二〇二〇年度の与党税制改正大綱が決定した。次世代通信規格(5G)普及やベンチャー投資を行う企業への優遇措置が柱だ。消費税増税で暮らしが圧迫される中、企業への配慮が手厚過ぎないか。
現行の最大百倍の通信速度を持つ5Gは農業や建設現場を含め幅広い用途が期待されている。米国や中国を軸に日本を含む各国が5Gの開発競争にしのぎを削っており、ここへの税制上の配慮は理解できる。
しかし、現段階で5G技術を駆使できる企業は限られる。優遇対象になるのは、やはり大手の携帯電話事業者が中心になるのではないか。携帯各社に対しては料金面などで依然、消費者からの不満が強い。優遇が経済の活性化につながるのかしっかりとした説明が必要不可欠だ。
革新性を持つベンチャー企業に投資する企業への優遇は、資金の流れを促すことが狙いだ。財務省が公表した法人企業統計によると、一八年度の企業の内部留保は約四百六十三兆円と過去最高を更新した。企業がもうけた資金を賃金アップや設備投資に回していない証拠でもある。
今回の措置で投資を促し内部留保を出させようとする狙いだ。だが企業がここまでため込んでいる理由は、景気の先行きがはっきり見通せないからだ。
米中の貿易対立は依然、世界景気に暗い影を落としている。この結果、本年度の税収見通しは二兆五千億円程度も下方修正せざるを得ない。原因は企業からの法人税が減ったことに尽きる。この状況下でベンチャー投資をできる企業は少ないのではないか。効果は未知数と言わざるを得ない。
寡婦(夫)控除については未婚の場合も対象とすることになった。長年、不公平との指摘が多かった問題であり、今回大きく改善されたことは評価できる。
ただ五百万円以下の所得制限は付いたままだ。所得が五百万円あっても子育て世帯の生活は楽ではない。制限の緩和を求めたい。
安倍政権下の税制は企業活動への対策に軸足を置いていた。財務省によると法人税額から一定額を差し引く「税額控除」による減税額は、一一年度と比べ一七年度は三倍も拡大。企業への手厚い姿勢が数字でも裏打ちされた形だ。
税の基本の一つは「公平」である。企業だけでなく、暮らしにこそきめ細かく配慮した税制を望みたい。
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