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以前の記事で、給料日前に給料債権を現金化する「給料ファクタリング」について解説をしましたが、「給料ファクタリング」と似たサービスに「給料前払いサービス」があります。
給料日より前に働いた分だけ現金が受け取れる「給料前払いサービス」についても以前から気になっていたので、今回詳しく調べてみることにしました。
「給料前払いサービス」とはどのようなサービスなのか?「給料ファクタリング」との違いは?などについて解説したいと思います。
- 1.給料前払いサービスとは?
- 2.給料前払いサービスの手数料(利用料)は?
- 3.給料前払いサービスを導入している企業例
- 4.「給料前払いサービス」と「給料ファクタリング」との違いは?
- 5.給料前払いサービスの問題点やデメリット
- まとめ
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1.給料前払いサービスとは?
給料前払いサービスとは、まず企業が給与の前借りシステムを導入します。
そのシステムを利用して前借りを希望する従業員がパソコンやスマホアプリなどから前借りを申請し、承認されると従業員の口座に現金が振り込まれたり、銀行やコンビニのATMから現金を引き出すことができるサービスです。
前借りした分は次に支給される給料から差し引かれます。
給料日前に働いた分の給与を好きな時に受け取れるというコンセプトで、新しい福利厚生制度の1つとして広まっています。
企業側としては、新規採用応募数が増え、更に離職率が低下するというメリットがあります。
給料前払いサービスのシステムは下図のようになっています。
(出典:前払いできるくん)
上記以外にも「enigma pay(エニグマペイ)」というサービスなどもあります。
また、大手商社の伊藤忠商事も「給与前払いサービス」に参入しています。子会社のマネーコミュニケーションズを通じて、「prepay pocket(プリポケ)」というサービスを提供しています。
給料前払いサービスの利用者とは?|給料の「日払い」ニーズは高い?
給料前払いサービスを利用しているのは、アルバイトやパートなどの非正規労働者の方が多いようです。非正規社員の中には、日払いで給料を受け取らないと生活ができない方もいるようです。
実際、アルバイトなどの求人サイトを確認すると、「日払い」のカテゴリーがあり、求職者からのニーズが高いことが分かります。
給料前払いアプリとは?
Fintech(フィンテック)企業が、スマホで給料の前借り申請ができるように作成しているアプリが給料前払いアプリです。
従業員はアプリで前借りを申請できれば、使いやすくなり、利用が促進されるでしょう。
給与前借りアプリには、下記のようなサービスがあります。
「payme(ペイミー)」
「CYURICA(キュリカ)」
なお、給与前借りアプリにはどのようなものがあるのかを調べていると、給料ファクタリングサービスのアプリも見付けました。
後述しますが、「給与ファクタリング」は、「給与前払いサービス」とは全く別モノなので、間違って利用しないように注意が必要です。
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2.給料前払いサービスの手数料(利用料)は?
給料前払いサービスには、大きく分けて2つのモデルがあります。
1つ目が上記の「前払いできるくん」のように企業が先に前払い分の給与をプールしておいて、従業員がプールされている現金を引き出す方式です。
2つ目が給料前借りサービスを提供している業者が従業員への前借り給与を立て替える方式です。
「前払いできるくん」のように企業が先に前払い分をプールする方式では、企業が月額使用料や都度の使用料などを負担することになります。
一方、立て替え払い方式の場合、従業員が現金を引き出す都度、引き出す現金から手数料が差し引かれることになります。手数料は1回数百円のサービスや前借給与額に対して3%~6%程度というサービスもあります。
3.給料前払いサービスを導入している企業例
調べてみると、給料前払いサービスを導入している企業は多いです。
例えば、きらぼし銀行では「前給」という給料前払いサービスを提供していますが、導入している主な企業は、下記の通りです。
- 日本マクドナルド株式会社
- 株式会社すかいらーく
- 株式会社セブン&アイ・フードシステムズ
- 株式会社松屋フーズ
- 株式会社コロワイド
- 株式会社幸楽苑
- サトフードサービス株式会社
(出典:きらぼし銀行)
「前給」の導入企業には外食産業が多いのが特徴です。
外食産業は、アルバイトやパートなどの非正規社員が多いので、導入する必要性が高いのでしょう。外食産業以外にもホテル業や人材派遣業、運送業なども「前給」を導入しています。
なお、「前給」の契約者数は、2017年で650社、登録者数108万人を突破しているそうです。それだけ給料前払いの需要が多いことが分かります。
4.「給料前払いサービス」と「給料ファクタリング」との違いは?
「給料前払いサービス」と「給料ファクタリング」は、給与の支給日前に現金を受け取れる点で似ていますが、サービス内容は異なります。
「給料ファクタリング」は「給与前払いサービス」とは違い、給与を支払う側の企業が登場しません。ファクタリング業者と従業員との2者間の契約となります。
給料債権を買い取るという形態にすることにより、給料ファクタリング業者は貸金業者とならないことになっていますが、実質的には貸金業者と同じです。
給料ファクタリングは、下記の記事を読むと分かりますが、実際は手数料という名の法外な金利でお金を貸しているヤミ金のようなスキームになっています。
5.給料前払いサービスの問題点やデメリット
「給料前払いサービス」は完全にクリーンなサービスかというと、そういうわけでもありません。「給料ファクタリング」と同じように「給料前払いサービス」にも下記のような問題点があります。
法的にはグレー?|給与の立て替えは、労働基準法違反?
上記の通り、給料前払いサービスには、大きく分けて2つのモデルがあります。
1つ目が企業が先に前払い分の給与をプールして従業員が現金を引き出す方式。2つ目が給料前払いサービスを提供している業者が従業員への前借り給与を立て替える方式です。
2つのモデルのうち、業者が給料の前払い分を立て替える方式は法的にグレーとされています。
実は、業者が給料を立て替え払いすると、労働基準法(賃金の直接払いの原則)に触れるおそれがあります。サービス導入企業が処罰対象になる可能性もあります。
貸金業法違反?利息制限法違反?立て替え払い方式の業者は、貸金業者に該当する?
立て替え払い方式の業者は、従業員が現金を引き出す際に1回数百円や3~6%程度の手数料を徴収しています。これは、手数料という名の利息を取って、給料日までお金を貸すのと同じという指摘があります。
手数料を金利と考えると、年率200%を超えるケースもあり、利息制限法が定める上限(最大20%)を大きく超えています。
現在のところ金融庁の見解では、給与前払いサービス提供業者は貸金業者ではないとされていますが、実質的には高利貸しと同じことをやっているようにも見えます。
給料の前払い制度を利用する従業員のデメリットとは?
立て替え払い方式の場合、前借りする側の従業員は、システム利用料として手数料が徴収されるだけでなく、現金を引き出す際にATM手数料なども負担する必要があります。
給料前借りシステムを利用すればするほど、実質的な手取りが減っていくことになり、利用する従業員には大きなデメリットとなります。
どうしも前借りしないと生活できないという場合は別として、欲しいものがあるから前借りするということを繰り返すと、それが習慣となり、無駄な手数料を支払い続けることになります。
給料前払いサービスは、従業員のための福利厚生制度という名目ですが、安易に利用できる給与の前借り制度は、本当の意味では従業員のためにならないでしょう。
まとめ
「給料前払いサービス」も提供している業者によっては、「給料ファクタリング」と同じような問題を抱えています。
また、若い時に給料の前借りをして消費する習慣を付けてしまうと、良くないことは安易に想像できます。
企業側も従業員を大切に思うのであれば、安易に利用できる給料前払い制度は導入すべきではないでしょう。
従業員の側も簡単に手続きできるからと前借り制度を利用すると、後々痛い目を合うかもしれません。