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【社説】

ロヒンギャ救済 動け!スー・チーさん

 イスラム教徒少数民族ロヒンギャを巡り、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は国際法廷でジェノサイド(民族大量虐殺)を否定した。本当か。ロヒンギャに直接聞いてみてはどうか。

 舞台はオランダ・ハーグの国際司法裁判所。ミャンマー国軍のロヒンギャ掃討作戦はジェノサイド条約違反だとして、同国を相手にイスラム協力機構を代表して西アフリカのガンビアが提訴した。

 スー・チー氏は法廷で「国際人道法を無視した国軍の武力行使がいくつかあったことは排除できない」としたものの、ジェノサイドではないと主張した。

 不法移民とみなされ国籍を与えられていないロヒンギャは、二〇一七年八月、国軍との武力衝突の後、殺人、放火、性暴力の末、隣国バングラデシュに約七十万人が逃げ込んだままになっている。

 国際社会からの圧力を受けたミャンマーとバングラの両国はこの二年余で複数回、ロヒンギャの帰還を目指したものの、ほとんど実現していない。国軍勢力や国民の九割近くを占める仏教徒、そしてスー・チー氏が党首の与党・国民民主連盟(NLD)すら「反ロヒンギャ」の姿勢だ。

 宗教の違いなどがあるにせよ、いわば国を挙げてのヘイト状態である。ロヒンギャの人々が、家族や友人を殺したり乱暴したりした兵士らが待つミャンマーに帰りたくないのは当然だろう。

 民主化された一六年以来、実質的な国家指導者になったスー・チー氏は、来年末の総選挙で政権基盤を固めるために、ロヒンギャが被る不条理に目をつむり、大多数の国民の差別意識に与(くみ)したのか。

 同氏は軍政当時、自宅軟禁などの弾圧をかいくぐって民主化の旗を振った運動家。日本でも「スー・チーさん」と親しまれ一九九一年にノーベル平和賞を受けた。運動の基本は自宅前で毎週のように開いた対話集会だった。軍政から妨害を受けながらも一般大衆と対話し、自らの信念を伝え続けた。

 ロヒンギャは国籍を与えられるべきである。殺人やレイプをした兵士らは罰せられなければならない。しかし、何よりもスー・チー氏が国内に広がるロヒンギャ差別の空気を変えるために行動することが求められる。でなければ帰還は実現しないだろう。

 国のあり方を変えるために闘ったスー・チー氏だ。かつての活動を思い出してロヒンギャと直接対話し、問題解決の第一歩を踏み出してほしい。

 

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