この数年の間にエリシア・クロロティカを収集できたのは、たった1つの研究グループ、米サウスフロリダ大学の名誉教授、シドニー・ピアース氏のチームだけだ。場所は、米マサチューセッツ州マーサズ・ビンヤード島にあるたった1つの塩沼だ。このウミウシを調査してきた研究者たち同様、ウミウシの希少性を考慮して、正確な場所は公表していない。
過去にエリシア・クロロティカを重点的に研究していた米メーン大学の研究者、カレン・ペレトロー氏も、マーサズ・ビンヤード島とカナダのノバスコシア州の1カ所でしか収集していない。最近になって、かつては見つかったメーン州の場所をいくつも探してみたものの、いずれも無駄に終わっている。
1カ所でしか見つからない
エリシア・クロロティカを見つけることは「難しいです。とても難しいです」と、ペレトロー氏のかつての指導教員であり同僚でもあったメアリー・ルンフォ・ケネディ氏は述べる。彼女は何十年もの間このウミウシを研究し続けてきたが、何年も前に引退した。「どこを探すのか、何を探すのかがはっきりわかっていないと、見つかりません」と同氏は言う。
西海岸のウミウシを多く研究してきたUCLAのクルーグ氏は、マサチューセッツ州ウッズホールで探したことがあるが、やはり見つからなかった。
彼が主に研究しているのは、エリシア・クロロティカに近いアルデリア (Alderia) 属のウミウシだ。彼らはエリシア・クロロティカと同じ藻類を食べ、同じように塩沼に生息する。塩沼とそこにすむ生物は、海面レベルの上昇、温暖化による気候変動、そして開発によって大きな影響を受ける。(参考記事:「致死量の8000倍の毒に耐える魚、進化の秘密を解明」)
「人々が考える以上に、こうした生息地はもろくなっている可能性があります」とクルーグ氏は言う。同氏が言うには、塩沼で生物の生息数を調査した報告は1つもないという。
さらに、エリシア・クロロティカを実験室で育てるのも難しい。成体は1年足らずで命を終える。繁殖させるには丁寧な世話が欠かせない。卵から孵ってしばらくは水中を泳ぎまわり、何種類もの藻類を食べる。だが亜成体になると、バウチェリア・リトレア (Vaucheria litorea) という別の種類の藻を食べるようになる。この藻は、培養が難しく、生育も遅い。(参考記事:「クロレラとクマムシ」)
「藻を育てるより早く、ウミウシが藻を食べてしまうのです」と、30年以上彼らを研究してきたピアース氏は言う。「食べ盛りの子どもたちを育てるようなものです」
ルンフォ氏とペレトロー氏のグループ、そしてピアース氏のグループは、実験室で何世代もウミウシを繁殖させてきた。しかし、野生での収集のほうがまだ簡単だというくらい、育てるのは難しい。さらに、ウミウシは驚くほどの量の粘液を出し、DNAや分子の分析を困難にする。
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