欧州連合(EU)離脱を進めたい-英総選挙で改めて示された民意だ。さいは投げられた。離脱を巡る国民の分断修復、EUや各国との新たな関係づくりなど、待ち受ける難題を乗り切ってほしい。
離脱の是非を巡る三年半前の国民投票では離脱派が残留派をわずかに上回った。その後、離脱交渉の難しさや、離脱により移動や物流に大きな支障をきたすことが明らかになり、残留を求める声が強まったかにも見えていた。
しかし、総選挙では、来年一月末の離脱を訴える与党、保守党が単独過半数を獲得し圧勝した。
いいかげん決着をつけてほしい、という有権者の「離脱疲れ」は大きかった。ジョンソン首相のカリスマ性に対し、最大野党の労働党は国民投票再実施を主張したものの離脱の是非についてはあいまいで、人気は伸び悩んだ。
EUに主権を奪われる不満、大英帝国への郷愁などの英国人の根強い思いが、根底で作用した選挙結果だったのかもしれない。
方向性が見えてきたEU側はある面、ほっとしているだろう。
離脱協定案が議会で可決されれば来年一月末に離脱、その後は同年末まで、激変緩和のための移行期間に入る。日本など各国やEUとの新たな自由貿易協定(FTA)締結に加え、課題は多い。
EU加盟国アイルランドとの自由な往来維持のため、英領北アイルランドのみをEU単一市場に残すとの協定案は、地元の反発を招き、アイルランドとの統一支持派を勢いづかせ、紛争再燃の火種ともなりかねない。
特産品スコッチウイスキーのEU輸出にも関税が課せられるようになるスコットランドでは、再び独立を求める声が高まるだろう。
英国全体でもEUからの食品や医薬品の輸入に関税がかかり、高騰や供給不足を招く。対応策は見えないままだ。
検問復活で留学や旅行が不自由になる若者らの不満には、どう応えるのだろうか。
EUとの交渉がまとまらないまま、「合意なき離脱」に陥る可能性もまだ残る。英国進出日本企業は約一千社。不透明な先行きに、英国からの撤退や拠点移転などの対応に追われている。
離脱では英国が「縮む」将来しか見えないが、英国民の決断だ。知恵を編み出すと信じたい。
パフォーマンスが目立ったジョンソン氏の真価が問われる。難題への粘り強い対応を求めたい。
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