「何よ！私たちが嘘ついてるっていう訳！？」
あい子に続いて、ゆみかがゆみにそう言いました。
そのやりとりを聞いていた、ゆみのクラスのアカネという女子がゆみを助けるように僕達に近づいて来ました。
「こうた君、そうだよね。喧嘩強いよね。意地悪されそうになったら助けてくれるって言ったもんね。」
ゆみは、僕に不安を打ち消すようにそう言いました。
「どうしたの？ゆみ、なんかあったの？」
アカネがゆみに声をかけます。アカネという子は、ゆみかと同じくらい背が高く、小学１年生の時と２年生の時に同じクラスになった事がある位であまり話をしたことの無い子でしたが、ゆみかに劣らず活発な女の子という事は知っていました。
「あんたには関係ないでしょ、この子が私たちの事、嘘つき呼ばわりするから・・・。」
みどりはアカネに向ってそう言います。
「嘘じゃないよね。こうた君。すぐ泣かないよね。」
ゆみは、アカネ達の手前、拝むように僕にそう確認するのでした。そんなゆみに、何も言えない僕は黙って俯くしかありません。
「何とか言えよ！」
アカネが、俯いている顔を無理やり上に向け、そして「ゆみが聞いてる事に答えろ！」とそう聞きました。
「だから、こいつはすぐに泣くんだって、だから、ゆみちゃん、私達の事をうそつき呼ばわりしたこと謝ってよ。」
るり子が少し笑いながらそう言いました。アカネやゆみ達は、るり子が僕の事を“こいつ”と呼んだ事に少しびっくりした様子でした。
「何で、ゆみが謝らなきゃいけないんだよ。ゆみはこの子から何にも聞いてないし、謝る事なんかないんじゃないの？」
アカネがゆみを助けるように、そう言います。
ゆみも少し寂しい顔をして「昨日、ゆみかちゃん達に意地悪されたら助けてね、って言ったら、大丈夫、任せてって言うから・・」とアカネに言い、僕にも言うかのように視線を落としたと思います。その時僕は俯いていたのでわかりませんが・・・。
「こうたの口から言わせようよ、あい子と喧嘩して泣かされたって！」
「そうだよ、そうすれば、ゆみちゃんも納得するんじゃない！」
順子の言葉にるり子がそう続けました。
「もういいよ。私が謝る。ごめんね。みんなの事嘘つき呼ばわりして、だから、もうこうた君にそんな事言わせるのやめて、可哀想だから。」
ゆみは僕の俯いている姿を見て、全てを理解したのでしょう。ゆみは僕のクラスの女子にそう言いました。そして「がっかりした」と寂しそうに付け足して言いました。
その言葉を聞いてアカネが口を開きました。
「お前！情けないな～！それでも男！？ゆみに謝らせて、悔しくないの？何かすごくムカつく！」
僕は、その言葉に反応することができず、やはり俯いたままです。
「本当！がっかり！こうた君の事見損なってたよ。」
ゆみの友達の幸もゆみをかばうかのようにそう答えました。
僕は心の中で「ゆみ、ごめん」とつぶやくしかありませんでした。
あい子とゆみか達は、ゆみに謝って貰って納得した様子で笑っていました。
「でも、私なんか納得いかない！何でゆみがあんた達に謝らなきゃならないの！？嘘をついたのは、このチビじゃん。」
アカネがあい子やゆみか達に抗議します。
「でも、嘘付き呼ばわりしたのはゆみちゃんでしょ。謝って当然でしょ。」
るり子もアカネに負けていません。
「おい、チビ、何とか言えよ。お前のせいでゆみが謝ってるんだから！」
アカネは、僕の肩を手のひらで叩いてそう言いました。
「もういいよ。アカネ。私が悪いんだから。本当にみんなごめんなさい。」
ゆみは、さびしそうにそう言い、僕の方をちらっと見て僕の席から離れて行きました。幸も追うように僕の席から離れて行きました。