古代エジプト人が頭に載せた謎の物体、ついに発掘

存在自体が長く議論の的だった、香りをつける「獣脂説」は誤り

2019.12.14
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脂の塊ではなかった

 存在を疑う学者がいる一方で、円すいには広く支持されている仮説が1つ存在する。頭の円すいは香り付けした獣の脂の塊で、体温によって少しずつ溶け、良い香りを放つヘアジェルのような役割を果たしていたという説だ。スティーブンス氏らが調査を完了するまでに10年近くかかったのは、それを検証する必要があったからだった。

 その結果、アマルナで発掘された遺物は、円すいは古代の整髪料だったという説を否定しているようだ。その構造は塊ではなく中空で、黒褐色の有機物に覆われていた。有機物は織物だろうと研究チームは考えている。

エジプト、アマルナで発掘された大人の女性の遺骨。ワックスを含む円すい形の物体が頭に載せられている。(PHOTOGRAPH COURTESY THE AMARNA PROJECT, ANTIQUITY PUBLICATIONS LTD)
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 2つの円すいには、ワックスの化学的な痕跡も残されていた。知られている限り、古代エジプトで唯一使われていた生物由来のワックスは蜜ろうだけであり、研究チームは蜜ろうと結論づけている。さらに、最も保存状態の良い骨格の毛髪を調べたところ、ワックスの痕跡は見当たらなかった。(参考記事:「ツタンカーメンのひげ、修復でわかった新事実」

 古代エジプト美術で円すいと出産が関連づけられていること、少なくとも1つの遺体が大人の女性だったことから、頭上の円すいは多産と何らかの関係があったのではないかと、研究チームは推測している。ただし、発見されたのが一般市民の墓地だったこともあり、その背景にある意味を解釈するのは難しい。

 オーストラリア、シドニー大学の考古学者ニコラ・ハリントン氏によれば、古代エジプトの図像では、頭に円すいを載せている人々の大部分が上流階級だが、召使いに見える人物もいるという。ほかの遺跡の墓地に比べると、アマルナの墓地には図像が少ないものの、頭に円すいを載せ、埋葬の準備や捧げ物をしている人物が描かれているものもある。「基本的に、(円すいは)神前で身に着けるものなのでしょう」

脊椎が折れ、変形性関節症も

 円すいを身に着けた女性について、ハリントン氏は独自の仮説を立てている。踊り子だ。2つの遺体の脊椎は折れており、片方には変形性関節症も見られた。

 古代エジプトの一般市民はストレスの多い暮らしと過酷な労働を強いられていたため、骨に異常があるのは当然かもしれない。だが、疲労骨折や圧迫骨折は踊り子の職業病だと、ハリントン氏は指摘する。頭上の円すいはおそらく、「神に仕えているという印だったのでしょう」。そう考えれば、「簡素な埋葬」であるにもかかわらず、頭に円すいを載せていたことも説明できる。(参考記事:「古代エジプト、女神ハトホルの巫女の墓を発見」

 円すいがどのように使われていたか、どれくらい広く使われていたかを知るには、さらに考古学的な証拠を集める必要がある。残念ながら、さらなる証拠は見つからないかもしれないと、スティーブンス氏は述べている。「エジプト学が生まれた当時、発掘調査は大急ぎで、成り行き任せに近い状態でした」

 現在は慎重に作業を進めるようになったため、今後の発掘調査で新たな円すいが見つかる可能性は確かにある。しかし、過去の発掘調査では、円すいの存在を完全に見落としていた恐れがある。

 たとえ3つ目の円すいがもう存在しなくても、この発見には十分な価値がある。考古学者たちは公的な記録や精巧に装飾された墓地を調べ、古代エジプトの上流階級について多くのことを知ったが、一般市民を取り上げた文献や作品は少なく、市民生活は謎に包まれている。古代エジプトに暮らした人々の大多数は一般市民だ。だからこそ今回の発見はとても貴重だ。古代エジプトの地中に、数え切れないほどの物語がまだ埋まっていることを思い出させてくれた。(参考記事:「古代エジプト、3500年前の墓を発掘、遺物続々」

ツタンカーメン王の曾祖父イウヤのミイラ(右)は、古代エジプトの死体防腐処置技術の粋を尽くして作られている。イウヤとその妻トゥヤ(左)は、死亡時50~60歳だったとみられる。夫同様、トゥヤは埋葬設備の碑銘から身元が判明した。彼女の名前に加え、王の着付け係、アメン神の歌姫、ミン神のハーレムを取り仕切る婦人といった肩書がヒエログリフで記されていた。(PHOTOGRAPH BY EGYPTIAN MUSEUM OF CAIRO)

文=ERIN BLAKEMORE/訳=米井香織

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