Interview

「私の代表作になりました」声優・佐倉綾音と『新幹線変形ロボ シンカリオン』ついに劇場版へ…“恋から愛へと変わった”作品との関係性を語る

「私の代表作になりました」声優・佐倉綾音と『新幹線変形ロボ シンカリオン』ついに劇場版へ…“恋から愛へと変わった”作品との関係性を語る

新幹線が移動手段だけでなく、日本の平和と安全を守るための巨大ロボット“新幹線変形ロボ シンカリオン”として活躍する世界。そのシンカリオンとの高い適合率を持つ子どもたちが運転士となり、強大な敵に立ち向かう姿を描いた物語──。2018年1月~19年6月にかけて放送され、メインターゲットである子どもたちはもちろんのこと、物語としての完成度の高さから大人のアニメファンも熱狂させるほどの人気をみせたTVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』。

その続編で、かつ完全新作となる劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X(アルファエックス)』が、2019年12月27日より公開される。本作は、次世代新幹線の開発を進めるための試験車両として知られる「ALFA-X」が新たなシンカリオンとなって活躍し、TVシリーズでは描かれなかったシンカリオン誕生の秘密も語られるという重要な作品だ。

今回は“鉄道大好き少年”の主人公・速杉ハヤト役をつとめる佐倉綾音へのインタビューが実現。アフレコ収録を終えた劇場版『シンカリオン』、そして1年半かけて演じてきたTVアニメシリーズについても思いのたけを語ってもらった。

取材 / 柳 雄大 文 / 阿部美香
撮影 / 増永彩子


新キャラの正体を知る前から「理恵さんに演じてほしい!」と思っていました

(左)速杉ハヤト、シンカリオン E5はやぶさ MkⅡ (右)少年ホクト、シンカリオン ALFA-X

久々に速杉ハヤトを演じられて、収録を終えたご感想はいかがですか?

佐倉綾音 それほど久しぶりという感じはせず、みんなが揃って収録することができたこともあって、TVシリーズの延長のような収録でした。そういう意味では、この劇場版の公開が終わった後に、あらためて寂しさを感じるのかもしれません。

劇場版のストーリーは、ハヤトの前に、父親であるホクトが、9歳の少年ホクトとなって現れる不思議なできごとが軸になっています。少年ホクト役を演じられたのは釘宮理恵さんですね。

佐倉 私、実は「理恵さんに少年ホクトを演じてほしい!」とずーっと思っていて。

えっ、それってどの時点からですか?

佐倉 新キャラが出ます、と聞いたときからです……(笑)。なので、イベント(「夏のシンカリオン感謝祭2019」)のときですね。初めて少年ホクトのビジュアルが解禁されて、その少年が何者かは明かされる前に私は、「この男の子だったら、声は理恵さんがいいな」と、思っていました。それもあって、願ったり叶ったりのキャスティングで、すごく楽しみにしていて。

ものすごい先見の明ですね……!

佐倉 あはは、結果的にはそうですね(笑)。私の中で理恵さんは、現場でお芝居をみるとワクワクする先輩なんです。シンプルに声が好きというのもありますが、それだけじゃなくて、何が出てくるかわからない宝箱のようなイメージがあるというか。だから、この少年ホクトという役に理恵さんがどうアプローチされるか、すごく気になっていて。アフレコのときも、少年ホクトのお芝居を隣でじーっと聴いていました。

念願の、釘宮さん演じる少年ホクトはいかがでしたか。

佐倉 すごく可愛かったです。理恵さんが演じられた少年ホクトを見て「ホクトって子どものころ、こんな感じの子だったんだ!」と、納得ができたんですよ。きっとこういう子どもの頃があって、大人になるまでにいろいろな経験をしたからこそ、今のお父さんホクトができあがったんだな……というのがよくわかる感じの少年ホクトだったと思います。

一方、その息子であるハヤトが、少年のことをホクトだと認識してからも、友だちのような接し方をするところは、誰に対してもスタンスが変わらないハヤトらしいなと思いました。ハヤト側としては、どんな気持ちで演じていましたか。

佐倉 確かに、誰に対しても平等で優しいというのはハヤトのいいところだと思っています。でも実は、それって難しいことですよね。色んな個性の人がいて、誰に対しても優しくできるって、すごい才能だと感じます。それをやってのけるハヤトだからこそ、少年ホクトの正体がわかってからも、優しく寄り添うように接することができたんだろうなと。

あと、TVシリーズのときの経験もあると思います。それぞれがクセの強いいろんなシンカリオンの運転士に出会い、みんなの仲裁に入ったり、前向きな言葉を投げかけたり。そういう経験があったからこそ、少年ホクトに出会ってからも、動じすぎることなく相対することができたのかなぁ、なんて考えていました。

佐倉綾音 エンタメステーションインタビュー

TVシリーズの最終話で、宿敵だったカイレンを蘇らせることを提案するシーンもしかりですが。本当に誰に対してもブレないですよね。

佐倉 ハヤトは、「人は変わることができる」と信じているんですよね。だからこそ、ハヤトの考え方はすごく眩しいし憧れます。「人は考え方を変えれば、変わることができる」と信じているからこそ、一度は相対した相手に対しても優しくすることができて、そういうハヤトにみんながついていく。『シンカリオン』はすごく優しい世界ですよね。

ハヤトのワクワクに共感できるフェーズに入ってきたんです

ハヤトの人間性といえば、新幹線と鉄道がとにかく大好きというのも欠かせないポイントです。今回の劇場版にもそこが全開となるシーンがありますが、鉄道トークでテンションMAXになるハヤトを演じるとき、どんなことをイメージして演じていますか?

佐倉 そうですね……まず、TVシリーズの初期は、音響監督の三間(雅文)さんに「ワクワクが足りない」と言われたことがあったんです。「25歳の喜びと、11歳(TVシリーズ初期のハヤト)の喜びは質が違う」と言われて、確かに! と。

佐倉さんはそれをどう解決したんですか?

佐倉 街で子どもたちが好きなことに対してはしゃいでいるところを観察していました。小さな子ってとにかく自分の興味のあることをアピールして、その興味を全方位に知ってほしいから、ここ(頭の後ろ)から音が出るんですよね。でも、それはもう計算してできることじゃないなと思って。25歳の私が12歳を演じるにあたって“勉強している”という時点で、ダメかもって思ったんです(笑)。

それでもちゃんとハヤトを全うするためには、学ばなくてはと思って、自分は何にワクワクするだろう? とか、ワクワクしたときの瞬間の感覚をインプットして臨むようにしました。

そういう瞬間を思い出しながら。

佐倉 はい。ただTVシリーズでは毎話毎話、ハヤトのテンションが上がるシーンがあるので、ひとつの経験だけを元にしていると、お芝居もだんだんワンパターンになってしまうんです。なので、いろんなワクワクのパターンを自分の中に蓄えていって、「ハヤトが今感じているワクワクに一番近いものはどれだろう?」なんて考えながら演じていました。

劇場版を録っているときは、どんなことを考えていましたか?

佐倉 それが1年半のTVシリーズを経て、だんだんハヤトのワクワクに共感できるようになっていて。必ずしも理解はできないけど、共感はできるっていうフェーズになっていたんです。なのでTVシリーズの途中からは、「ワクワクが足りない」と言われることもなくなっていきました。

だからもう、そのままの気持ちで演じて、声がひっくり返っても裏返ってしまっても、そのテイクが使われるようになりました。その流れで劇場版もOKをもらえて。「人間、勉強すれば手に入れられるものがまだある!」と思えて、ちょっと嬉しくなった瞬間でしたね。三間さんや池添(隆博)監督に、「これ以上はムリかな」と諦められていたからじゃないといいな、と思いつつ……(笑)。

まさか(笑)!  では逆に、今回の劇場版のお芝居で、TVシリーズとは違った難しさを感じた部分はありましたか?

佐倉 迷ったのは、少年ホクトという存在にハヤトが出会ったとき、お母さんのサクラと妹のハルカに、とても暗い表情を見せるシーンでしたね。「ハヤトはこういうとき、どのようにヘコむのだろう」と、あまりTVシリーズでは見せたことがないシーンだったので、少し考えてしまいました。

年齢相応にヘコむのか? 何かを必死に考えながら、抵抗しながらヘコむのか? それとも、強がって表にはヘコんでいる表情を見せないのか。お母さんとハルカを心配させないよう、表向きは繕っているのだろうか? と、いろいろ考えました。結果的に、アフレコでテストしたときの演技がそのまま使われたので、私の感じたハヤトが池添監督や三間さんの中の正解と合致したのかな? と思うと、1年半の賜物を感じましたね。

なるほど。やはり、TVシリーズをこれだけ長く演じてきた経験値が活きていますね。

佐倉 ……と思っていたのですが、TVシリーズでもずっと言われ続けていた「25歳の佐倉さんが出てるよ」と言われるシーンも、劇場版で1、2回あって「あ~やっちゃったな」と(苦笑)。ハヤトが進化しすぎて、私がついていけてないいところもあるんです。どうしても経験値を上げたお芝居にしたくなってしまったり……でも、そこは池添監督や三間さんが止めてくださるので、いい意味で甘えている部分があるのかもしれません。

佐倉綾音 エンタメステーションインタビュー

新たな代表作として。長く演じてきたハヤトと『シンカリオン』への強い思い

そうして長い付き合いが続いている『シンカリオン』は、佐倉さんにとってどんな作品になりましたか? 「夏のシンカリオン感謝祭2019」で、「『シンカリオン』に対する気持ちが、恋から愛に変わった」とおっしゃっていたのは、すごく印象的でした。

佐倉 言いました言いました(笑)!

「『シンカリオン』(作品)が幸せであればそれでいい」とコメントされていましたよね(笑)。そうとう存在感が大きくなっているのかなと思ったのですが。

佐倉 私は、『シンカリオン』というコンテンツは、劇場版で新登場した「ALFA-X」もそうですが、新幹線の進化に合わせてどんどん進化していくものだと思っていて。作品の中でハヤトは精神的にも物理的にも成長して、進級もしている。なので『シンカリオン』の設定からすると、ハヤトがシンカリオンに乗れなくなるときが来るかもしれないんですよね。

シンカリオン(機体)との適合率も変化していきますしね。

佐倉 そうなんです。それを考えたら、ハヤトが考える、日本の平和と安全を守るという使命を達成するためには、いつかはシンカリオンがハヤトたちの手を離れる瞬間が来るのではと思ったんです。そのことは私も頭ではわかっていましたが、当初はそれを想像するのがすごく嫌で。「私は一生、ハヤトは(E5)はやぶさに乗っていてほしい」と……独占欲だと思うのですが、はやぶさに乗って一番上手に戦えるのはハヤトしかいないし、はやぶさに他の人が乗るのはとても嫌だなと。

でもTVシリーズを通じて、(運転士たちが)今まで乗っていた機体から新しい機体に乗り換えるという展開があることもわかってきて。リュウジがドクターイエローに乗り換えたり、リュウジが乗っていたN700Aのぞみに、今はタツミが乗っていたり。それを見ていたら、新幹線……シンカリオンはいろんな人の想いを乗せているから、一概に誰のものとも言えないんだなと思えたんです。

佐倉綾音 エンタメステーションインタビュー

確かにそうですね。

佐倉 そう考えられるようになった時期が、シンカリオンと作品に対しての愛がどんどん募っていった時期と重なったこともあり、恋から愛という気持ちになっていきました。もちろん今でも、ハヤトがずっとはやぶさに乗っていてくれたらいいなという気持ちは大きいですけど、誰かがシンカリオンに乗って『シンカリオン』というコンテンツのレールをずっと延ばし続けてくれたら、ハヤトと一緒に「頑張って!」と言うことも想像できる段階に突入したなと思います。

なるほど。ハヤトが乗るE5はやぶさというものにこだわらなくても、『シンカリオン』は続いてほしいと。もはや、子どもを持つ母親のような心境ですね。

佐倉 確かに(笑)。『シンカリオン』がいつか手を離れるときが来たとしても、幸せを願ってしまう。でも、いざ子離れしたら行く末が心配すぎて、つい電話とかしちゃうかも……みたいな。

『シンカリオン』でこれだけハヤトを長く演じられてきて、ご自身の代表作に育ってきた感覚もあったりするんでしょうか。

佐倉 そうですね! プロフィールに『シンカリオン』がクレジットされる機会がすごく多くなりました。あとは子どももわかる作品というのは大きくて、私自身のことも、お子さんがいらっしゃる親御さんから「ああ、シンカリオンでハヤトをやっているあの子ね」と言っていただけることも増えました。そういう意味でも、私の代表作になりましたね。

佐倉綾音 エンタメステーションインタビュー

余談ながら、取材時には『シンカリオン』とゆかりの深い「Suicaのペンギン」の話題で盛り上がる場面も。「Suicaのペンギンと、キタカさん(JR北海道「Kitaca」のキャラクターのエゾモモンガのこと)がもともとすごく好きだったんです。そこにSuicaのペンギンが登場した回(TVアニメ『シンカリオン』第53話ほか)があって、自分の中で一気に盛り上がってしまって。スマホケースを使ったり、東京駅に行くたびに新しいグッズを大量に買い足したりして、かなりハマっています」(佐倉)とのこと。

フォトギャラリー

劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』

2019年12月27日(金)全国ロードショー

【キャスト】
佐倉綾音、沼倉愛美、村川梨衣、真堂 圭、竹達彩奈、杉田智和、雨宮 天、うえだゆうじ、山寺宏一
釘宮理恵、伊藤健太郎、吉田鋼太郎 ほか

【スタッフ】
監督:池添隆博
脚本:下山健人
キャラクターデザイン:あおのゆか
メカニックデザイン:服部恵大
音楽:渡辺俊幸
音響監督:三間雅文
アニメーション制作:OLM
アニメーション制作協力:SynergySP
CG アニメーション制作:SMDE
制作:小学館集英社プロダクション
製作:超進化研究所
配給:東宝映像事業部

©プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・The Movie 2019

オフィシャルサイト

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