ジャック・ドーシーは、誰もが「Twitter的なSNS」をつくれる世界を目指そうとしている

ツイッターの最高経営責任者(CEO)であるジャック・ドーシーが、「脱中央集権化」されたソーシャルネットワークの標準化技術の開発に動きだした。まるで電子メールのシステムのように分散化されたSNSが実現すれば、ツイッターやユーザーにとって、いかなるメリットがもたらされることになるのか。

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CHRIS RATCLIFFE/BLOOMBERG/GETTY IMAGES

インターネットは誰のものでもない。サーヴァーを立ち上げる技術とホスティングの費用を払えるだけの資金があるなら、あなたが自分のサーヴァーに動画を投稿するのを止める者はいない。だが、YouTubeやFacebook以外の場所に動画を投稿するのは得策とは言えない。さらに、FacebookやTwitterがあなたの動画をシェアすることを禁じたとしたら、それを見つけてくれる人はいるだろうか?

しかし、YouTubeやFacebookといったプラットフォーム上で、誰もが何でも自由に投稿できるようにするというのも、いい考えではない。ハラスメントやヘイトスピーチ、リヴェンジポルノ、外国のプロパガンダといった問題に対処できるだけの力と責任は、ほんのひと握りの企業に集中している。

ツイッターの最高経営責任者(CEO)であるジャック・ドーシーは、それを変えたいと思っている。ドーシーは「脱中央集権化」されたソーシャルネットワークの標準づくりを開発する5人に対して、ツイッターが予算を提供すると12月11日(米国時間)にツイートした。さらにドーシーは、このチームが開発した脱中央集権化のための標準化技術を、Twitterが利用できるようになることも願っていると述べたのだ。

「ツイッターは最大5人のオープンソースアーキテクト、エンジニア、デザイナーからなる小規模の独立チームに出資し、ソーシャルメディアのためのオープンで脱中央集権化された標準づくりを実施します。最終的にTwitterが、この標準化技術のクライアントになることが目的です。🧵」

これはつまり、企業としてのツイッターがソーシャルネットワークとしてのTwitterを単独で管理するのではなく、ほかの多くの人々が自分たちの“独自ヴァージョンのTwitter”を運営できるようになるということだ。これは、さまざまな企業や非営利団体、個人が独自のメールサーヴィスを運営しているのと同じことである。

あなたはGmailからYahooへ、あるいは個人が運営するプロヴァイダーのサーヴァーへメールを送れるだけでなく、自宅でメールサーヴァーを立ち上げることもできる。これはメールが誰でも利用できるオープンスタンダードをベースにしているからこそ可能なことなのだ。

だからといって、すぐにでも自分用のTwitterを立ち上げられるようになると期待してはいけない。このプロジェクトはまだ立ち上がったばかりだ。ツイッターの最高技術責任者(CTO)であるパラグ・アグラワルが、「@bluesky」と呼ばれるこのチームの採用を進めている。

この新プロジェクトがどのようなかたちになるのかは、まだ明らかになっていない。「このチームには既存の脱中央集権化のスタンダードをさらに洗練されたかたちにするか、そうでなければ一から新たなスタンダードをつくり上げてほしいと考えています」と、ドーシーはツイートしている。「わたしたちTwitter, Inc.からの要求はそれだけです」

なぜツイッターにとってよいことなのか?

また、もうひとつ明らかになっていないのは、この脱中央集権化されたソーシャルネットワークから、ツイッターがどの程度の利益を得るのか、あるいはまったく利益を得ることはないのかということだ。

「これがなぜツイッターにとってよいことなのでしょうか? この脱中央集権化により、わたしたちはより大規模な公共の議論へのアクセスと貢献が可能になり、健全な議論を促進するオープンな推薦アルゴリズムの構築に注力できるようになります。またわたしたち自身は、これまで以上に革新的になることが求められるようになるでしょう」

ドーシーのツイートからは、ツイッターが脱中央集権化をコンテンツモデレーションの手段のひとつとして考えていることがうかがえる。ドーシーはテクノロジー専門ブログサイト「Techdirt」のエディターであるマイク・マズニックの論文が、脱中央集権化への動機のひとつとなっていると語っている。

「一部の巨大プラットフォームがオンライン上の言論を取り締まるのではなく、大規模な競争が行われることになるだろう。そこでは誰もが独自のインターフェース、フィルター、追加サーヴィスを設計でき、特定の人間による全面的な検閲に依存することなく最適なあり方を探っていくことができる」と、マズニックは述べている。

「これによりエンドユーザーは、特定の言論をどこまで許容するかを自分で決められるようになる。また、個人の言論を完全に封殺したりプラットフォーム自体が言論の可否を決定したりすることなく、大半の人々にとっては問題のある言論を避けることが容易になるだろう」

Mastodonというモデルケース

脱中央集権化されたソーシャルネットワークである「Mastodon(マストドン)」は、モデルケースのひとつと言えるだろう。誰でもMastodonサーヴァーを立ち上げ、アカウントを登録できるのだ。

Mastodonサーヴァーでアカウントを登録したら、そのサーヴァーと別のサーヴァーの両方でほかの人々をフォローできる。各サーヴァーの所有者は、許容される言動やコンテンツに関するポリシーを独自に設定し、ほかのサーヴァーから自分のサーヴァーへの接続をブロックすることもできる。

例えば、極右御用達のTwitterとも言える「Gab」は、ピッツバーグで起きたユダヤ教礼拝所の銃乱射犯の投稿をホストしており、今年はじめにMastodonネットワークに加入した。多くのMastodonサーヴァーとクライアントアプリがGabをブロックし、Mastodonの大規模なエコシステムから隔離した。

このアプローチにより、各コミュニティは自分たちの体験をよりコントロールできるようになった。Twitterがこれを採用すれば、オンライン上で何が許容されるのか、あるいは許容されないのかといったことを同社が単独で決めることがなくなる。

だが、これだけで巨大プラットフォーム企業が抱える問題がすべて解決するわけではない。例えば、問題のあるコンテンツを隔離しても誤情報などに関する問題の解決にはならないのだ。プロパガンダは閉じたグループの中で循環し、そうした環境では対抗言説が機能することも難しい。そのような状況がインドをはじめとするさまざまな場所で悲劇を招いてきた。

ツイッターがMastodonと同様のモデルを採用したとしても、ユーザーの大半が同社が管理する元のTwitterを利用し続けることになれば、実質的には一極集中と同じことになるだろう。

閉じたプラットフォームを目指してきたツイッター

一方で、一部のデヴェロッパーや企業家は、ツイッターのこのようなプロジェクトが長期的に見て生き残っていけるのかどうかを懸念している。同社は過去にも外部のデヴェロッパーがTwitterのクライアントやツールを開発できるように自由を与えたが、時間が経つにつれ、その自由は徐々に制限されていった。

「何千人ものデベロッパーがTwitterのAPI上でのプロジェクトの開発に注力し、大衆がアクセスしやすいプラットフォームづくりに取り組んでいました」と、駐車スペース予約アプリを開発するBoxcar Transitの共同創業者であるジョー・コランジェロはツイートしている。「その対価としてツイッターは閉じたプラットフォームをつくり、開発者たちのアクセスを制限したのです。また同じことを繰り返そうというのでしょうか?」

ドーシーはツイートでこの件についても触れている。「さまざまな理由により、当時は別の道を行くというのが合理的な選択でした。そしてTwitterは一極集中化していきました。しかし、時間とともにさまざまなことが変化しました」

問題は、ツイッターが既存のスタンダードを採用するのか、それとも新たにつくり出すのか、ということだ。既存のスタンダードで可能性があるものとしては、Mastodonをはじめとする多くのサーヴィスで利用されている「ActivityPub」と呼ばれるプロトコルがある。

ドーシーはツイートで、ビットコインをはじめとする仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)の基盤となっている分散型台帳でありデータベースのブロックチェーン技術に言及し、「(ブロックチェーンは)オープンで可用性が高いホスティング、ガヴァナンス、さらにはマネタイズにいたるまで、さまざまな脱中央集権化ソリューションを提示しています」と述べている。

アイデアの先へと進めるか

Mastodonとビットコインは、脱中央集権化において異なるアプローチをとっている。Mastodonはメールのような「連邦制」だ。メールの送受信時に利用するアプリ、例えば「Microsoft Outlook」は、他者と直接メールの送受信を行うわけではない。メールの送受信はサーヴァーを通じて行う。

これと同じように、Mastodonでは誰でもサーヴァーをホストし、別のサーヴァー上の他者とコミュニケーションすることができる。だが、メッセージの保存やルーティングに関しては、サーヴァーが依然として重要な役割を担っている。

ビットコインは「分散型」で、ピア・ツー・ピア(P2P)のファイル共有サーヴィスに似ている。ビットコインのネットワーク上では、ユーザーはビットコインのソフトウェアを使ってほかのユーザーと直接つながっている。分散型ソーシャルネットワーキング用のプロトコルとしては「Scuttlebutt」が存在するが、これはブロックチェーンベースではない。

ドーシーがツイッターの脱中央集権化を考えているというだけでも驚きではある。だが、それはまだアイデアの段階に過ぎないのだ。

※『WIRED』によるツイッターの関連記事はこちら

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色とりどりの情熱による“炎”で照らされた夜:「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2019」授賞式レポート

注目すべきイノヴェイターたちを発信し続けてきた「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2019」。その授賞式が12月12日に東京都内で開かれ、過去の受賞者も含むイノヴェイターたちが顔を揃えた。多くの来場者が詰めかけるなか開かれたパーティーでは、受賞者らによる展示のほかトークセッションやパフォーマンスが披露され、人々はボーダーレスな“革新”の数々を体感していた。

TEXT BY FUMIHISA MIYATA

PHOTOGRAPH BY KOUTAROU WASHIZAKI

未知の地平へと歩みを進めるためには、暗がりを照らす炎が必要だ。それも、色とりどりの情熱による炎が。イノヴェイターたちが集ったこの夜には、たしかに見たことのない火がともっていた。

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大勢の来場者が詰めかけた会場は熱気に包まれ、そして受賞者たちのパッションに溢れていた。PHOTOGRAPH BY KOUTAROU WASHIZAKI

イノヴェイションの共通項を求めて

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「イノヴェイションを起こすということのなかに、どんな共通項があるのか、ひとつの簡単な答えがあるわけではありません。けれど集まってくださったイノヴェイターの皆さんは、常識を疑い、見過ごされてきたもの、みんなが見ようとしてこなかったものに価値を見出だし、果敢に現実を変えていった方々だと思います」

アウディ ジャパンのマーケティング本部本部長シルケ・ミクシェは、「WIREDとAudiの長年にわたるコラボレーションの成果であり、わたしたちは『テクノロジーをクリエイティヴに活用することで人類を後押しする』という共通のミッションのもとに活動しています」と切り出した。そして松島が話題に出した環境問題というトピックを引き合いに出しながら、こう続けた。

「いま、責任あるテクノロジーの進歩と社会のイノヴェイションが、かつてないほど重要になってきています。このアワードは独創的なアイデアや強い情熱、意思をもって、世界をよりよい場所にすることに貢献してくださった方々に光を当て、顕彰するものなのです」

会場に集ったイノヴェイターたちは、音楽家・細野晴臣をはじめとして、世代も性別も多様な人々だ。そのなかでスピーチした渡部清花は、1991年生まれ、本年のアワードでは最年少の受賞者である。

日本にいる難民たちの活動機会をつくるNPO法人WELgeeを率いる彼女は、「女の子たちをエンパワーする歌を歌い続けてきた女の子、“信頼できない国家”を越えようとしているブロックチェーンの技術者……弾圧されても希望を捨てずに逃れてきた若者たちの仕事をつくる、ということをしています」と切り出した。未来への「責任」というシルケの言葉がこだまする。

「でも難民という枠に押し込められてしまうと、その多様性に社会は気づけない。イノヴェイションも、異なる価値観が出会う場所に生まれると思っています。男とか女、日本人や外国人という境界線を溶かしていって、既存の“当たり前”を突破していくことから、新しい社会の姿も見えてくると思います」

夜をやがて照らし出すもの

この夜ならではのトークセッションの場も設けられた。土地ごとの歴史を徹底的にリサーチしてかたちにすることで知られる建築家・田根剛、近年は伝統工芸をテーマとするアーティストの舘鼻則孝、そして松島によるトークセッションは、「技術による先進」「ナラティヴと実装」「未来の記憶」という3つのテーマで進められた。

「まずは歴史や社会を学ばなければなりません。イノヴェイションとは本来そういうもの。建築というモノの中に技術が記憶されていれば、そこからストーリーが生まれ、継承していけるのではないか。そして建築家という職業自体の技術力というのは、そうやって未来へ向かって建築を構想する力だと思います」(田根)

「いままで積み重ねられてきた伝統文化が、革新の積み重ねなんですよね。ぼくも展覧会を開くときは、何も知らないところから調べて、学ぶ。一連のプロセス自体が創作活動なんです。その上で、現代を見据えて、この時代に何をすべきかを考える。いましかできないことは何なのか考えることが、結果的に革新につながるのではないでしょうか」(舘鼻)

建築家・田根剛とアーティスト・舘鼻則孝、そして『WIRED』日本版編集長・松島倫明によるトークセッションは、「技術による先進」「ナラティヴと実装」「未来の記憶」という3つのテーマで進められた。PHOTOGRAPH BY KOUTAROU WASHIZAKI

多様な価値観に彩られた華やかな夜。その最後を飾ったのは、自らを「通りすがりの天才」と称する開発者で、「AR三兄弟」の“長男”こと川田十夢によるARパフォーマンス(本人いわく“余興”)だった。

「iPhone 11 Pro」のインカメラとアウトカメラを同時に使うことで、“撮影している人も写ることができる”記念撮影。アスリートやバク宙している人物の映像における2Dの骨格情報を3Dに置き換えることで、自分が街中でとんでもない動きをしている映像を生み出す技術。

「半分はネタなんだけど、半分は未来を予見する」と川田が言うような、クスッと笑える技術の数々からは、イノヴェイションに必要な余興ならぬ「余裕」の重要性が伝わってくる。なぜなら、夜をやがて照らし出すのは、いつだって明るい光であるからだ。

「通りすがりの天才」こと開発者でAR三兄弟 長男の川田十夢によるパフォーマンス。クスッと笑える技術の数々からは、イノヴェイションに必要な余興ならぬ「余裕」の重要性が伝わってきた。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

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