新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団(以下,NJBP)は2019年12月8日,RPG
「ウィザードリィ」を題材としたオーケストラコンサート
「NJBP Live! #12 “ささやき-えいしょう-いのり-ねんじろ!”」を,東京都北区・北とぴあで開催した。
本公演は,ファミリーコンピュータ向けに1987年と1989年に発売された
「ウィザードリィ 狂王の試練場」「ウィザードリィ2 リルガミンの遺産」の全楽曲を,管弦楽のアレンジで演奏したものである。
ファミコン版のWizが登場してから30年以上が経過しているが,その名声の高さとは裏腹に,関連イベントが開催されることは非常にマレである。(筆者が知らないだけかもしれないが)オケコン自体,今回が初めての開催かもしれない。またとない機会となった本公演には歴戦の冒険者らがかけつけ,400席近くの会場はほぼ満席となっていた。
“ささやき-えいしょう-いのり-ねんじろ!”
Wizの楽曲が一夜限りのコンサートでよみがえる
「ウィザードリィ 狂王の試練場」(1987年)
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あらためて紹介すると,NJBPは,ゲーム音楽を主体として活動するオーケストラの非営利団体である。NJBPの代表を務める
市原雄亮氏の紹介によると
「日本初のゲーム音楽プロオーケストラ」で,同楽団には奏者としてプロフェッショナルなだけでなく,“ゲーム好き”の人材が多く在籍しているという。知る人ぞ知るゲームの楽曲も積極的に演奏しており(
※過去の演奏楽曲一覧),通算50回目の主催公演のテーマとして白羽の矢を立てたのが,ファミコン版Wizというわけだ。
当日のコンサートは2部構成で,前半は「ウィザードリィ 狂王の試練場」,後半は「ウィザードリィ2 リルガミンの遺産」の全楽曲を,それぞれ30分近くにわたって一気に演奏するスタイルとなっていた。
当時の経験者ならよく覚えているだろうが,
羽田健太郎氏が手がけたファミコン版Wizの楽曲は,FC音源とは思えない重厚さが感じられるものとなっている。また,唯一発売されたサウンドトラック
「ウィ・ラブ・ウィザードリィ」の収録曲はオーケストラ調で,そのサウンドは当時における一般的な“ゲームミュージック”とは明らかに一線を画していた。Wizとオケコンの相性が抜群であることは想像に難くない。
筆者はWizのマニアではないが,ファミコン版をリアルタイムで経験し,本公演のことを知った直後に迷わずチケットを予約した程度には熱心なファンである。「ウィ・ラブ・ウィザードリィ」や「組曲ウィザードリィII リルガミンの遺産」のサントラCDも入念に復習したうえで会場に足を運んだが,ゲーム音楽を主体として活動するNJBPによる生演奏は,その期待を軽く上回る内容であった。
基本的には原曲(サントラ)を尊重したアレンジで,Wizの格調高さや重厚さが,そのままスケールアップした感じだ。また,本公演の編曲を担当している
羽田二十八氏は,羽田健太郎氏へ憧れからそのペンネームを名付けるほどの人物で,細かなアレンジも聴き応えたっぷり。オーケストラとして見ると人数はそれほど多くはなく,打楽器もない構成なのだが,聴いて物足りなさはまったく感じない。
とりわけ,オープニング・テーマの最初の音が鳴り響いた瞬間の「なにかとんでもないことが始まった!」という手応えは,残念ながら筆者の表現力では到底伝えられない。これに関しては本番音源が
期間限定で公開されているので,当日の会場に足を運べなかった人も,以下のツイートからその雰囲気の一端を感じ取ってもらえれば幸いだ。
詳しくは以下の曲目を見ていただきたいが,一部はメドレー構成で,全体として冒険者目線でのストーリー仕立てになっていた点も興味深かった。
ギルガメッシュの酒場で冒険者がパーティを組んでダンジョンに挑戦。そして戦闘に勝利し,ファンファーレが高らかに鳴り響く。……しかし,ブレイクの後に演奏された曲は「全滅」。その後は別のパーティが救出に向かってカント寺院で蘇生し,紆余曲折のすえ,ついにワードナから魔除けの奪還に成功するという流れだ。
Wizというゲームは各演出があまりにも簡素で,それをプレイヤーが逆手に取り想像力で補うのも大きな醍醐味だったことを,あらためて実感した次第である。
【第1幕の曲目】
第1曲 オープニング・テーマ
第2曲 城 ― ギルガメッシュの酒場
第3曲 ボルタック商店 ― 町はずれ
第4曲 地下迷宮 ― 戦闘
第5曲 全滅
第6曲 キャンプ ― カント寺院
第7曲 冒険者の宿
第8曲 ワードナ
第9曲 任務完了
忍者増田さんを招いてのウィザードリィ昔話
NJBP代表の市原氏も“リセットなし”でプレイ中
1幕と2幕がそれぞれ始まる前には,NJBP代表の市原氏がステージに登壇。また,Wiz好きとして知られる
忍者増田さんをゲストに招き,当時の昔話などが語られた。
忍者増田さんが最初にWizに触れたのは,ファミコン版より前に発売されていたPC-8801版だったそうだ。この頃のWizは,ダンジョンの描画がワイヤーフレーム(のみ)で,アイテムを鑑定するたびにフロッピーディスクを長時間読み込んだり,BGMが一切なかったりと,現在の基準で見るとあまりにも厳しい仕様であった。
もっとも,コンピュータRPG自体がまだまだ珍しい時代だったので,忍者増田さんは“そういうもの”だと受け止めつつ,佐野元春のポップな曲をBGMで流しながら純粋に楽しんでいたそうだ。
「Wiz=パソコン版=“そういうもの”」という認識の忍者増田さんが初めてファミコン版のWizを見たときは,心底驚いたとのこと。なにしろUIのレスポンスは軽快で,
末弥 純氏のデザインによるモンスターも雰囲気たっぷり。そして羽田健太郎氏による重厚感あふれる楽曲も収録されている。
当時のパソコン版Wizには,こだわりの強いフリークがたくさんいたそうだが,そういった人も納得せざるを得ない移植だったと,当事者としての感想を語った。
左から忍者増田さん,市原雄亮氏
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ちなみに,当時の忍者増田さんはパソコンゲーマーとしてのプライドのようなものがあったのか,ファミコン版の発売直後は意地を張ってプレイしなかったそうだ。しかし観念して触れてみると,「これはもうパソコン版には戻れないな」と,あっさり改心。その後,ゲームボーイ向けに発売された外伝作では,「オートマッピング機能が搭載されたことが何よりも嬉しかった」と,(ある意味)意外な一面をのぞかせていた。
そのほかにも忍者増田さんは,雑誌「LOGiN」などでWizにちなんだ連載記事を執筆したり,トレードマークの忍者服を着た姿を外伝に登場するモンスターのグラフィックスとして採用してもらったりと,公私ともにどっぷりハマり続けて,現在に至るそうだ。
一方の市原氏は,幼少期からファミコンなどを片っ端から遊んでおり,現在もレトロゲーマーを自認しているが,意外なことにWizは未経験だという。そこで本公演を主催するにあたり,
実際にファミコン版Wizのゲームプレイを開始。しかも攻略情報を一切見ず,マッピングも手描きで行っているそうだ。
さらにリセット技も使っていないとのことで,けっこうハードルは高そうだが,「たった1マスずれるだけでパニックに陥るけど,その怖さも含めて楽しい」「このゲームをまっさらの状態で遊べるのが幸せ」と,コアゲーマーらしい感想を語っていた。
市原氏が配信している動画ページの一覧は「こちら」
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ちなみに市原氏は,Wizをプレイする様子をYouTubeで配信しており,忍者増田さんもこれを見ているとのこと。ハリトやバディオスを躊躇なく使う市原氏に対し,忍者増田さんは「レベル1呪文にはカティノやディオスがあるんだけど……」などとツッコミを入れつつも,自身の当時を振り返りながら一緒に楽しんでいるそうだ。
そして言うまでもなく,本公演の主題となるファミコン版の楽曲に対しても,市原氏はその完成度の高さに度肝を抜かれているとのこと。ただ,羽田健太郎氏だけでなく,ファミコン版Wizで音楽プログラムを担当した
大野木宣幸氏(当時はゲームスタジオに所属)も他界しており,「彼ら2人に,この公演を聞いてもらいったかった……」と肩を落としていた。
そんな市原氏は今回のプロジェクトに対し,主催者として大きな手応えを感じているそうだ。まだ検討中と前置きしつつも,クラウドファンディングを用いるなど,
何かしらの手段で音源として形にできないか模索しているとのことなので,続報に注目したい。
【第2幕の曲目】
第1曲 ウィザードリィII・オープニング・テーマ
第2曲 リルガミンの遺産 ― ギルガメッシュの酒場II
第3曲 町はずれのテーマ ― カント寺院II
第4曲 ボルタック商店II ― 冒険者の宿II
第5曲 ダンジョンのテーマ ― キャンプII
第6曲 戦闘のテーマ ― 全滅~レクイエム
第7曲 ル・ケブレス
第8曲 ウィザードリィII・エンディング・テーマ
(アンコール) オープニング・テーマ
2019年にWizのオケコンが実現するマハマン級の奇跡
現在のWiz(特に#1~3,5)は,主に権利関係の問題により,リバイバル等の新展開が行いにくい状態にある。今のところ,その名声はまだゲーマー間で語り継がれているように見えるが,肝心のゲームが遊びにくい状態が今後も長く続くと,少しずつ変化しかねないだろう。
筆者もゲームメディアの一員としてこの状況を危惧しているが,個人ではどうしようもない問題でもあり,半ば諦めかけているというのが正直なところだ。
それだけに,多大な労力を要するであろうWizのオケコンが2019年に実現するとは,まさか夢にも思わなかった。しかも想像を遙かに上回るクオリティでだ。
個人的に,公演の最中は「良い曲だった」「懐かしかった」「30年待った」といったシンプルな感想ではなく,上記を含めたさまざまな想いが去来した。言葉ではうまく伝えにくいのだが,なんというか,一音一音がかけがえのない宝物のように感じられたのだ。そして最後の曲目として演奏されたウィザードリィII・エンディング・テーマが終わりに近づくときは,感動するとともに「あぁ,もう終わってしまう……」と絶望もしてしまった。
しかし,それでも,NJBPが今回このような機会を設けてくれ,歴戦の冒険者とともにステキな時間を過ごさせてくれたことに,一人のファンとして深く感謝している。この歴史的なプロジェクトが一夜限りの公演で終わらず,今後へ続く第一歩となることを心から期待したい。
NJBPは今後,2020年2月23日に「ドラゴンクエスト金管五重奏」,4月26日に「ファン感謝デー 2020」,5月16日に内容未定の「NJBP Live! #13」を予定。詳細はNJBPの公式サイトおよび公式Twitterで随時公開予定だ
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