こうたの物語集

視聴覚室は、後ろの席に行くほど高くなっていて、僕が起っている場所が一番低い位置になり、女子の顔が全員見る事ができます。改めて、女子の数に圧倒され、少し緊張しながら自分の名前と特技を言いました。
「はは、言われてみれば背が本当に小さい。声も可愛いね。」
となりのクラスの女の子が僕に言うともなくそう言いました。
僕の自己紹介が終わり、順次女子達も自己紹介をしていきましたが、何せ僕は一番前の席に座っているので、みんなと僕と目が合います。他のクラスでもゆみかのように体の大きな女子が何人もいて、その子達が僕を見て、笑みを浮かべると、ゆみかや順子やるり子のように見えてしまって、無意識のうちに目を合わさないように、俯いてしまうのでした。ゆみかまでとは行かないまでも、ほとんどが僕よりも背が大きいのですが・・・。
それと、先生は僕だけ呼び捨てにしているようで、そのことが気になったことを覚えています。

最初の一時間目は、自己紹介だけで終わり、休み時間になりました。
休み時間になると、ゆみとゆみの友人の幸が僕のそばに来ました。ゆみの顔を見て、さっきのゆみの自己紹介の時も俯いたままだったので、少し悪い事をしたなと思いました。
「こうた君。これからよろしくね。」
ゆみが優しい笑顔を浮かべながら僕に言います。
「うん。」僕はすこし照れて、ゆみにそう答えました。
「さっきの先生ひどいよね。あんな事言わなくてもいいのに・・・。」
ゆみの友達の幸が、僕に同情するようにゆみに同意を求めながらそう言いました。
僕も「俺もそう思った」と幸に答えながら、話をしようとしたとき、あい子がよって来ました。
「こうた、先生に言われちゃったね。」
あい子の言葉使いにゆみは驚き、あい子に向って小さな声で、「あい子ちゃん、そんな言葉使いをしたら、こうた君怒っちゃうよ！」とそう伝えました。何故なら、ゆみは僕が以前あい子を苛めていたことを知っており、実際、僕があい子を泣かしているところを見ているからでした。
「別に、怒ったっていいもん。もう怖くないから。」
あい子は平然としてゆみに答えます。
「こいつ、この前私と喧嘩して、私に泣かされたんだよ。」
あい子は、少し笑みを浮かべながら、勝ち誇ったようにゆみと幸にそう付け足しました。
ゆみは、「えっ！？」という顔をして、僕を見ました。
僕は、ゆみに知られたくないという一心で、またあい子しかそばにいないということもあり、「嘘つくなよ！あいこ！」とそう言ってしまったのです。
「あ～！私の事呼び捨てにした～！」
あい子は大袈裟にそう言い、そして「クラスの女子はちゃん付けで呼ぶって約束だろ！」とそう言いながら、僕の頭を小突きました。
頭を小突かれて、少しムッとしてあい子を見た瞬間、あい子は「ゆみかちゃ～ん。」とゆみかに声を掛けました。
ゆみかは、あい子に呼ばれて、るり子や順子達と共に僕のそばに来ました。僕は、ゆみと幸、あい子、ゆみか、るり子、みどり、順子、とみ子に囲まれるように座っていました。
「どうしたの？あい子？」
「こいつが私の事を呼び捨てにしたの。」
ゆみかは、あい子の言葉を聞いて、僕に「呼び捨てにしないって約束だろ！」とそう言いました。
僕は、ゆみかの顔を見て、そしてゆみの方へ視線を移しました。
ゆみは、不安そうな顔をしていましたが、僕の視線と目が合うと、ゆみか達に「こうた君、怒ると怖いよ」と僕をかばうつもりなのかそんな事を言いました。ゆみは、少し様子がおかしいとは思いながらも、昨日僕と約束した通り、ゆみか達が意地悪をしてきたときには僕が助けてくれるだろうと思っていたのだと思います。
「全然、怖くないよ。こんなの。すぐに泣くし。」
「嘘ばっかり、こうた君、男子の中でも喧嘩が強い方だし、そんな事ないよ。」
「何よ！私たちが嘘ついてるっていう訳！？」
あい子に続いて、ゆみかがゆみにそう言いました。
そのやりとりを聞いていた、ゆみのクラスのアカネという女子がゆみを助けるように僕達に近づいて来ました。