雑記帖(読書ノートとか)

辛めで長文のブックレビューと日記です。初めての方は「ご案内」からどうぞ

全体表示

[ リスト ]

上村喜代治『インパール』(光人社NF文庫,2000)読了しました


総合評価 ★★★★
(帝国陸軍のなかでも有数の精鋭、第三十一師団歩兵第五十八聨隊第二機関銃中隊の生存者が陣中日誌を作成していた際の記憶と生存者の手記や証言をもとにインパール作戦発動から武装解除までを主に兵としての視点から描いた戦記)


内容の概説
 著者は5年現役兵―即ち現役兵として入隊しその後5年経ってもまだ上等兵―といういかにも私好みの古参兵(どういうわけかインパール作戦から帰ってくると突然二階級特進して下士官になってしまうのですが…)。基本的に闘争本能が強すぎるからか上官に反抗するのでなかなか出世しないのですが激戦地に出て生き残るのはこういう人が多いみたいなんですよね…
 ちなみに著者の場合は、初年兵のときの支那事変の宜昌作戦の際に、居眠りをしている間に敵の奇襲を受け所属大隊に置き去りにされてしまったらしいのですが、そこに逃げる際に放置してあった重機を一人で操作して敵を撃退したまではいいのですが、先に重機を置いて逃げた上、隠れてでてこない分隊長や中隊長をその場で罵ったのが原因で進級しなかったとのこと。
 まあ、まったく昇進しなくっても5年現役兵ともなれば下士官でもなかなか頭が上がらない存在のようですからある意味気楽。しかもこうした経緯があるので当然兵隊としてはきわめて不真面目な部類に入るわけで普通の戦記物にはあまり出てこないような話が結構出てきます。
 とりわけ目を引いたのは兵卒なのに大尉のふりをすることがたびたびあったようでその格好で下級士官を怒鳴りつけてみたりとかかなり無茶なことをインパール以降の後退戦闘の道中でやっています。色合いとしては普通の兵士が書いたものよりはやや兵隊やくざに近いノリはあるかもしれません。
 しかし記述の大半を占めているのはコヒマの攻防戦、そしてその後の悲惨な退却の様子です。実際にコヒマから生還したというだけでも稀少なわけですが、中隊の陣中日誌を記録する係であった事を生かして中隊全体の様相と兵士の目から見たコヒマでの戦闘とその後の後退戦闘の様子を非常に詳細に書いています。自身の記憶が曖昧なところは一部他の生存者の手記で補っている部分もあり一部時間の流れが整然としていないような部分もありますがこれはある意味やむをえない事でしょう。
 結果、読み物としては壮烈なコヒマ戦の様子、その後の悲惨な退却戦闘、一段楽してからの大尉になりすましての冒険的な行動と内容も変化に富みそこそこ面白いものとなっています。
 

感想・印象・考えたことなど
 わかる人にはわかるでしょうが近畿地方の某師団はこの本でもやはり他部隊からの評判はよくないようです。関西弁を話す兵や下士官が餓死者が出る退却路の傍らで非常に高い値段でおはぎを売っていた話とか出てきます。弱い、すぐに兵器を捨てるし統制を失う、ちょっと苦境に陥ると物乞い・詐欺師・追剥のような者がすぐに出る、など、あまりあからさまには言いませんが特にインパール作戦の生存者の書いた手記の中では概して評判が悪いのですが実際どうだったのか非常に気になるところです。私自身大阪弁でしゃべる人間は胡散臭くて軽薄で無責任に見えて大嫌いなのですがどうもそうした感情的なものだけではすまないような事実がやはりあったのではないかと思えます。

 もうひとつ、こうした激戦地からの生還者の手記を読んでよくわかるのは、前線からではなく主計とか輜重その他後方勤務要員からモラルの崩壊は始まるということです。どの戦場でも物資を隠匿している人間の話は出てきますし、輜重兵の逃亡などで前線への輸送が滞った物資が退却時に大量に放棄される様子というのも非常に良く出てきます。
 資源の量を問題にするのが世間では普通のようですが、そんなものはすぐにすぐどうなるものでも無い以上、軍事問題として考えるなら輸送能力と管理能力の不備をまず問題にするべきだとおもうのですがどうなのでしょう。

.
bil*a*d_va*enne
bil*a*d_va*enne
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
検索 検索

本好きさん他

登録されていません

歴史

登録されていません

投資

ブログ利用法

登録されていません

開​設日​: ​20​05​/2​/4​(金​)


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事