『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』続3部作、なぜ物語を固めずに製作されたのか ─ 神話の再開、『スカイウォーカーの夜明け』への軌跡
2012年。ディズニー/ルーカスフィルムは、キャスリーン・ケネディ指揮下のもと、おなじみの伝説的キャラクターを再登場させながら、新たなキャラクターと脅威を描き、「スカイウォーカー・サーガ」を拡張完結させるという壮大な冒険に繰り出した。それから7年、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)、そして『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019)は、物語自身も、製作舞台裏も、まさに紆余曲折を経ながら、ついに終着点に辿り着こうとしている。
『フォースの覚醒』では“シリーズ作再生請負人”J・J・エイブラムス監督が懐古主義と秘密主義と共に新章を切り開いたかと思えば、『最後のジェダイ』では気鋭ライアン・ジョンソン監督が独自の解釈で新たなスター・ウォーズ像の確立を試みた。賛否を呼んだこの続編への議論は未だ完全には収束しないまま、最終作『スカイウォーカーの夜明け』で監督の座は再びJ・Jの元に戻る。
完結した神話の再開
この3部作の製作過程をアートワークと共にまとめ上げる書籍『アート・オブ』シリーズの著者フィル・スゾスタックは、『フォースの覚醒』当時にこんなことを書いていた。そもそもスター・ウォーズは『エピソード6/ジェダイの帰還』(1983)で完結している、というのだ。「銀河帝国の崩壊をもって、ルークと友人達、そして銀河全体の物語は“めでたしめでたし”の大団円を迎えたはずだった。その後のキャラクターについて、語るべき物語があるだろうか?」と。
しかし、脅威は完全には消えていなかった。銀河帝国の残党が新たにファースト・オーダーと呼ばれる軍事組織を形成し、その裏では不気味な最高指導者スノークが銀河を牛耳ろうと試みている。反乱軍の英雄らは、もう一度力を振り絞ってレジスタンスを結成。その最中、「ルーク・スカイウォーカーが消えた」……というのが、『フォースの覚醒』に始まる新しいスター・ウォーズの筋書きだ。
新キャラクターの出自の謎や、過去作との間に生まれた溝は、中間作『最後のジェダイ』でライアン・ジョンソンに委ねられた。この作品でライアンは、単独での脚本執筆を許されており、その創造の根底には作品に対する「個人的な」観念が紐付いていたと、書籍『アート・オブ・スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に語っている。
僕達が『最後のジェダイ』のデザインワークを始めた時、J・Jはまだパインウッドで『フォースの覚醒』を撮影中で、映画は形になっていなかった。この状況に心から感謝せざるを得ない。僕達の作品を具現化するにあたり、とてつもなく重要な最初の1年間に、『フォースの覚醒』への世間の反応を見ずに済んだ。自分達の気持ちを見つめるだけでよかったのだ。
つまり、ライアンは脇目も振らず、自らの直感に頼って『スター・ウォーズ』に独創的な解釈をもたらした。(これが賛否を呼んだのも事実だ。)続く完結作『スカイウォーカーの夜明け』では、『ジュラシック・ワールド』(2015)を大ヒットに導いたコリン・トレボロウに一度メガホンを委ねたが後に降板劇があり、再び『フォースの覚醒』J・J・エイブラムスの元に戻ることとなった。まるでスカイウォーカーのライトセイバーのように、スター・ウォーズは様々なフィルムメイカーの手にあちらこちらへと渡ってきたわけである。
監督を統一しない理由
このように、3部作を通じての統括監督を掲げない方針は、キャスリーン・ケネディに言わせればオリジナル3部作の踏襲だ。「つまり、ジョージ(・ルーカス)が毎回違う監督を起用していた、ということです。彼はプロデュース業に留めていました」と米io9に語っている。
銀河の“創造主”ジョージ・ルーカスは、自らの手で『エピソード4/新たなる希望』(1977)を撮ってから、『エピソード5/帝国の逆襲』(1980)『エピソード6/ジェダイの帰還』(1983)ではそれぞれ別々の監督に委ねている。「私たちも似たような方針を取るつもりでした。ジャンルを分けて、フィルムメーカーに委ねる。J・Jとライアンの場合はスター・ウォーズの大ファンでしたから、彼らにドップリ浸かってもらって、物語の核心作りは任せました。これが肝心なところです。ジョージがいつも、作品の意義付けについて言っていたことですから。」キャスリーンの理解はこうだ。「監督にとっても、彼らは自分のやりたい表現の中で言いたいことを言うべきだと思いますし、彼らにとって個人的なものを見つけないといけないと思うんですよ。」
「なぜ3部作全体の調子を『フォースの覚醒』の時点で固めなかったのか?」という質問に対しては「スター・ウォーズに、固められるものなんてありませんよ。無理ですもの」と回答。「可能性に満ちているから、何も先に決めてしまう必要なんてない。そんなことしたら、他の可能性や検討事項に触れられなくなっちゃうでしょう。」
おそらくは、ここで生じた可能性というもののひとつが、例えば『スカイウォーカーの夜明け』パルパティーンの再登場なのだろう。『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』では実質的に言及されなかったこの暗黒卿の復活は、どうやらJ・J・エイブラムスが『スカイウォーカーの夜明け』監督に就任してから掘り起こされたアイデアらしいと思われたが、キャスリーンの一連の発言をもって合点がいく。「スター・ウォーズ・ファンの賢い人達と一緒にいるとね、もう止まらないんですよ。私は7年間やってきて、ハッキリ感じました。これこそが楽しいんだなって。ファミリーに新しい人が入ってくると、彼らの意見が製作で重要になっていくんです。」キャスリーンはこのように、続3部作の構築には敢えて創造上の余白を残していたことを説明している。
こうした「固めない」という方針は、共同プロダクション・デザイナーのリック・カーターの『フォースの覚醒』当時の言葉によく表れている。リックは、新しい『スター・ウォーズ』の製作について「フォースを探求する旅」と表現して、こう語っていたのだ。
作品に関わった我々も、まだその全容を理解しているわけではない。だから今は作品自体が語るに任せるしかないだろう。僕にとってのフォースとは、そういうものだ。
……でも、予め方向性を完全に固めずに走るなんて、ギャンブルのようじゃないかって?Never Tell Me The Odds!
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Source:io9
フィル・スゾタック (著), リック・カーター (著), 秋友克也 (翻訳)『アート・オブ・スター・ウォーズ/フォースの覚醒 』ヴィレッジブックス,2015
フィル・スゾタック (著), ライアン・ジョンソン (著), 秋友克也 (翻訳)『アート・オブ・スター・ウォーズ/最後のジェダイ』ヴィレッジブックス,2017