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 欧州連合(EU)からの離脱を「やり遂げる」――。そう公約していた英国のジョンソン首相が総選挙で勝った。与党の保守党単独過半数を制し、1月末での離脱が濃厚になった。

 国民投票から3年半。迷走を続けた「ブレグジット」問題が一つの節目を迎える。この結果は、民意が示した指針として重く受け止めねばならない。

 議会の混沌(こんとん)が長引いたため、英国民の間では疲労感が広がっていたという。最大野党の労働党は離脱か残留かを表明せず、両方の支持者を失った。

 「何が何でも」と強硬姿勢を貫いてきたジョンソン氏は、党内の穏健派を追放した。「やり遂げる」と大書きした掘削機を運転して壁をぶち抜くパフォーマンスも見せた。

 しかし、そうした言動の派手さとは裏腹に、離脱後の英国の姿は一向に見えていない。

 欧州統合の流れに背を向けて、英国はこれからどんな秩序を志向するのか。多国間協調を重んじるのか、それとも単独行動の傾向を強めるのか。

 離脱に踏み切る前に、ジョンソン氏は新たな英国がめざす理念と将来像を、国際社会に明示してもらいたい。

 ジョンソン氏の討論発言や、保守党マニフェストを見る限りでは残念ながら、内向きな姿勢が目立つ。とくに移民政策では、資格審査を強め、非熟練人材の受け入れ抑制を強めるとしている。

 財政では、この9年間保守党が守った緊縮路線をやめて、公共投資を増やすという。移民規制と財政的なテコ入れにより、「主権を取り戻した」英国の復活を強調する思惑のようだが、そこには閉鎖的な自国第一主義がちらつく。

 離脱について国民の意見はいまなお真っ二つに割れている。その現実を、ジョンソン氏は忘れてはなるまい。スコットランドでは、EU残留派の議席が伸びた。欧州の一員の自覚が強い若者層も含め、首相は誠実に対応する必要がある。

 北アイルランドでは、宗派対立の再燃の不安も抱えている。英国の統一性そのものが試練をくぐる覚悟が必要だろう。そのためにも首相は、国民の分断の修復を急がねばならない。

 来月に離脱すれば、来年末までが移行期間となる。その間、EUとの貿易協定の交渉という新たな難問が待っている。

 協定がまとまらなければ、再び「合意なき離脱」に陥る。ジョンソン氏は移行期間の延長も視野に入れ、確実に中身の整った協定を仕上げてほしい。

 問われているのは、今後の英国がEU及び国際社会と、どんな健全な関係を描くかである。

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